約16億円相当のルノワール4点、早朝の美術館から盗難──犯人は2点を庭に放置、2点は行方不明
- TEXT BY HIKMAT MOHAMMED MAXIMILÍANO DURÓN
フランス南部のルノワール美術館から、2人組が総額900万ユーロ(約16億円)相当のルノワール絵画4点を盗み出し、うち2点を持って逃走した。各地の美術館で窃盗が相次ぐなか、文化施設の防犯体制があらためて問われている。
フランス南部カーニュ=シュル=メールにあるルノワール美術館で9月8日早朝、印象派を代表する画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの絵画4点が盗まれた。ル・モンドとAFP通信が報じた。
わずか数分の犯行
現地時間午前5時48分に美術館の警報装置が作動し、警察は通報から5分以内に現場へ到着したという。2人の犯人は、持ち出した4点のうち2点を美術館の庭に置き去りにしたものの、残る2点を持って逃走した。4点の評価額は計900万ユーロ(現在の為替で約16億円)に上る。
同館は、ルノワールが晩年を過ごした邸宅を美術館として公開した施設で、絵画や彫刻、ゆかりの家具などを展示している。事件当時、館内ではルノワールの絵画12点が公開されていた。
持ち出されたのは、《マダム・ピションの肖像》(1895)、《マダム・コロンナ・ロマーノの肖像》(1913年頃)、《読書するココ》(1905)、《井戸端の女》(1886頃)の4点。このうち、《マダム・コロンナ・ロマーノの肖像》と《井戸端の女》は現在も行方が分かっていない。

カーニュ=シュル=メール市長のブリアン・マソンによると、犯人らは「庭園を走って逃げた」という。マソンは、「ルノワール美術館を襲うことは、カーニュ=シュル=メールの歴史と文化遺産の一部を攻撃することにほかなりません」と犯行を非難した。ニューヨーク・タイムズによると、犯人らは電動工具や金属用のこぎりを使い、絵画を固定していた金具を切断したという。
今夏、パリのオルセー美術館ではルノワールの絵画40点を集めた大規模展「Renoir and Love」が開催された。同展は10月3日からロンドンのナショナル・ギャラリーへ巡回する。
小美術館を狙った窃盗事件が急増
近年、大都市圏から離れた小規模な美術館を標的とする窃盗事件が相次いでいる。
イタリア警察は8月、同国北部パルマ近郊のマニャーニ・ロッカ財団から3月に盗まれた絵画3点を回収した。ポール・セザンヌの《さくらんぼのある静物》(1890)、アンリ・マティスの《テラスのオダリスク》(1922)、ルノワール晩年の作品《魚》(1917)で、総額900万ユーロ(約16億円)以上と評価されている。BBCは3月、このうち唯一の油彩画である《魚》が最も高額で、推定600万ユーロ(約10億7000万円)に上ると報じていた。
フランスでは、ルーブル美術館から総額1億200万ドル(約156億円)相当の宝飾品が盗まれた大胆な窃盗事件以降、複数の美術館が被害に遭っている。ラングルにある、哲学者ドゥニ・ディドロと18世紀の啓蒙思想を紹介する博物館「メゾン・デ・リュミエール・ドゥニ・ディドロ」からは約2000枚の金貨と銀貨が、ブルゴーニュ地方のシャティヨネ地方・ヴィックスの宝物博物館からは、約2500年前につくられた金製のトルク(首飾り)が盗まれた。
一連の事件を受け、フランス文化省は7月、33項目からなる文化施設の安全対策計画を発表した。安全が確保されるまで脆弱な文化財を一時的に収蔵庫へ移すことや、美術館に対する抜き打ちの安全監査などが盛り込まれている。
美術品盗難情報の国際データベースを運営するアート・ロス・レジスターで、回収部門責任者兼法律顧問を務めるジェームズ・ラトクリフは、今回の事件について次のように語った。
「ルノワール作品4点が盗まれた今回の事件は、美術館の防犯対策が複雑な課題であることを、悲しいかたちであらためて示しています。美術館は、素材そのものに価値がある貴金属や宝石を狙う犯罪への対策を進めてきました。しかし同時に、従来型の美術品窃盗にも引き続き警戒しなければなりません」
さらにラトクリフは、美術館の警備には長期的かつ十分な資金投入が不可欠だと訴えた。
「この事件は、美術館の警備に投資する緊急性を、またしても浮き彫りにしました。フランス政府が7月に発表した安全対策計画も、十分な予算と長期的な取り組みが伴わなければ成功しないでしょう。追加の資金が投じられなければ、美術館を狙う窃盗事件はさらに増える可能性があります」
また、事件が起きるたびに、美術館は比較的狙いやすい場所だという印象が強まるとも指摘。「その印象が、一部の犯罪者に美術館を容易な標的だと考えさせることになりかねません」と警告した。(翻訳:編集部)
from ARTnews

盗まれた「ルーブル美術館の至宝」が明らかに。計り知れない価値を持つ宝飾8点、犯人は逃走中
10月19日、パリのルーブル美術館にプロの窃盗団が侵入し、王室の宝飾品コレクションが展示されている「ギャラリー・アポロン」から「計り知れない価値」を持つジュエリー8点が盗まれた。写真はウジェニー皇后のティアラ。Photo: Courtesy of Louvre Museum

マリー=アメリー王妃およびオルタンス王妃のパリュール(宝飾セット)。

マリー=ルイーズ皇后のパリュールのエメラルドのネックレス。Photo: Courtesy of Louvre Museum

マリー=ルイーズ皇后のパリュールのエメラルドのイヤリング。Photo: Courtesy of Louvre Museum

「聖遺物容器」ブローチ。Photo: Courtesy of Louvre Museum

ウジェニー皇后の大型コサージュ・ボウ(ブローチ)。Photo: Courtesy of Louvre Museum

ルーブル美術館強盗の裏で新たな事件。フランスの博物館で「1600万円相当の硬貨」を狙いすまして襲撃
ルーブル美術館で強盗事件が起こった10月19日、フランス北東部にあるラングレのドゥニ・ディドロ啓蒙の館でも約2000枚の金貨と銀貨が盗まれていたことが分かった。硬貨の推定価値は約9万ユーロ(約1600万円)とされる。
Photo: Wikimedia Commons

窃盗団により盗まれた、ドゥニ・ディドロ啓蒙の館の展示品の金貨と銀貨。Photo: X/@nexta_tv
オークランド美術館で1000点超の盗難。過去15年間で3度目、米文化遺産の深刻な損失
カリフォルニア州オークランドにあるオークランド・ミュージアム・オブ・カリフォルニア(OMCA)の収蔵庫から1000点以上の文化財が盗まれ、FBIが捜査を進めている。
Photo: Courtesy Oakland Museum of California

単独、もしくは複数からなる窃盗犯がOMCAの別棟保管施設に侵入し、宝飾品、貴金属や真珠、ネイティブ・アメリカンの籠や道具、アンティークのダゲレオタイプ写真、政治的バッジなどのエフェメラ(一次的な印刷物)を含む多数の文化遺産を盗んだという。写真は盗まれたOMCA所蔵の文化遺産。Photo: Courtesy Oakland Museum of California

盗難されたOMCA所蔵の文化遺産。Photo: Courtesy Oakland Museum of California

7億円相当の「黄金の兜」強奪事件、容疑者逮捕も盗品は行方不明。当局は「盗品追跡に全力を注ぐ」
今年1月、オランダ・ドレンツ美術館のドアが爆破され、約7億円相当の黄金の兜などが盗まれた。4月23日に事件の容疑者2人が新たに逮捕されたが、ルーマニアの貴重な古代遺物は依然見つかっていない。Photo: Courtesy the Dutch Police
ピカソの絵画、列車輸送中に姿を消す。目的地目前で一晩停車、不可解な空白時間に何が起きた?
パブロ・ピカソ(1881-1973)の絵画《ギターのある静物》(1919)が、展覧会出品のためにスペイン・マドリードからグラナダへの輸送途中に行方不明となる事件が起こった。
Photo: George Stroud/Daily Express/Hulton Archive/Getty Images
マティスの版画を狙った白昼の盗難事件、容疑者の1人を特定。超希少本『ジャズ』も標的に?
ブラジル・サンパウロのマリオ・デ・アンドラーデ図書館で開催されていた「本から美術館へ」展の会場に武装した2人組が押し入り、アンリ・マティスの版画8点とブラジルの巨匠カンディド・ポルティナリの版画5点を盗んで逃走した。
Photo: Nelson Almeida/AFP via Getty Images.
重要遺物「ファラオの金の腕輪」を盗んだ罪でエジプト博物館職員が逮捕。60万円で売却、溶かされる
エジプト・カイロの文化当局は9月16日、エジプト博物館から3000年前のアメンエムオペ王の純金製腕輪が盗まれたと発表。その2日後、修復担当の博物館職員が腕輪を持ち出して4025ドル(約60万円)で売却、溶かされていたことが明らかになった。
Photo: via Getty Images

エジプト観光・考古省が発表した、エジプト博物館で盗まれたアメンエムオペ王の純金製腕輪の画像。Photo: Facebook/Ministry of Tourism and Antiquities

パリの有名博物館から1億円相当の金標本が盗まれる。館長は「極めて専門的なチームによる犯行」と証言
9月16日の早朝に、フランス・パリ5区にある自然史博物館に窃盗団が侵入したとFrance24が報じた。窃盗団はアングルグラインダーとバーナーを使って博物館に侵入し、地質学・鉱物学ギャラリーから精製されていない金(自然金)の標本数点を盗み出した。その中には、同館の宝物と呼ばれている、9×8.5センチの自然金と石英の標本があった。
Photo: Wikimedia Commons

ポンペイ遺跡で観光客が石を持ち出し、加重窃盗容疑。約26万の罰金の可能性
ポンペイ考古学公園の夜間ツアーに参加したスコットランド人男性が石5個とレンガ1個を盗んだとして、イタリア当局に通報・告発された。考古学公園の規則では、遺跡の遺産を保護するため、いかなる物品や破片の持ち出しを禁じている。男性は加重窃盗罪で告発されており、もし起訴されて有罪となれば最大6年の懲役と1500ユーロ(約26万円)の罰金が科される可能性がある。
Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

盗まれた幻のギブソンがメトロポリタン美術館に? 元ローリング・ストーンズのメンバーが異議
2025年5月、メトロポリタン美術館に500本のギターコレクションが寄贈されて話題になった。だがローリング・ストーンズの元ギタリスト、ミック・テイラーは、その中に自身がかつて所有し、1970年代に盗まれたギブソン・レスポール・スタンダードがあると主張している。
Photo: Michael Putland/Getty images
中国最高峰の博物館で元館長が「大規模窃盗と密輸計画」主導の疑い。本物を虚偽鑑定させた可能性も
中国当局は、国立南京博物院の元院長が同院の所蔵品を本物の作品ではないと虚偽鑑定させ市場で売却したという疑惑のもと本格的な調査を開始した。中国を代表する国立博物館を舞台にしたこの問題は、文化財管理体制そのものへの信頼を大きく揺るがしている。
Photo: Courtesy Nanjing Museum

銀価格高騰の影で博物館が標的に──オランダで貴金属美術品の盗難相次ぐ
オランダ東部ドゥースブルフの教会内にある博物館で、歴史的に貴重な銀器のコレクション全品が盗まれる事件が発生した。博物館職員によると、被害に遭ったのは300点以上の「かけがえのない」品々で、その価値は数百万円に上るという。
Photo: Getty Images
大英博物館元スタッフ、350点以上の版画を盗み市場で売却。新刊ノンフィクションが事件を詳述
1970年代に大英博物館の版画・素描部門元スタッフが350点以上の版画を盗み、一部をアンティーク市場で売却した事件について、新刊ノンフィクションが詳細を明らかにした。
Photo: Leon Neal/Getty Images

麻薬捜査で22億円超の盗難ピカソ作品を発見。美術品保管倉庫の警備員が犯行認める
パリ郊外の民家に薬物捜査で踏み込んだ警察官が、盗まれたパブロ・ピカソ(1881-1973)の絵画を発見した。作品の評価額は約1370万〜1710万ドル(約22億1000万〜27億6000万円)とされている。写真は母マリー=テレーズ・ワルテルの肖像画の前に立つ娘マヤ・ルイス=ピカソ。1981年撮影。Photo: Keystone/Hulton Archive/Getty Images
約3500万円相当の希少な「中国手稿」を偽物とすり替え。盗んだ男に有罪判決
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の図書館から、約3500万円相当の中国手稿を盗み、偽物とすり替えた男に有罪判決が下された。男は複数の偽名を使って希少本を借り、白紙のダミー本を返却していたという。
Photo: Jay L Clendenin/Getty Images
厳重警備を突破、正面玄関から逃走──仏博物館で2500年前の金の首飾りが盗まれる
フランス東部の博物館で、約2500年前の金の首飾りが盗まれる事件が起きた。相次ぐ窃盗未遂を受けて警備を強化していたが、犯行グループの侵入を防げなかった。
Photo: Courtesy Musée du Pays Châtillonnais – Trésor de Vix