オークション「ミドルマーケット」は成長か消耗か──統合進む過渡期の実像
オークションの世界には、美術品・古美術品のほかにも「コレクティブル」と呼ばれる各種収集品や、家具やインテリアを含むデザインアイテムなどの分野がある。こうした分野に強く、中位から低価格帯の品を中心に扱う中堅オークションハウスの現状や、その経営面での課題をまとめた。

ある世界的なオークションハウスの元幹部が最近、業界で「ミドルマーケット」と呼ばれる分野に関する興味深い統計を教えてくれた。この用語の意味は各社によって異なるが、一般的には100万ドル(最近の為替レートで約1億5800万円、以下同)未満のロットや500万ドル(約7億9000万円)未満のコレクションが対象とされる。この情報筋によると、オークション業界全体で見た場合、100万ドル未満のロットが集める関心は(概念上)10%に満たない一方で、実際の取引では落札総額の50%、収益の70%を占めるという。
昨今は、全ての価格帯において諸経費の高騰と売り手による利益配分の拡大要求でオークションハウスの利益率が圧迫されているが、中でもミドルマーケットの環境はシビアだ。オークションハウスが落札者から受け取る手数料の一部を出品者に支払う「エンハンスド・ハンマー」や、落札価格にかかわらず最低保証額を出品者に支払うギャランティーといった複雑な取引は、かつては最高価格帯の作品に限られていた。しかし、それがミドルマーケットへと波及しつつあり、さらに参入するオークションハウスが増える中で過当競争が起きている。
ミドルマーケットの主要プレイヤーと市場の変化
この分野の代表的な企業には、ヘリテージ・オークションズ、ラゴ/ライト、ボナムズ、フリーマンズ、ドイルのほか、テキサスのヴォート、ニューヨークのステア・ギャラリーズ、ノースカロライナのブランク・オークションズなど、中小規模の地域密着型オークションハウスが数多くある。だが、ある地方オークション会社の幹部によると、かつては遺産管理を扱う弁護士の専売特許だった小規模な遺産相続案件にも、「最高価格帯の市場に精通したアドバイザーや仲介人が入り込み」、強気な取引を仕掛けてくるという。
また、信託や遺産を専門に扱う別の業界幹部は、ボナムズが著名人の場合を除いてこの分野からほぼ撤退し、その市場をドイルやフリーマンズ(昨年131件の信託・遺産案件を扱ったと報告)、および小規模なローカル業者が占めるようになったと話す。とはいえ、買い手側に需要不足が生じているわけではない。ステア・ギャラリーズは昨年、キャロル・ハリスの装飾美術コレクションで450万ドル(約7億1000万円)を売り上げたが、これは事前の予想落札額の3倍に相当する。
バンク・オブ・アメリカと調査会社のアートタクティックが発表した2026年のUSアート市場レポートによると、2025年のアメリカ国内における三大オークションハウス、すなわちクリスティーズ、サザビーズ、フィリップスの取引の94%は100万ドルを下回るものだった。また、この3社で落札された全作品のうち、5万ドル(約790万円)未満の作品が占める割合は61.3%と、コロナ禍前の2015年から2019年までの平均である48.2%を大幅に上回っている。しかし、5万ドルの絵画を販売する際の諸経費は、500万ドルの絵画の場合とそう変わらない。つまり利益は、たとえ得られたとしても、はるかに少ないのだ。

サザビーズではこれまで、落札価格100万ドル以上のロットに対するバイヤーズプレミアム(買主の手数料)は27%だったが、この2月に落札価格200万ドル以下の手数料を一律28%とした。ローカルのオークションハウスはこうした低価格帯での手数料率が低いため、この改訂は入札者を増加させるチャンスとなるかもしれない。ミドルマーケットのオークションハウスでは、ラゴ/ライトのバイヤーズプレミアムが100万ドルを超えるロットで22%、ボナムズは100万〜600万ドルで21%、フリーマンズは100万ドル以上で21%、ドイルズは100万〜400万ドルで21%となっている。ヘリテージ・オークションズは、価格帯ごとのバイヤーズプレミアムを設けず、カテゴリーごとに異なる割合を適用しており、コインやコミック、スポーツ関連品の手数料は22%、美術品、エンタテインメント、歴史的収集品は25%だ。
ミドルマーケットの収益率が厳しくなっているもう1つの要因は、インヴァリュアブルやオークション・テクノロジー・グループ(ATG)傘下の第三者オークションサイト、ライブオークショニアーズ、プロキシビッド、ザ・セールルームなどが利益の一部を手数料として徴収していることにある。こうしたオンラインオークションサイトは小規模なオークション企業が幅広い入札者にリーチする助けにはなるものの、ATGが2020年にプロキシビッドを、2021年にライブオークショニアーズを買収して業界の支配権を握って以来、「我われを食い物にするハゲタカ」になってしまったと、昨年ある地方オークションハウスの代表がこぼしていた。なお、一部のオークションハウスは、これらのサイトを通じて入札する顧客には第三者手数料をかけている。たとえば、ヘリテージ・オークションズの第三者手数料は5%だ。
売り上げ拡大が続くヘリテージ・オークションズ
こうした状況の中、ミドルマーケットのオークションハウスの業績にはかなりばらつきがある。昨年、ダラスに本社を置くヘリテージ・オークションズは、50のカテゴリーで21億6000万ドル(約3400億円)の売り上げを達成し、4年連続で過去最高記録を更新。総売上高でフィリップスやボナムズを抜き、クリスティーズ、サザビーズに次ぐ第3位となっている。
コレクティブル分野のオークションハウスとして知られるヘリテージは、収集家が懐古趣味で集めた品が資産価値を生むようになった現在のコレクティブルブームの恩恵を受けている。昨年ヘリテージで落札価格が高騰した例としては、落札価格912万ドル(約14億4000万円)の『スーパーマン』初版本(1939)や、1293万ドル(約20億4000万円)に達したアッパーデック社のデュアルロゴマンカード(マイケル・ジョーダンとコービー・ブライアントのサイン入りトレーディングカード)が挙げられる。また、美術品や装飾美術の分野においても目覚ましい実績を上げており、ノーマン・ロックウェルの4連絵画《So You Want to See the President(大統領に会いたいですか)》(1943)が725万ドル(約11億5000万円)で、七宝細工をあしらったファベルジェのパンチボウルは75万ドル(約1億1850万円)で落札された。

ヘリテージは今月初め、同社に13年間在籍するアメリカ美術の専門家、アビバ・レーマンがファインアート部門の副チェアマンに任命されたことを発表した。彼女は昨年、同社史上最大のアメリカ美術オークションを成功に導いている(売上高1476万ドル/約23億3000万円)。これは、13人のマネージングパートナーのうち12人が男性の同社にとって大きな前進と言えるだろう。また、ニック・ニコルソンが装飾美術部門の副チェアマンに昇進した。
この人事は、美術品市場を本格的に開拓したいというヘリテージの意向を示している。バンク・オブ・アメリカのレポートによると、2025年のアメリカにおけるファインアートの購入で最大のシェアを占めたのは、カリフォルニア州を中心とする西部で35%だった。これは5万ドル(約790万円)未満の購入件数がとりわけ多かったことに後押しされた結果だ。次いで、テキサス州とフロリダ州を牽引役とする南東部が28%を占めている。そして、100万ドル(約1億5800万円)超のロットについては、西部のシェアが2020年の15%から昨年は31%に増加した。
ラゴ/ライトはM&Aが奏功して成長中
5つのオークションハウスを擁するラゴ/ライト ネットワークは、昨年の売上高が1億3000万ドル(約205億4000万円)で過去最高を更新した。ニュージャージー州に拠点を置くラゴと、シカゴに拠点のあるライトは2020年に合併し、その後数年間でLAモダンオークションズとトゥーミー&カンパニーを傘下に収めている。こうして財務基盤と人的リソースを拡大した同社は、高額作品の獲得競争に加わることができるようになった。
リチャード・ライトCEOによると、同社が注力するのはテーマごとに出品物を厳選したオークションと単一所有者によるセールで、中心となるのは50万から150万ドル(約7900万〜2億3700万円)の価格帯のコレクションだ。その例としては、昨年予想落札価格の2倍以上となる108万ドル(約1億7000万円)で落札されたドナルド・ヘクトのジョージ・オア陶器コレクションや、150万ドル(約2億3700万円)で落札されたマイケル・ジェファーソンの美術品・デザインアイテムコレクションが挙げられる。信託・遺産部門を持たない同社は、元顧客が収集したコレクションの売却を扱うことが多いが、これは同社が高く評価されていることの裏付けと言えるだろう。
主に家具やインテリアなどのデザインアイテムの扱いで知られる同社は、美術品分野でも成長しており、ライトCEOによると今年の同分野の売り上げは5000万ドル(約79億円)を超える見込みだ。また、2024年にラゴ/ライト傘下でランドリー・ポップ・オークションズを立ち上げた新進気鋭のトラヴィス・ランディの力によって、コレクティブル部門も拡大している。
経営の仕切り直しを経たボナムズとフリーマンズ
これに対し、経営陣の入れ替わりでこのところ不安定な状態にあったのがイギリスに本拠を置くボナムズ、そしてフリーマンズだ。昨年の売上高が9億7000万ドル(約1533億円)のボナムズは、昨秋までオーナーだったプライベート・エクイティ企業エピリスから、主要債権者であるペンバートン・アセット・マネジメントに所有権が譲渡され、再出発を期している。英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、2024年の美術品市場低迷でエピリスの債務は膨れ上がっていたが、高級ブランドのピアジェを率いた経験を持つシャビー・ノウリ前CEOは、そうした苦境での舵取りには適任ではなかったようだ。ペンバートンへの事業移管に伴い、同社の旧経営陣は、スイスを拠点とする会長ハンス=クリスチャン・ホイスガード以外ほぼ全員が解任された。イギリスを拠点とする新CEOのセス・ジョンソンは、資産家マイケル・スペンサーのファミリーオフィスであるIGPLでCEOを務めていた人物だ。
ボナムズはこの混乱の中で多くの人材を失ったが、ある社員の証言によれば、新たな経営陣に対して社内は「慎重ながらも歓迎ムード」だという。およそ3900平方メートルの旗艦店をマンハッタンで新たにオープンした同社は、より高価値な資産やコレクションの獲得競争に参入する体制を整えつつある。しかし、オークション業界の誰もが、オークションハウスの運営を本業としない金融会社ペンバートンが、最終的に何を目指すのか首を捻っている。
一方のフリーマンズは、シカゴを拠点とするレスリー・ヒンドマン・オークショニアーズとフィラデルフィアのフリーマンズが2024年に合併した後、取締役会長ジェイ・クレビエルがオーナーとなり、最近リブランディングを完了している。昨年の売上高1億1900万ドル(約188億円)の牽引役となったのは、第16代アメリカ大統領のエイブラハム・リンカーンに関連する歴史的収集品のオークションで、落札額790万ドル(約12億5000万円)は同社の単一オークションの史上最高額となった。しかし、3年間CEOを務めたアリッサ・クインランが金融サービス会社のノーザン・トラストへ移ったため、この勢いを維持できるかどうかは未知数だ。同社の情報によると、現在はクレビエルが日々の業務を指揮している。
中小のオークションハウスが統合を進め、競争の激しい市場で独自のニッチマーケット獲得を目指すミドルマーケット分野は今、過渡期にある。しかし結局のところ、どこも同じ委託品をめぐる競い合いをしているのが現実だ。それでも、各社がコストの上昇やシビアな競争による利益率の低下を防ぐ方法を見出せれば、買い手側に需要があることは間違いない。(翻訳:清水玲奈)
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