キャリア失墜、市場価値の暴落──ナン・ゴールディンとパレスチナ人活動家が語る言論弾圧の実態
パレスチナ支持により、多くのアーティストが多方面からの反発や報復を受けている。ナン・ゴールディンもその一人だ。彼女とパレスチナ人活動家マフムード・ハリルが、『Dazed』誌に掲載された対談の中で言論弾圧の実態について語った。

アーティストのナン・ゴールディンと、パレスチナ人活動家のマフムード・ハリルの対談が、イギリスのライフスタイル誌『Dazed』の最新号で公開された。対談のなかで二人は、ハリルが104日間にわたって米移民・関税執行局(ICE)に拘束された体験談、抗議活動やデモの有効性、そしてガザで続いている紛争について語っている。
この対談の興味深い点は、記事の終盤で、パレスチナやその支持者による発言や活動に対して、ほかの社会運動よりも厳しく規制する「Palestine Exception(パレスチナの例外的扱い)」について言及されていたことだ。パレスチナの例外的扱いについては、2015年にパレスチナ活動家への法的支援を行う団体「Palestine Legal」が学術界や公的機関における事例をまとめたレポートを発表。それ以来、同団体のウェブサイトでは類似ケースを追った投稿を定期的に公開している。
ハリルはこうした例外的扱いを受けてきた張本人であり、2024年にコロンビア大学で実施された抗議活動の交渉役を務めた後、今年3月にアメリカの移民法に基づき逮捕されている。当初は外交政策への障害とされたが、裁判官が違憲の可能性を指摘すると、トランプ政権は逮捕理由を「グリーンカード申請時の情報開示の不備」へと切り替えた。しかし、この主張に説得力があるとみなす人は限定的だった。
こうしたハリルの体験をゴールディンは自身の体験と照らし合わせている。彼女が率いる活動団体「P.A.I.N.(Prescription Addiction Intervention Now:処方薬中毒への介入を今)」は、オピオイド中毒者を増やした鎮痛剤「オキシコンチン」を製造するパーデュー・ファーマを所有するサックラー家との関係断絶を美術館に求める活動を実施した。ゴールディンが指摘したように、パレスチナを支持する抗議活動とは対照的に、P.A.I.N.は世間から大きな反発を受けることなく、むしろメディアや学術界から支持を集め、一定の影響力を発揮した。一方、パレスチナ関連の抗議活動は、刑事処分やキャリアへの悪影響など、多方面からの反発や報復を招いている。こうした違いは、大学や美術館の寄付者、理事たちの政治的立場に起因していると二人は語り、ハリルはこう続ける。
「大学は、パレスチナを支援する発言を罰する規則や手続きを新たに設けています。金を稼ぐことと、理事会の威信を守ることに重きを置いている大学は、寄付者の意向に沿おうとしているのです」
これに対してゴールディンはこう述べた。
「個人的な話をすると、抗議をしたことで私のキャリアは失墜しましたし、アーティストとしての市場価値は一夜にして暴落しました。それと同時に、ニューヨークに拠点を置く富裕なコレクターのほとんどがシオニストであることも学びました。私がニューヨーク・タイムズ紙をボイコットした際は、ギャラリーに電話をかけて『もう我慢の限界だ、彼女の作品を返送する』と言ったコレクターもいました」
ハリルが指摘したように、ゴールディンには発言するかどうか選ぶ自由があるが、彼自身にはその自由すらない。ハリルは、「殺されているのは私の民族であって、私は人間としてそれを無視することはできません。私は人としての義務を果たしているだけです」とも述べている。(翻訳:編集部)
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