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ヴィクトリア&アルバート博物館が子ども向け展示からトランスジェンダーに関する展示物を撤去。館長の独断にスタッフが反発

イギリスヴィクトリア&アルバート博物館で、子ども向け展示エリア、ヤングV&Aからトランスジェンダーに関する2冊の本の撤去をトリストラム・ハント館長が決定した。館長はまた、「トランスジェンダーの人たちも、共に乗り越えよう!」と書かれた展覧会のポスターも撤去し、スタッフが反発している。

ヤングV&Aの書籍販売コーナー。Photo: V&A PRESS OFFICE

撤去は、7月1日のヤングV&Aのリニューアルオープン直前に行われた。展示から外された2冊の本は、『Seeing Gender: The Seeing Gender: An Illustrated Guide to Identity and Expression』(ケイセン・カレンダー著)と『Here and Queer: A Queer Girl's Guide to Life』(ローワン・エリス著)だ。これらの本の推奨読書年齢は14歳以上であり、ヤングV&Aの対象年齢(0歳から14歳)を超えているため、展示にふさわしくないと判断したとアート・ニュースペーパーが伝えている。

一方、イギリスのアートメディア、Arts Professionalの報道によると、ヴィクトリア&アルバート博物館の公共・商業サービス(PCS)の組合員と同館のLGBTQワーキンググループのスタッフは、ハントと会合を持ち、展示の復活を要求したが、ハントは拒否した。

Arts Professionalと同館スタッフがやりとりした手紙には、次のように書かれている。

「私たちは展示物を撤去するという決定を支持しません。これはヴィクトリア&アルバート博物館の観客を拡大する能力を損なうものであるということ、そして、キュレーターの独立性を損なうものであり、自己検閲につながる可能性が非常に高く、私たちがサービスを提供する鑑賞者への冒涜であり、トランスジェンダーとスタッフに対する直接的な侮辱です」

US版ARTnewsは、ヤングV&Aに対して、なぜこのような判断を下し、ポスターを撤去したのかについて問い合わせたが、返答は来ていない。

一方、イギリスを拠点にする反トランス団体「トランスジェンダー・トレンド」はツイッターに、ハント館長が美術館から作品を撤去する決定を下したことを支持すると投稿。現在、アメリカでも「赤狩り」のような状況で教育に関する自主規制が起こっており、全米の州でトランスジェンダーのキャラクターが登場する本の出版禁止などが発生している。LGBTQを扱う本の中でも、トランスジェンダーで活動家のジャズ・ジェニングスを題材にした絵本『I am Jazz』は、アメリカで最も発禁処分を受けた本のひとつだと言われている。(翻訳:編集部)

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