「もしも」の視線群──ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる―生きるための回路【EDITOR’S NOTES】

社会の息苦しさをどうやり過ごすか。アーツ前橋で開催中の「ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる―生きるための回路」は建築家やデザイナーら7組が提案する小さな抵抗の実践だ。

三野新&山本卓卓 《あなたは必ず幸せになる》、《わたしは幸せになった》(2026)アーツ前橋提供 撮影:木暮伸也

日々の生活を送るなかで、ふと息苦しさを感じる瞬間がある。効率化が極限まで推し進められた都市空間や、無意識のうちに私たちを縛る見えない社会のルール。そんな巨大なシステムに対して、真正面から怒りや抗議の声を上げることはもちろん大切だ。一方アーツで開催中の「ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる―生きるための回路」は、正攻法とはまた違った抵抗の仕方を提示している。

今回の出展作家のうち、アーティスト・コレクティブとして活動するSIDE CORE以外の6組は、普段は建築家やデザイナー、劇作家や俳優などアート以外の領域で活躍する人々だ。それゆえ展示室での体験は、例えば現代アートの展覧会で体験する芸術鑑賞とはまた異なる。

建築家のドットアーキテクツは、他者が作ったものを消費するだけになった現代の消費社会への抵抗として、展示室内に工房を設置。写真家で舞台作家の三野新と劇作家の山本卓卓は、社会の求める幸福や健康の基準を揺さぶる仕掛けとして、視界を強制的に分断する足場を用いた上演型インスタレーションをつくった。デザイナーの阿部航太は、ドキュメンタリーや映像メディアを通じて路上文化や外国人留学生の視点から都市の姿を捉え直す。それぞれのセクションを練り歩く体験は、7組それぞれの頭のなかにある違和感や「もしもこうだったら」という視点を紹介する図鑑を観ているような感覚に近い。

ドットアーキテクツによる工房。ここでワークショップも開催される。アーツ前橋提供 撮影:木暮伸也

本展で印象的なのは、空間のスケールとそこに展開される物量だ。同様のテーマを言葉だけで論じることもできるかもしれないが、それを物理空間に焼き付けることで、単なる視覚的な理解を超えた、身体性を伴う強度の高い体験を生み出している。

例えば、ファッションデザイナーの坂本舞ニルセンが手がけたインスタレーション。軍服やワイシャツを解体・染色・再構築してつくられた2つの作品は、ビビッドな色合いや大きさのインパクトがある。実際に対峙すると、衣類に固着した労働や権威の記号性が抜けていく感覚が新鮮だ。

広大な地下ギャラリーの特性を最大限に引き出したSIDE COREは、空間に新たな柱を追加し、鑑賞者の身体を丸ごと飲み込むような巨大なアンダーグラウンドの仮想都市を出現させた。スケートボードで都市インフラをすり抜ける映像作品とともに、システムの網目をかわす実践を紹介する。

坂本舞ニルセン《ニョコニョコ!(Power Laboration)》(2026)アーツ前橋提供 撮影:木暮伸也
SIDE COREのインスタレーション。アーツ前橋提供 撮影:木暮伸也
阿部航太《街は誰のもの?(マルチチャンネル)》(2026)アーツ前橋提供 撮影:木暮伸也

彼らがこの複雑な空間を通じて展開しているのは、総じてマイクロ・レジスタンス(小さな抵抗)の実践だ。現代社会を覆う資本主義のシステムや強固な社会規範に対し、巨大な構造と真っ向勝負を挑んでばかりだと、力尽き、摩耗してしまうこともあるかもしれない。だからこそ、彼らは別のルートを探るのだ。7組の異なる視線群は、それぞれが別々の明日を映し出す。

まともにぶつかっては打ち負かされてしまう現実に対して、いかに軽やかに、しぶとく抗うか。システムを正面突破するのではなく、見方を変え、そこに別の回路をつなぐ。その抵抗の方法論そのものが、本展の提示する「ぬけみち」のように感じた。

ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる―生きるための回路
会期:7月4日(土)〜8月30日(日)
場所:アーツ前橋(群馬県前橋市千代田町5-1-16)
時間:10:00〜18:00(入場は30分前まで)
休館日:水曜

あわせて読みたい