METがジョン・ガリアーノ展の中止を決定──差別発言への批判の一方、「贖罪」をめぐり異論も
ニューヨークのメトロポリタン美術館は、2027年春に予定していたジョン・ガリアーノ展の中止を発表した。ガリアーノの過去の反ユダヤ主義的、反アジア的な言動への批判が相次いでいた中での決定だった。
ニューヨークのメトロポリタン美術館(以下、MET)は8月31日、2027年5月9日に開幕を予定していたファッションデザイナー、ジョン・ガリアーノの展覧会「John Galliano: Horizons」の開催を中止すると発表した。同展は、コスチューム・インスティテュートの春季大型展として、恒例のチャリティイベント「メット・ガラ」と連動して開催される予定だった。実現すれば、コスチューム・インスティテュートが存命デザイナーの個展を開催するのは、1983年のイヴ・サンローラン、2017年の川久保玲に続き3人目となるはずだった。
約15年前の人種差別的発言が再燃
展覧会をめぐっては、7月31日の発表直後から、ガリアーノが2010年から2011年にかけて行った反ユダヤ主義的、人種差別的、反アジア的な言動に批判が集まっていた。ガリアーノは2011年、フランスで人種や宗教などに基づく公然侮辱の罪により有罪判決を受けている。その後、ガリアーノは過去の言動について謝罪していた。
またガリアーノは、依存症の治療やカウンセリングを受けてきた。METは、展覧会の企画にあたってユダヤ系団体と協議したと説明していた。しかし批判の矛先は、過去の言動そのものだけでなく、世界有数の美術館であるMETがガリアーノ個人の功績に焦点を当てた大規模展を開催することの是非にも向けられた。最終的にMETはこうした懸念を払拭するには至らず、展覧会の発表以降、政治家や著名人らから中止を求める声が相次いだ。
中止が発表されたのは、ニューヨーク・タイムズが一連の批判について詳しく報じた数日後のことだ。抗議の多くは、METのキュレーターや幹部にメールで寄せられていたという。
批判者の1人が、ペース・ギャラリー創設者のアーニー・グリムシャーだ。報道によると、グリムシャーは自身の死後にMETへ寄贈する予定だった作品について、寄贈を取りやめる可能性を示唆したという。同紙は、美術館の理事らが今後の展覧会のあり方を協議する予定だとも伝えていた。
メット・ガラは例年、5月の第1月曜日に開催される。2027年の開催予定日にあたる5月3日は、その日没からヨム・ハショア(ユダヤ暦に基づくホロコースト犠牲者の追悼日)が始まるため、日程にも批判が向けられていた。なお、ガリアーノ展の開幕は、その6日後にあたる5月9日を予定していた。
ガリアーノ「真の償いは展覧会や制度的な承認ではない」
今回の決定について、METの館長兼CEOを務めるマックス・ホラインは声明で、「ジョン・ガリアーノと慎重に協議を重ねた結果、展覧会を開催しないことを共同で決定した」と説明した。
声明にはガリアーノのコメントも掲載され、過去の言動について次のように改めて謝罪している。
「熟慮を重ね、METやすべての関係者と話し合った結果、非常に残念ではありますが、現時点では展覧会を開催しないことが最善だと判断しました。過去の私の言葉によって生じた苦痛、とりわけユダヤ人やアジア系のコミュニティを傷つけたことについて、私は全面的に責任を負っています。今も深く申し訳なく思っています。真の償いは、展覧会や組織からの評価、あるいは一度きりの公的な意思表示によって果たされるものではありません。人々の声に耳を傾け、学び、日々の行動を通じて示し続けなければならない責任です」
ガリアーノはさらに、次のように続けた。
「私をめぐる議論によって、METを難しい立場に追い込んだり、コスチューム・インスティテュートの素晴らしい仕事から人々の関心をそらしたりすることは望んでいません。また、私の仕事を称える展覧会が、一部の人々に苦痛を与え得ることも理解し、その思いを尊重しています」
また、アルコール依存症や薬物依存症からの回復に取り組み、断酒を続けてきた15年間を振り返り、「私を導き、支え、寄り添ってくださったすべての方々に、心から感謝を伝えたいと思います。皆様の知恵と忍耐、思いやりは、言葉では到底言い表せないほど私を支えてくれました」と謝意を示した。
コスチューム・インスティテュートの責任者を務めるキュレーター、アンドリュー・ボルトンも、「この展覧会が引き起こした苦痛と懸念を認識しています。十分な協議を経て、開催を見送る決定を支持します」とコメントした。
中止決定後、ガリアーノの「贖罪」を問う声も
METの理事でメット・ガラの共同議長を務めるヴォーグのグローバル・エディトリアル・ディレクター、アナ・ウィンターは、「これは正しい決断だ」と評価し、ガリアーノの判断を「非常に勇気あるもの」と称えた。一方で、その創造性と技術を高く評価し、「彼の世代を代表するクチュリエ」と称賛。現ディオールのクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンをはじめ、後続世代のデザイナーにも大きな影響を与えてきたと強調した。
ガリアーノは、展覧会中止に関する声明を自身のインスタグラムにも掲載した。その投稿には、自らをユダヤ人だとする女性から、「ジョン・ガリアーノは現代を代表する偉大なデザイナーの1人です。彼は15年間にわたって断酒を続け、自らの行為に繰り返し責任を認め、その間、変化し続けてきました。私たちはいつになったら、人々に贖罪の可能性を認めるのでしょうか」との意見が寄せられた。
このほかにも、「美術館は、アーティストのあらゆる行為を是認することなく、その優れた芸術作品を評価できます。後悔や更生、贖罪の余地を一切認めなければ、『キャンセル・カルチャー』は責任の追及ではなく、恒久的な罰になってしまいます」といった擁護の声が相次いでいる。
ガリアーノ展に代わるコスチューム・インスティテュートの春季展は、現時点では明らかになっていない。METは、新たな展覧会と2027年のメット・ガラについて、詳細を後日発表するとしている。(翻訳:編集部)
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