ソウルにフリーズ・ハウス開設! 第一弾企画は、クィアの視点から「家の政治性」を考察

今年で4年目を迎えたフリーズ・ソウルの開幕に合わせ、新たなアートスペース「フリーズ・ハウス・ソウル」がお披露目された。フェア期間中のみならず展覧会やレジデンス・プログラムを実施するこのスペースは、韓国アートシーンに対するフリーズの継続的なコミットメントを示すと同時に、新たな風を吹き込む場になりそうだ。オープンを記念した第一弾展覧会「UnHouse」をレポートする。

Photo: Sunghoon Park

今年で4年目を迎えたフリーズ・ソウル。フェア会場となるCOEXでのプログラムのみならず、市内ギャラリーでのイベントやラグジュアリーブランドによる展示など、毎年さまざまな取り組みが広がっているが、今年は新たな常設展示スペース「フリーズ・ハウス・ソウル(Frieze House Seoul)」がオープン。すでに大きな話題となっている。

1980年代に建てられた家屋をリノベーションしてつくられたフリーズ・ハウスは、4フロアにわたって延べ210平方メートルを超える展示スペースを備えている。韓国のアートシーンを活性化させるべく、今後は継続的に国内外のギャラリーと連携しながら展覧会やレジデンス・プログラムなどを展開していく予定だという。

建物外の庭園にはSANAAによるインスタレーションが常設展示されている。Photo: Sunghoon Park

フリーズ・ソウルのディレクターを務めるパトリック・リーが「フリーズ・ハウスを通じて、私たちはソウルの街とアート・コミュニティに対する長期的なコミットメントを深めていくつもりです」と述べているように、同施設のオープンによって、9月のフリーズ・ソウル期間に限らずソウルのアートシーンとフリーズの連携機会は増えていくのかもしれない。

フリーズ・ハウスのローンチを祝う第一弾展示プログラムは、「UnHouse」。韓国のアートメディア『Art in Culture』の元編集長でありギャラリー・ヒュンダイ(Gallery Hyundai)のクリエイティブ・ディレクターを務めた経験をもつキム・ジェソクがキュレーションを担当し、クィアの枠組みから「家」という空間を捉えなおす試みだ。

本展覧会は、コモンウェルス・アンド・カウンシル(Commonwealth and Council)やフランソワ・ゲバリー(François Ghebaly)、ジェシカ・シルバーマン(Jessica Silverman)、リーマン・モーピン(Lehmann Maupin)、P21、シュプルート・マガーズ(Sprüth Magers)、エックスラージ(xlarge)など、国内外のギャラリーとの連携により実現した。レベッカ・ネス(Rebecca Ness)やキャサリン・オピー(Catherine Opie)といった国際的に知られるクィア・アーティストから、デュー・キム(Dew Kim)やチェ・ハヌル(Haneyl Choi)など気鋭の国内アーティストら十数名が参加し、「身体/アイデンティティ」と「空間/権力」、「関係/ケア」、「記憶/伝達」という4つのテーマから、家という空間に問いを投げかけている。

Courtesy of Frieze and San Choi
Courtesy of Frieze and San Choi
Courtesy of Frieze and San Choi
Courtesy of Frieze and San Choi
Courtesy of Frieze and San Choi

キム・ジェソクは、本展の開催にあたりこう述べる。

「本展『UnHouse』は、クィアの視点から家の概念を問いなおし、再構築するものです。家庭という空間にある曖昧さを消し去るのではなく、その秩序を組み換え、家を実験的でクィアな場へ変えられる可能性を示します。現代の韓国においては、ジェンダーセクシュアリティ、同性婚の合法化を巡る議論が激化しています。こうした状況下でクィアの視点から家を捉えなおすことは、単なる象徴にとどまらず、非常に政治的な行為だと言えます。今回の作品は単に家を“占拠”するわけではありません。主人として、よそ者として、幽霊のような気配として、あるいは未知の風景として──さまざまな立場から家に身を置くことで、世界中の観客に家庭空間を見直す新たな契機をもたらすのです」

韓国はジェンダー格差も大きく、いまなお家父長制が根強いとも言われる。本来、人々が帰属できる安らかな場としての「家」は、そうした社会において、ジェンダー規範を再生産する空間にも、さまざまな暴力が蔓延するブラックボックスにもなり得る。そんな韓国において、真正面から家とクィアに向き合った展覧会を行うことは、非常に挑戦的な取り組みと言えるだろう。

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