仏「椅子の父」が偽造アントワネットの椅子で7億円を荒稼ぎ。ベルサイユ宮殿やカタール王子も被害
18世紀のフランス家具の専門家らがベルサイユ宮殿やカタールの王子に偽の家具を販売し、450万ユーロ(約7億3000万円)もの利益を得たとしてフランス当局に起訴され、裁判が行われている。贋作数点は国宝にも指定されていた。

ベルサイユ宮殿やカタールの王子に偽の家具を販売したとして、18世紀のフランス家具の専門家ビル・パロットと有名木工職人ブルーノ・デヌら6人がフランス当局に起訴され、3月25日からパリ近郊のポンテーで裁判が行われているとニューヨークタイムズが伝えた。
ビル・パロットは大学卒業後、パリのアンティークディーラー、ディディエ・アーロン・ギャラリーの家具・美術品部門を30年近く担当し、18世紀の椅子に関する書籍を数冊出版。べルサイユ宮殿で開催された大規模な展覧会「18世紀:フランスデザインの誕生。家具の傑作、1650年~1790年」の学術委員会のメンバーにも名を連ねた。フランスのメディアではおなじみの人物で、「ペール・ラ・シェーズ(椅子の父)」というあだ名で呼ばれていた。ブルーノ・デヌは1984年に装飾彫刻部門でフランス最優秀職人賞を受賞した人物で、パリで最も有名な家具修復工房を経営していた。
Euro Weeklyが伝えるところによると、2人は2008年頃から偽造の家具を作り始めた。最初は、アンティーク家具が見事に修復されていく様子を見て、専門家を欺く能力を試すために「遊び半分」で詐欺を始めたと言われている。材料は、オークションで安く購入した本物のアンティークの椅子のフレームだった。その好奇心は、何年にもわたる詐欺行為へと発展した。
パロットとデヌは職人たちと協力して、マダム・デュ・バリーの居室にあったドゥラノワ様式の椅子3脚や、「子午線の間」にあったセネの羊飼いの椅子とジャコブの椅子を制作。これらの品々は最終的にべルサイユ宮殿が入手したとLe Pointは伝えている。

またLe Journal des Artsによると、パロットは冗談半分で「市場とべルサイユの権威に挑戦する」ために、小トリアノンのマリー・アントワネットのベルヴェデーレ宮殿の椅子8点組のうちまだ見つかっていない2点を複製しパリのクレメール・ギャラリーに20万ユーロ(現在の為替で約3200万円)で売却。すると2013年12月にこれらの椅子は「国宝」に指定された。だがべルサイユ宮殿は購入せず、カタールの王子が200万ユーロ(同・約3億2300万円)で購入したという。
彼らの犯行が発覚したのは2014年のことで、最初に警鐘を鳴らしたのはパロットの教え子だったチャールズ・ホーリマンだとニューヨークタイムズは伝えている。2018年、ホーリマンはヴァニティ・フェア誌のインタビューで、彼は師と同じ職業に就いたが、業界内のバイヤーとの会話や、パロットが流通させているアンティークの量が不自然に多いことに疑問を抱くようになったと振り返った。
2012年に、パロットが出品したルイ15世の長女であるルイーズ・エリザベス王女の所有物とされていた折りたたみ式のベンチ2脚を目にした時、彼はそのベンチを検査せざるを得なかった。ホーリマンは「その椅子を舐めてみると、なんと、詐欺の味がしたのです」とヴァニティ・フェアに語っている。修復の名人たちが用いる手法に精通していた彼は、パロットが好んで利用していた木工職人、デヌが用いたトリックを見破った。彼は、溶かした甘草を塗ることで新しい木材に古びた風合いを与えていたのだ。
こうして悪事が明らかになったものの捜査は長期に渡り、パロットに正式な召喚状が届いたのは2023年になってからだった。3月25日から始まった裁判では、パロットとデヌ、贋作を販売したクレメール・ギャラリー、デヌの資金洗浄に協力した疑惑でヴァル=ドワーズ県在住のポルトガル人夫婦が起訴されている。裁判では、彼らが贋作で得た利益は450万ユーロ(約7億3000万円)におよぶと明かされた。
パロットは実刑判決を受ける可能性もあるが、裁判に先立って受けたル・パリジャン紙の取材に対して、裁判で弁明し、情状酌量の余地を見出したいと語った。一方で、警察の捜査で自宅から現金20万ユーロ(約3200万円)が出てきたデヌーは、「私はお金にはあまり興味がありません」と主張している。