中国最高峰の博物館で元館長が「大規模窃盗と密輸計画」主導の疑い。本物を虚偽鑑定させた可能性も
- TEXT BY DANIEL CASSADY
中国当局は、国立南京博物院の元院長が同院の所蔵品を本物の作品ではないと虚偽鑑定させ市場で売却したという疑惑のもと本格的な調査を開始した。中国を代表する国立博物館を舞台にしたこの問題は、文化財管理体制そのものへの信頼を大きく揺るがしている。
中国当局は、江蘇省南京市にある国立南京博物院の元院長が、同院の所蔵品を本物の作品ではないと虚偽鑑定させ市場で売却したという疑惑について調査を開始した。
江蘇省南京市にある国立南京博物院は、1933年に中華民国政府の下で「国立中央博物館」として開館した。第2次世界大戦中には、北京から疎開してきた故宮博物院の所蔵品の一部を保護したことで知られ、北京故宮博物院と並ぶ中国最高峰の総合博物館として中核的な役割を担ってきた。
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、今回のスキャンダルが表面化するきっかけとなったのは、明代16世紀の画家キュウ・エイ(仇英)による絵画《江南春(Spring in Jiangnan)》が今年5月、北京のオークション・カタログに掲載されたことだった。この作品は、著名な美術コレクターであるパン・ライチェン(龐莱臣)の家族が1959年に同院に寄贈した137点の美術品のうちの1点。カタログでは、本作には8800万元(約19億6000万円)の推定評価額がつけられていた。
これを知ったパンの子孫は、オークションへの出品を中止させ、博物院に対して訴訟を起こした。
裁判所命令に基づき実施された同院所蔵品の棚卸し調査では、《江南春》を含む5点の作品が行方不明であることが判明。これについて博物院側は、この絵画とパンによる他の寄贈作品4点については1960年代に贋作と判断され、1997年に正式に収蔵解除されていたと説明。さらに、《江南春》は2001年に省が管轄する文化財取引機関である文物商店に6800元(約15万円)で売却されたという。だが、この作品がどのような経緯で市場に流通し、高額な評価額でオークションに出品されるに至ったのかは明らかにされていない。パンの子孫は博物院の説明に異議を唱え、関連文書の提出と、贋作とされた5点の返還を求めている。
一方で今週末、南京博物院の元職員グオ・リーディエン(郭立典、80歳)は、2001年から2005年まで同館の院長を務めたシュー・フーピン(徐湖平、82歳)が、国家的文化財の大規模な窃盗および密輸計画を主導していたと公に告発。グオは動画による声明の中で、シューが本物の作品を複製品であると虚偽鑑定させ、それらを文物商店を通じて流通させたうえで、国内外で転売していたと主張した。
だが、これらの中に、同院から消えた《江南春》を含む5点の所蔵品が含まれるかは明らかになっていない。さらに、第2次世界大戦後に南京で保管されていた故宮博物院所蔵の10万点以上の文物が収められた木箱を、シューが不適切に開封したとも述べている。これらの告発に対し、シューは「自分は絵画鑑定の専門家ではない」と述べ、関与を否定している。
これら一連の出来事は、当局が中国を文化大国に位置づけようとする方針の中で、国立博物館の収蔵・管理体制そのものに疑問を投げかける事態となっている。国家文物局は12月23日、疑惑を調査するための特別作業班を設置したと発表。江蘇省当局も部門横断的な調査を開始し、南京博物院も内部調査を進めていると明らかにしている。当局は、違反行為が確認された場合には厳正に処罰するとともに、調査の進展について公表していくという。(翻訳:編集部)
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