文豪ゲーテが遺した琥珀から、4000万年前のアリを発見。古代生態系を解明する重要標本に
自然科学者・博学者としても知られるドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749–1832)が遺した琥珀コレクションから、約4000万年前のアリの化石が見つかった。ゲーテの遺産が200年以上の時を経て、現代科学に新たな知見をもたらしている。

ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、文学者としてだけでなく、自然科学者・博学者としても知られている。フリードリヒ・シラー大学イェーナを中心とする国際的研究チームが、彼が遺した琥珀コレクションを調査した結果、非常に状態の良い約4000万年前のアリの化石を見つけた。1月22日付で学術誌Scientific Reportsに発表した。
PHYS ORGによるとゲーテの琥珀コレクションは、主にバルト海沿岸地域で採集された未研磨の琥珀約40点で構成され、現在はワイマールのゲーテ国立博物館に収蔵されている。これらの標本は、約200年前の状態をほぼ保ったまま保存されてきたという。研究チームが全標本を調査したところ、そのうち2点の琥珀から、計3個体の動物化石が確認された。
研究者たちは動物の種類を特定するため、最新の画像解析技術を用いた詳細な調査を行った。琥珀をハンブルクにあるドイツ電子シンクロトロンDESYに持ち込み、シンクロトロン放射を利用したマイクロX線CT(SR-µ-CT)によるスキャンを実施。その結果、内部に含まれていたのはキノコバエ、ブユ、そしてアリであることが判明し、前例のない精度で昆虫を三次元的にデジタル再構築することに成功した。
現代によみがえる約4000万年前の働きアリ
なかでも研究者たちの注目を集めたのがアリの化石だ。この個体は、始新世(約4700万〜3400万年前)に生息していた絶滅種「†Ctenobethylus goepperti」の働きアリであると特定された。保存状態は極めて良好で、体表に生えた微細な毛を確認できただけでなく、化石としては極めて珍しく、体内構造にも踏み込み、頭部や胸部の内骨格構造を可視化することに成功した。

この成果により、見つかった絶滅種は現在の北米やヨーロッパの温暖な地域に分布するアリ属Liometopumと近縁である可能性が示された。このアリ属は樹上で生活し、大規模なコロニーを形成することで知られている。研究者たちは、今回発見された絶滅種も、始新世にヨーロッパの広範囲を覆っていた温暖湿潤な針葉樹林に生息していたと考えている。
今回の成果について、本研究に携わったフリードリヒ・シラー大学イェーナのダニエル・トレーガーは、大学の声明で次のように述べている。
「標本は完全にデータ処理され、新たに得られた情報に基づいて三次元再構築モデルを作成し、オンラインで公開しています。このモデルは、世界中の研究者がこの種のさらなる化石を同定・比較する際に役立つでしょう」
形態学の祖・ゲーテの遺品がもたらした新発見
ゲーテの琥珀標本はいずれも未研磨であったため、彼自身、それらの内部に古代の昆虫が閉じ込められているとは想像していなかっただろう。ゲーテは生涯を通じて琥珀そのものに強い関心を示していたわけではなく、主に光学的特性に注目していた。例えば、色彩論の研究のため、化石化した樹脂からレンズを削り出し、特定の色スペクトルを観察していたことが知られている。18世紀半ばには、琥珀内部の化石に関する体系的研究が始まり、初期の科学論文も彼の蔵書に含まれていたが、これらの研究が自身の関心分野にどのような意味を持つかは、当時まだ予見できなかった。
研究に参加したイェーナの系統博物館に所属する研究者ベルンハルト・ボックは、フリードリヒ・シラー大学の声明で次のように語っている。
「ゲーテは、生物の構造や形を研究する学問である形態学の創始者とみなされています。自身のコレクションから、全く新しい手法によってこの分野の貴重な知見が得られたと知れば、きっと喜んだでしょう。同時にこの研究成果は、科学が始まったばかりの時代にゲーテの手を経た1つの物が、今日の私たちにこれほど豊かな知見をもたらしているという事実を示しています。実に魅力的なことです」