7億円相当の「黄金の兜」強奪事件、容疑者逮捕も盗品は行方不明。当局は「盗品追跡に全力を注ぐ」
今年1月、オランダ・ドレンツ美術館のドアが爆破され、約7億円相当の黄金の兜などが盗まれた。4月23日に事件の容疑者2人が新たに逮捕されたが、ルーマニアの貴重な古代遺物は依然見つかっていない。

オランダの警察当局は、今年1月にアッセンのドレンツ博物館からルーマニアの古代遺物が強奪された事件で、新たに2人の容疑者を逮捕したと発表。4月24日付の声明では、「容疑者は20歳の男と18歳の男で、ともにヘールフゴヴァールト在住。2人はドレンツ美術館での窃盗に関与した疑いで取り調べを受けることになる。盗まれた品は見つかっていない」とされている。
この事件で盗まれたのは、紀元前450年頃のコツォフェネシュティの黄金の兜と、バルカン半島に居住していた古代ダキア人の黄金の腕輪3点。兜は1キロほどの重量があり、子羊を生贄に捧げる場面や着用者の額にあたる部分の一対の目など、精巧な装飾が施されている。事件後にオランダの地方局RTVドレンテが報じたところによると、兜は430万ユーロ(約7億円)、3つの腕輪はそれぞれ50万ユーロ(約8100万円)の価値がある。
2人の容疑者逮捕の第一報を伝えたオランダの英字紙NLタイムズによれば、20歳の容疑者はアッセンの工具用品店の防犯カメラの映像から特定された。この人物は、「金槌や大型ハンマーを購入し、それが数日後の事件で使われた道具と似ていたことから容疑者として浮上した」という。この防犯カメラの映像は、オランダ警察のウェブサイトやフェイスブック、インスタグラムで公開され、情報提供が呼びかけられていた。
4月23日の容疑者2人の逮捕に先立ち、警察はオプメールにある容疑者宅とヘールフゴヴァールトのオフィスを家宅捜索。声明によれば、捜査当局は押収したデータ記憶媒体を重要視している。また、逮捕直後にヘールフゴヴァールトのもう1人の容疑者宅を捜索したが、盗まれた遺物は見つからなかった。声明では「ドレンツ美術館から盗まれた古代遺物の捜査は、今回の逮捕で終わりではない。我われは盗品の追跡に全力を注ぐ」と述べられている。また、容疑者2人が逮捕されたため、ウェブサイトなどで公開した映像を削除し、画像を共有した人にも削除するよう要請した。
これまで捜査当局は、1月29日に3人、2月に1人、4月15日に1人の容疑者を逮捕し、そのうち4人が現在拘留されている。2月には、ルーマニアのブカレストを拠点とするオランダ人実業家アレックス・ファン・ブレーマンが、盗品の回収につながる重要な情報への報奨金を、10万ユーロ(約1600万円)から25万ユーロ(約4000万円)に増額すると発表した。
盗まれた古代遺物は、ルーマニア国立歴史博物館からの巡回展「Dacia – Empire of Gold and Silver(ダキア─金と銀の帝国)」の展示品の一部で、2024年7月からドレンツ美術館に陳列されていたもの。
ルーマニアのイオン=マルチェル・チョラク首相は事件当時、盗まれた品々は「計り知れない価値がある」と語り、ドレンツ博物館のハリー・トゥパン館長は美術館にとって「暗黒の日」とコメント。声明で、「私たちは昨夜の出来事に大きなショックを受けています。170年の歴史の中で、このような大事件は一度もありませんでした」と述べている。(翻訳:石井佳子)
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