南アフリカ、ガザを扱う作品のヴェネチア・ビエンナーレ出展を中止。「政府による検閲」と批判相次ぐ
南アフリカは、ガブリエル・ゴリアスを2026年ヴェネチア・ビエンナーレのパビリオン代表作家に選出したが、同国文化相の指摘を受け、この決定を覆した。これに対し、芸術表現の自由をめぐる議論が広がっている。
南アフリカは、2026年ヴェネチア・ビエンナーレの同国パビリオン代表作家としてガブリエル・ゴリアス(Gabrielle Goliath)を選出したが、その後、ゴリアスのガザを主題とする作品が「分断を招く」との懸念を理由に、この決定を撤回した。南アフリカのメディア『デイリー・マーヴェリック』が報じた。
この取り下げは、パビリオン内容の締め切りのわずか8日前にあたる1月2日、文化省によって決定されたとされる。南アフリカ館の選考委員会はその後、これを異例の事態であるとして、文化省の判断に同意しないとする声明を独自に発表した。
ゴリアスは、2024年ヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示にも参加しており、パビリオンには自身の継続的なシリーズ「エレジー(Elegy)」からの作品を出展する予定だった。彼女のウェブサイトによれば、同シリーズは「記憶し、修復し、ブラック・フェミニズムの愛を実践するための継続的な労働」であるという。2015年、南アフリカ国内外における性的暴行やフェミサイドをめぐるパフォーマンスとして始まり、その後、ビデオ・インスタレーションへと拡張されてきた。
『デイリー・マーヴェリック』によれば、ゴリアスはイスラエルによるガザでの戦争についても取り上げる予定であったという。この主題は、現在ニューヨークのMoMA PS1で開催中の彼女の個展で展示されているビデオ・インスタレーションにも含まれている。「エレジー」シリーズからの新作は、南アフリカにおける女性やクィアの殺害、さらには20世紀初頭にドイツ軍によって行われたナミビアでのジェノサイドにおける女性の殺害を扱う構成で、そのうちの特定の一章が文化省の懸念を呼んだとされる。それは、2023年10月、イスラエル軍の空爆によって息子とともに殺害されたパレスチナの詩人ヒバ・アブ・ナダの言葉を紹介する部分だった。
南アフリカのゲイトン・マッケンジー文化相は昨年12月下旬、パビリオン主催者宛ての書簡の中で、このセクションの変更を求め、同国のビエンナーレ参加を中止する権限を自分が有していることを示唆したという。マッケンジーは、この作品が「きわめて分断的な性格を帯び、現在進行中の国際紛争に関わるもので、広く人々を分極化させる」と主張した。
一方、ゴリアスは『デイリー・マーヴェリック』にこう語っている。
「アーティストとして私は、暴力を可能にし、許容し、そして恐ろしいほど『日常的』なものにしてしまう条件を明らかにし、拒絶することに関心があります。誰の命が、追放され、強姦され、殺され、否認される対象となっているのか?」
さらに彼女は、こう続けた。
「何度も言ってきましたが、私の作品は、暴力それ自体を描写するものではありません。むしろ、暴力が見えなくされ、許容され、やがて日常の一部として処理されてしまうという『社会の仕組みそのもの』の只中で、それでもなお営まれる哀悼、生存、修復の実践を可視化するものです。希望を持ち続けること自体が政治的な必然となっているこの瞬間において、私の作品を『死の仕事』ではなく『生の仕事』として、そして脱植民地主義的ブラック・フェミニズムに根差したケアとラディカルな愛のプロジェクトとして強調することが、いっそう重要だと考えています」
1月8日、選考委員会はマッケンジーの要求を「検閲」の一形態だと批判した。南アフリカの美術専門メディア『アートスロブ』に掲載された声明では、今回の取り消しが、パビリオン運営をめぐるより大きな問題を浮き彫りにしているとして、次のように指摘している。
「独立かつ透明性のあるキュレーション・プロセスが中止されたことは、きわめて憂慮すべき事態です。とりわけ、長年にわたり不透明さと運営不全が指摘されてきたこのパビリオンの歴史を踏まえると、その深刻さは一層際立ちます。したがって、政治的ナラティブに奉仕させるために、アーティストやキュレーターに表現の変更を強いるいかなる試みも、私たちは一切の留保なく拒否します」
また委員会は、ゴリアスの作品は、今回のヴェネチア・ビエンナーレの芸術監督に就任して間も無く死去したコヨ・クオーが掲げたテーマに適切に応答している、とも述べた。クオーは、ケープタウンのツァイツ現代アフリカ美術館の館長を務めていた人物だ。委員会は、「提案された作品は、パレスチナの女性や子どもを含む無辜の人々の悲劇的な死を認識し、悼むものです」と述べ、こう続けている。
「『エレジー』は、控えめながらも力強い悲嘆への向き合い方を示しています。それは、歴史的かつ現在進行形の暴力を、繊細さと責任、そして感情的な深みをもって扱う実践を重視したクオーの姿勢と響き合います。本作は、勇敢かつ挑戦的に、南アフリカを代表するものです」
マッケンジーは『デイリー・マーヴェリック』に寄せたコメントの中で、「ガザに関する国際的な調査結果の妥当性を疑ったわけではない」と否定しつつ、今回の判断は、南アフリカ館が「南アフリカの経験に根差した、南アフリカの芸術表現を紹介する場であるべきだ」という自身の考えに基づくものだと説明した。ゴリアスを検閲したとの指摘についても否定している。
ゴリアスのスタジオはUS版ARTnewsのメール取材に対し、同作家とキュレーターのイングリッド・マソンド(Ingrid Masondo)が、全会一致でパビリオンの代表に選出されていたと語り、「私たちは世界を異なる方法で考え、夢見ることを恐れません」と述べている。
US版ARTnewsは、南アフリカ文化省にもコメントを求めている。
また、過去にパレスチナ支持を表明したことで、ドイツで作品への反発を受けた南アフリカ出身の映像作家、キャンディス・ブライツら複数のアーティストも、今回の決定に注目している。ブライツはインスタグラムで、取り下げの決定は「表現の自由に対する驚くべき弾圧」と批判した。
2026年ヴェネチア・ビエンナーレのパビリオンをめぐって、イスラエルやガザに対する作家の立場が問題視されるのは、これが初めてではない。昨年には、オーストラリアが、ヒズボラの指導者を描いた過去作の意味を保守系メディアに問題視されたことを受け、ハーレド・サブサビの代表選出を撤回。その後、国際的な抗議を受け、最終的には同氏を代表作家に復帰させている。
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