恐竜化石は「コレクティブル」? ファレルのオークション「Joopiter」で約8億円落札
ファレル・ウィリアムスが手がけるオークション「Joopiter」で、トリケラトプスの骨格標本が約8億円で落札された。自然史標本として扱われてきた恐竜化石は、いまやジャンル横断的なコレクターに開かれた市場へと移行している。
ミュージシャン兼デザイナーのファレル・ウィリアムスが手がけるオークションプラットフォーム「Joopiter(ジョーピター)」で、トリケラトプスの化石が550万ドル(最新の為替レートで約8億7000万円、以下同)でオンライン販売された。アート・ニュースペーパーは、オンライン限定のオークションにおける恐竜化石の最高落札額を塗り替える結果だと報じている。
自然史標本からコレクティブルへ
「トレイ(Trey)」として知られるこの約6600万年前の骨格標本の売却は、オークション市場のより大きな潮流を裏付けるものでもある。すなわち化石や恐竜骨格は、自然史という孤立したカテゴリーから離れ、他の高額コレクティブルと同様に取引されるようになりつつあるということだ。ジョーピターではこれにあわせて、ガラス繊維製の頭骨レプリカ(695ドル、約11万円)やトートバッグ(100ドル、約1万6000円)といった関連グッズも販売された。
トレイは1993年、いわゆる「ボーン・ラッシュ」期にワイオミング州で発掘された全長5メートルを超える若年個体のトリケラトプスだ。その70%以上がオリジナルの化石で構成されており、発掘から所有履歴に至るまでの記録も完備されている。市場に出るまでの約28年間は、ワイオミング恐竜センターで一般公開されていた。
ジョーピターは、トレイの予想落札価格を450万(約7億2000万円)〜550万ドルに設定しており、その水準は的確だった。ライブ形式のイブニングセールに見られるような演出に頼ることなく、上限価格550万ドルで落札されたことは、こうした対象への需要がかつてその正当性を支えた「スペクタクル」に依存しなくなっていることを示している。
恐竜化石の価格を押し上げた“スペクタクル”
もっとも、そのスペクタクルは確かに役割を果たしてきた。過去5年間でオークションハウスは、恐竜骨格を本格的な資産として静かに再定義してきた。2020年、クリスティーズの20世紀イブニングセールに出品されたティラノサウルス・レックス「スタン(Stan)」は、3180万ドル(約50億円)で落札され、この分野を美術作品に匹敵するトロフィー資産として位置づける契機を作った。またサザビーズもその流れを加速させており、2025年には若年個体のケラトサウルスが、予想落札価格400万〜600万ドル(約6億4000万円〜9億5000万円)に対し、6人のビッダーによる6分間の入札競争の末に5倍超となる3050万ドル(約49億円)で落札。また2024年には「エイペックス(Apex)」と名付けられた恐竜が、予想最高額740万ドル(約12億円)に対し4460万ドル(約71億円)という記録的価格で取引されている。
変化したのは価格の上限だけではない。それを取り巻くインフラもまた刷新されている。化石は今や彫刻作品のようにカタログ化され、マーケティングされ、展示される。コンディションレポートでは完全性や修復状況が重視され、来歴資料は絵画と同様に扱われる。言語が変わり、それに伴って購買層も変化している。
そんな中で、ジョーピターの役割は象徴的だ。2022年に立ち上げられた同プラットフォームは、デザインやファッション、カルチュラル・エフェメラを軸に独自のアイデンティティを築いてきた。そこに550万ドルの恐竜が加わったことは、化石がもはや孤立したカテゴリーにとどまらず、ジャンルやプラットフォームを横断して収集する新たな層にも理解可能な存在になりつつあることを示している。
拡大する市場と研究・アクセスの緊張関係
もっとも、この拡張には既視感のあるトレードオフも伴うとアート・ニュースペーパーは指摘する。価格が上昇するにつれ、アクセスや研究をめぐる問題も深刻化する。商業的な発掘と学術的な古生物学のあいだには長らく緊張関係があり、記録的な落札が続くことで、重要な標本が私的所有へと流出する懸念は一層強まっている。
とはいえ、方向性は明確だ。550万ドルのトリケラトプスがオンラインで売れるという事実は、単なる話題作りではない。それは、あるカテゴリーがオークション・エコシステムに完全に組み込まれたときの「ミドルマーケット取引」の姿にほかならない。ヘッドラインを飾るのはサザビーズやクリスティーズかもしれないが、市場の次のフェーズは別の場所で試されている。(翻訳:編集部)
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