展示で対話する見知らぬ2人──「三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の手がかり 沈黙せず、目をそらさずに」【EDITOR’S NOTES】
イタリア文化会館で三島由紀夫とピエル・パオロ・パゾリーニの展示が開催中だ。文学・演劇・映画・社会批評を通じて発信し続けた2人の知性を対比する。

日本とイタリアの知性を代表する2人は会ったこともないのに、こんなに似通っていて、エロティシズムに溢れ、自己愛に満ちていたのかと感じ入った。7月29日まで、東京・九段下のイタリア文化会館で開催されている本展は、三島由紀夫(1925-1970)とピエル・パオロ・パゾリーニ(1922-1975)を展示で「対話」させる試みだ。両者を単に並列するのではなく、そのあいだに横たわる共鳴と緊張を浮かび上がらせる。
展示は「肉体」「責任」「文学」「映画」「劇場」「芸術連関」「社会」という7つのセクションで構成されているが、明確な順路はない。各セクションは放射状に並び、原稿や記事、写真、制作物など資料が豊富にそろう。来場者は自由に回遊しながら両者の軌跡を比較できる。三島の『奔馬』や『剣』などの直筆原稿は美しい筆致で、作家の文学的精緻さと肉体的な規律正しさが直に伝わってくる。奇しくも、先日逝去した美輪明宏──三島と相思相愛であった──が主演を務める戯曲『黒蜥蜴』のパンフレットや『金閣寺』を原作とした映画『炎上』(1958)のポスターなども並び、文学から演劇への越境が視覚的に実感できる。一方、パゾリーニでは『デカメロン』(1971)や『ソドムの市』(1975)のビジュアルやパンフレット、撮影現場スナップが並び、映画監督としての生々しい創作の現場が垣間見える。
写真の扱いも本展の大きな魅力だ。土門拳、篠山紀信による三島のポートレート、フェデリコ・ガロッラやサンドロ・ベケッティらによるパゾリーニの肖像が大きく展示され、両者の「肉体」と「公的イメージ」を強調する。筋肉質で演劇的な三島の姿と、激情を秘めたパゾリーニの眼差しを並べて見ると、身体性を武器に社会と対峙した2人の共通性が鮮明になる。そして強烈な自己愛を見せる。写真は単なる記録ではなく、彼らの内面を見事に表現している。
2人の思想的交差も興味深い。戦後日本の急速な西洋化と伝統の揺らぎを問い続けた三島に対し、パゾリーニは工業化し、消費社会となったイタリアの民衆文化・農村社会の均質化を批判した。異なる文化圏にありながら、近代化の「光と影」を鋭く捉え、文学・演劇・映画・社会批評を横断して発言し続けた点で深く響き合う。展示を通じて、両者が「沈黙せず、目をそらさずに」時代と向き合った姿勢が胸に迫る。特に「責任」と「社会」のセクションでは、公人としての彼らの葛藤が浮かび上がり、現代の文化画一化や記憶喪失に対する警鐘としても響く。
会場はコンパクトながら密度が高く、2人の複雑で捉えがたい人物像が並置されることで互いを照らし合い、新たな解釈を生む。時代を超えた知的刺激に満ちた、充実した展覧会だ。
三島由紀夫 ― ピエル・パオロ・パゾリーニ 対峙の⼿がかり 沈黙せず、⽬をそらさずに
会期:2026年6⽉26⽇(⾦)~ 7⽉29⽇(⽔)
場所:イタリア⽂化会館エキジビションホール(東京都千代田区九段南2-1-30)
時間:10:30~17:30
休館日:日曜日