パリの美術館が中国の要求で「チベット」の名を削除か。フランス4団体が美術館を提訴

パリの国立ギメ美術館が中国の要求に従い、展示から「チベット」の名を削除したとして、フランスの4つの親チベット団体が提訴した。

パリ16区のギメ美術館。Photo: Wikimedia Commons

パリ16区にあるギメ美術館は、アジア域外で最大級のアジア美術コレクションを誇る。同館は仏中外交関係樹立60周年を迎えた昨年、ネパール・チベット・ギャラリーを「ヒマラヤ世界」に改名。コレクションの説明から「チベット美術」の言及を削除した。フランスの4つの親チベット団体はこれについて「美術館は中国のロビー活動に同調しており、チベットの文化的アイデンティティを抹消しようとしている」と非難し、このほど訴訟に踏み切ったとアートネットが伝えた。

訴状によると、同団体はギメ美術館の変更は「科学的または歴史的根拠を欠き」、同館の法定使命である「教育、研修、研究への貢献」に違反していると主張しており、原告の代理人であるリリー・ラヴォンとウィリアム・ブルドンはAFPの取材に対し、「政治的な動機で、ギメ美術館が中国のロビー活動に歩調を合わせようと意図的に選択しているのは明らかです」と語った。

1950年の中国によるチベットへの武力侵攻以来、チベットは中国政府の公式には「自治区」の一つとされている。中国側はチベットのアイデンティティと同地域に対する主権をおびやかす事柄には非常に敏感であり続けており、その一環としてチベット仏教寺院の破壊や僧の弾圧が行われてきた。

ギメ美術館館内。Photo: Wikimedia Commons

ギメ美術館側は、AFPの取材に対して、「文化を不可視化したり、チベットのアイデンティティを否定する意図はありません」と同団体の主張を否定し、「『ヒマラヤ世界』という表現は、この広大で複雑な地域における文化交流の豊かさを強調するためでした」と説明した。

昨年約30人の研究者によって発表された、ギメ美術館の表記変更に抗議する公開書簡では、同館に隣接するアジア、アフリカ、アメリカなどの民族芸術を紹介するケ・ブランリ美術館がチベットの物品を「チベット自治区」ではなく中国側の呼び名「西蔵自治区」起源として再分類したことも明かされた。これに対して同館の広報担当者は、常設コレクションのプレートでチベットという名称を今でも使用しており、名称の使用を止めたことは一度もないと説明。そして、「同館はプログラム、展示など全ての活動の内容を管理しています。その職業的誠実性と機関の自律性は、金銭的または政治的利益によって決して危険にさらされることはありません」と付け加えた。

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