SANAA設計の「ロスコ・ルーム」構想が明らかに。DIC川村記念美術館の所蔵品は2030年に六本木へ
DICと国際文化会館は、アート・建築分野を起点とする協業プロジェクトの本格始動を発表した。建築ユニットSANAAが国際文化会館の敷地内に設計する新たな常設展示施設と、その中核となる「ロスコ・ルーム」のデザイン構想が公開され、ロスコの「シーグラム壁画」7点を含む戦後美術の名作が、2030年に移設される。

2025年4月1日から休業しているDIC川村記念美術館のコレクションを継承する新たな展示施設が、DICと国際文化会館の協業によって計画されている。2030年、国際文化会館の敷地内に完成予定の新西館では、同館が所蔵してきたマーク・ロスコの「シーグラム壁画」7点をはじめ、ジャクソン・ポロックやフランク・ステラ、サイ・トゥオンブリーらによる戦後アメリカ美術を中心とした20世紀美術作品群が展示される見通しだ。
常設展示室「ロスコ・ルーム」の設計を手がけるのは、妹島和世と西沢立衛による建築ユニット「SANAA」だ。両者は本プロジェクトにあたり、DIC川村記念美術館やテキサス州ヒューストンのロスコ・チャペル、ロンドンのテート・モダンに展示されているロスコ作品の空間を実際に訪れ、作品と空間のあり方について理解を深めたという。
庭園と建築をつなぐ「ロスコ・ルーム」
地下展示室内に設けられる「ロスコ・ルーム」は、七代目小川治兵衛による庭園と建築との関係性を起点に構想された空間だ。来館者は、新設されるエントランス庭園に囲まれたエントランスホールを抜け、自然光を感じることのできる地下のメディテーションスペースを経て展示室へと導かれる。こうした動線は、国際文化会館新西館のコンセプトの一つである「親自然空間体験」と、ロスコ・ルームにおける独立した展示体験とを両立させ、ひと続きの体験となるよう計画されている。ロスコ・ルームは、他の展示と連続しながらも独立した場として構成され、明確な存在感を持つ展示空間を目指すという。

戦後アメリカ美術を代表する作品群のひとつと言える「シーグラム壁画」は、1958年、ニューヨークのシーグラム・ビルディング内にあったレストラン「フォーシーズンズ」のために作られた連作だ。しかし、自身の意図する鑑賞体験とレストランの豪華な雰囲気が合わないと感じたロスコは、プロジェクトから撤退し報酬を返金した。その後、これらの作品はDIC川村記念美術館をはじめとする世界4箇所に分散している。
今回の発表は、新たな展示施設の構想にとどまらない。DICはあわせて、「化学×アート」を軸に、美術修復分野における支援活動を本格化する方針を明らかにした。修復支援活動を継続的に行うための組織「IACC(Institute of Art Conservation Chemistry)」を立ち上げ、文化資産の保全と新たな価値創造に挑むという。
「現代の課題に応答するパートナーシップ」
DICと国際文化会館は今回、テキサス州ヒューストンにあるロスコ・チャペルとそれぞれパートナーシップ提携を締結した。ロスコ・チャペルは1971年に設立された無宗派の礼拝堂で、内部にはロスコが晩年に制作した14点の絵画が恒久設置されている。宗教・文化・国籍を超え、アートを媒介に内省、対話、和解を促す場として国際的に評価されてきた。
DICとロスコ・チャペルは、2024年7月のハリケーンで被災した同チャペルの美術品修復支援において戦略的パートナーシップを締結。化学メーカーならではの知見と技術を活かした支援を展開する。一方、国際文化会館はロスコ・チャペルと連携して「平和を促進するための民間外交」を展開する。両組織は共同で諮問組織を設立し、プログラムの企画・運営を行うという。ロスコ・チャペルのプレジデントを務めるアブドラ・アンテプリは、記者発表にて次のように語った。
「誤解や憎悪、偏見、地政学的リスクに支配されている時代を、私たちは生きています。私たちのような機関は創造性と勇気、そして責任をもって現代の課題に応えなければなりません。今回結んだパートナーシップは、こうした呼びかけへの応答だと言えるでしょう。アート、内省、そして何より道徳的価値観に基づいた想像力に根差した文化の枠組みとネットワークを構築していきます」
なお、DIC川村記念美術館をめぐっては、コレクション再編の動きも進んでいる。昨年11月、クリスティーズ・ニューヨークで開催されたオークションにはシャガールやモネ、マティスなど、同館が所蔵してきた8作品が出品され、シャガールの《ダビデ王の夢》(1966)は予想落札価格を大きく上回る2650万ドル(当時の為替で約41億円)で落札された。昨年に公開されたリリースによれば、DICは今後もアイデンティティを象徴する作品群を除いた約280点の売却を検討している。一方で、所蔵作品の貸出は7月1日から再開される予定だ。