ARTnewsJAPAN

トランプ再選をアート業界はどう受け止めたのか。「未来は暗い」「蹂躙される」「改めて連帯すべきとき」

11月6日、米大統領選においてドナルド・トランプが現副大統領のカマラ・ハリスを破り、再当選を果たした。過去には芸術分野への資金援助を削減・廃止しようとしたことから、芸術関係者たちは懸念の声を上げている。

ミシガン州で行われた選挙戦最後の集会に登壇したドナルド・トランプ。Photo: Chip Somodevilla/Getty Images

2024年11月6日、ドナルド・トランプの大統領復帰が確定した。米大統領選挙の結果が発表されたその瞬間から、嘆き悲しむ人や喜ぶ人、あるいは第二次トランプ政権において起こりうる事態を懸念する人の声がSNS上にあふれかえっている。そこには、アーティストや評論家、学芸員、そして文化施設の職員など、アート業界に身を置く人々も含まれる。

第一次トランプ政権だけを元にアメリカの未来を推測すると、アート業界にとって来る4年間が明るいとは思えない。というのも、2016年からの4年間の間にトランプは、芸術への資金援助を削減し、多様性や教育の向上にはむしろ忌避感を露わにした。

例えばトランプは、イスラム教徒が多く住む7つの国への渡航禁止令を任期中に発令している。美術館や大学関係者はこれによってアーティストや芸術関係者の入国が阻止され、反発した。また、連邦政府の芸術助成金廃止を繰り返し試み、2018年と2021年の予算案には全米芸術基金(NEA)の廃止が盛り込まれた(同基金の2021年予算は1億6750万ドル、現在の為替で約258億円で、連邦政府機関としては著しく低い)。NEA以外にも公共放送ラジオ(PBS)や米公共放送ラジオ(NPR )に一部資金援助を行っているアメリカ公共放送公社や、美術館・図書館サービス協会も標的となっており、すでにトランプ政権と予算の奪い合いを繰り広げていた文化セクターはコロナ禍の打撃も重なり衰弱し、今も完全には回復できていない。

こうしたことから、文化政策における対立が次の4年間も続くことを覚悟した(そして、トランプに対する人々や文化施設の反感を明確に示すためにも)アート界のスターたちは、総じてカマラ・ハリスを支持したのだ。ジェフ・クーンズジェニー・ホルツァーシモーヌ・リーなど、200人以上の著名なアーティストが作品を寄付したオークションは、最終的に150万ドル(約2億3110万円)の収益を上げた。これ以外にも、キャリー・メイ・ウィームスがカマラ・ハリスの広告キャンペーンに提供した代表作《Kitchen Table》シリーズの作品が「Kamala's Table」と題された広告映像に使用されたほか、ブライアン・アンドリュー・ホワイティーは、話題となった《Trump Tombstone》の彫刻を展示している。

しかし、アーティストたちによる努力は実ることなく、ハリスを大統領執務室に導くことはできなかった。美術評論家のシッダールダ・ミッターはInstagramの投稿で次のようなコメントを残している

「45年間にわたって抑制のきかなかったレーガノミクスは、人道的な代替案ではなく、さらに卑劣な何かに取って代わられて終わりを迎えた。(2024年の大統領選に道徳的な候補者は存在せず)パレスチナで起きている言葉にできない恐怖が日々報道されることで、消極的選択として本質的に鈍化された『まだマシ』な候補者を選ぶしかなかった」

エッセイストのレベッカ・ソルニットも、Xにこう投稿している

「トランプ政権は、人々に無力感を抱かせ、熱意を削ぎ、すべてを踏みにじろうとしている。でも諦めてはいけない。すべてを救うことはできなくても、守るべきものは見捨てずに守り抜く必要がある」

また、ハドソン川流域の先住民主導のアーティストイニシアティブであるフォージ・プロジェクトは、この日は「喪に服す日」であると同時に「コミュニティにの結束力の強さを思い出す時でもある」とInstagramに投稿しており、先住民プログラムのディレクターを務めるサラ・ビスカッラ・ディリーはこう続ける。

「人々を支援する方法や組織のあり方は変わったとしても、選挙結果は私たちの仕事がさらに必要であることを示している。植民地として誕生したこの国が直面している厳しい現実を解決するには、国民のすべてがともに夢を思い描き、実現に向けて動く必要がある」

一方、選挙結果についてSNS上で直接的な言及をしているアメリカの文化施設はほとんどない。こうしたなか、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)は、1989年から1990年にかけてMOCAの分館であるテンポラリー・コンテンポラリー(現ゲフィン現代美術館)の南壁に展示されていたバーバラ・クルーガーの《Untitled (Questions)》のアーカイブ画像を投稿。この作品には、「Who is Beyond The Law? Who is Bought and Sold(法を超えた存在は誰か? 買収され、売り渡されるのは誰なのか)」という言葉が記されている。これ以外にも、ニューヨークを拠点に女性やジェンダー規範に縛られないアーティストや芸術教育を支援する芸術団体「Topical Cream」は、そのチームが「これまで以上に」団体の使命に注力していくと記していた

今回の選挙では、人々が1973年に勝ち取った女性の人工中絶権を認めるロー対ウェイド事件裁判の判決が、第一次トランプ政権下で保守化が進んだ米最高裁によって2022年に覆されたことを受け、人工中絶の是非が主要争点の一つとなった。

今回のトランプ当選に際し、キュレーターのジャスミン・ワヒはInstagramに、「教育よりも暴力を、自由よりも利益を、命を救うことよりも害を何度も重んじてきてきたこの国のことなので、驚きはない」と投稿し、トランプ大統領の下で苦しむ可能性が高い人々は、「白人、シスジェンダー、男性」ではない「不安定さ」を知る人々だと記している。

アーティストたちも声を上げている。ヘンリー・テイラーは、ドレッド・スコットのメッセージの一部を次のように再投稿した。「問題は選挙結果ではない。奴隷制と大量虐殺、搾取、そして抑圧を基盤とした国家運営を掲げる政党に、人々が投票したことが問題なのだ」

映画監督のコーリーン・スミスは、NBCニュースによる黒人、白人、ラテン系有権者の投票先調査を共有した。これによれば、黒人男性の約81%、黒人女性の約90%がハリスに投票している(「その他の人種」は42%がトランプに、55%がハリスに票を投じた)。スミスはInstagramの投稿に次のように記している。

「黒人たちは、自分たちを抑圧してきた人々に対して、倫理的な考え方を育む方法を100年以上にわたって教えようとしてきた。(中略)最終的に民主党は、有権者の声に耳を傾けなかった。民主党員たちは億万長者にひれ伏したのだ。億万長者たちはまたしても、最も痛ましい方法で、自らの貴重な一票を使って私たちを売ったのだ。私たちの希望は、裏切られた」

政治的なパフォーマンスアートで知られるラファ・エスパルザは、11月5日にホワイトハウスの南に位置する公園、ザ・エリプスで実施した《bust: indestructible columns》のパフォーマンス風景を投稿した。エスパルザが柱の頂上を超えてホワイトハウス内部に潜り込む姿を映したこの作品は、アメリカの白人至上主義と新古典主義の束縛からの解放を表現している。その翌日にエスパルザは、ラテン系有権者の男女別の投票先をを投稿し(男性は54%がトランプに、女性は61%がハリスに投票)、これらの数字を見て「熟考すべきことがたくさんある」とコメントした上で、こう続ける。

「アメリカンドリームを追い求めること(それは、白人になることへの憧れとほぼ同義だ)の恐ろしさについて再考しなければいけない。この追求が白人男性ではないほとんどの人々、そしてこの国でただ生き延びることを余儀なくされている多くの人々にとって、実際にどれほどの恐怖をもたらすのかを解明し、幻想を解く必要がある」(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい