今週末に見たいアートイベントTOP5:ジュリアン・オピーの巨大インスタレーション、Nerholの現在地を知る約80点

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness(埼玉県立近代美術館)より、Nerhol《Cornus florida linn》2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery

1. ロイヤル コペンハーゲンと北欧デザインの煌めき アール・ヌーヴォーからモダンへ(松本市美術館)

《染付金彩鷺文皿》ビング オー グレンダール デザイン:ピエトロ・クローン ペインター:ファニー・ガーデ
もしくはエフィー・ヒーガマン=リンデンクローネ 1886-1888 年 塩川コレクション
《眠り猫置物》 ロイヤル コペンハーゲン 原型:エリック・ニールセン ペインター:IVX 1958年 塩川コレクション
《花瓶(コローラ)》コスタ ヴィッケ・リンドストランド 1950年代 個人蔵 Photo Michael Whiteway

近現代の逸品から「北欧デザイン」を探る

冬の長い北欧では、家で過ごす時間を大切にし、生活の中に優れたデザインを取り入れてきた。18世紀に開設されたデンマークの王立磁器製作所を起源とするロイヤル・コペンハーゲンは、上質な磁器の生産で早くから国際的な評価を獲得し、北欧アール・ヌーヴォーの先駆けとなった。同時期に陶工としてキャリアをスタートさせたジェンセンは、のちに銀製品で名高いジョージ・ジェンセンを創業した。その一方で、スウェーデン・スモーランド地方では古くからガラス工芸が盛んで、1950年代にはオレフォスやコスタといったメーカーが芸術性の高い作品を生み出している。

本展では、日欧の貴重なプライベートコレクションから19世紀末から20世紀の陶磁器、銀器、ガラス器を中心に約200点を選りすぐって紹介。産業と芸術の融合を模索しつつ品質を高めていった北欧のデザインを探る。

ロイヤル コペンハーゲンと北欧デザインの煌めき アール・ヌーヴォーからモダンへ
会期:7月12日(土)〜9月23日(火祝)
場所:松本市美術館(長野県松本市中央4-2-22)
時間:9:00〜17:00(入場は30分前まで)
休館日:月曜(休日の場合は翌平日)


2. Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness(埼玉県立近代美術館)

Nerhol《connecticut》2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery
Nerhol《Canvas (Oasa)》2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery
Nerhol《Cornus florida linn》2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery

約80点で知るNerholの現在地

グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太により2007年に結成されたアーティストデュオ、Nerhol(ネルホル)の個展。活動の初期に、人物を連続撮影した写真の束に彫刻を施した作品で注目を集めた彼らは、他者の思想や異なる分野領域とも大胆に接続しながらその関心と対象を拡げ、表現を深化させていく。写真と彫刻のみならず、自然環境と人間社会、可視性と不可視性といったさまざまな境界を往還し紡ぎ出される表現は、幾重にも張り巡らされた複数の関係を繙き繋ぐ、独自の価値を獲得してきた。昨年千葉市美術館で開催された大規模個展「Nerhol 水平線を捲る」は大きな反響を呼び、令和6年度芸術選奨文部科学大臣新人賞に選ばれた。

本展では最新作を中心に未発表作を加えた約80点による構成で彼らの多層的な探究の現在地を紹介する。同展のタイトルには、物事や行為の一義的な確かさに問いを投げかけ、そこに潜在する意味や覆い隠された関係を注視してきた2人の一貫した姿勢が反映されている。関心領域の広がりにより、連続撮影した写真の束を彫り刻む手法から離れ、街路樹や珪化木、ストーンペーパーなど、さまざまな素材を作品に用いた作品や、近年取り組む、帰化植物を題材に、リサーチを重ねて制作するシリーズの大規模インスタレーションも必見。

Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness
会期:7月12日(土)〜10月13日(月祝)
場所:埼玉県立近代美術館(埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1)
時間:10:00〜17:30(入場は30分前まで)
休館日:月曜(9月15日、10月13日を除く)


3. ドゥ・ゼイ・オウ・アス・ア・リヴィング?(KAG)

「生きる権利」は今どこにあるのかを見つめ直す

アナーコ・パンクバンドであるCrassが1978年に発表した「Do They Owe Us a Living?(奴らは俺たちに生活を負っているのか?)」は、制度、社会、国家が個人に対して何を約束し、何を果たしていないのかという問いを過激かつ鋭利な言葉で投げかけた。本展は、この曲を今日の社会に映し出しながら、アートを通して「生きる権利」は今どこにあるのか見つめ直す。

出品作家はコアオブベルズ、レジーナ・ホセ・ガリンド、チャン・ファン、オレグ・クリーク、メス。コアオブヘルズは湘南を拠点に活動するハードコア・パンクバンド/アーティスト・コレクティブで、メンバーは池田武史、新宮隆、山形育弘、吉田翔の4人で構成されている。グアテマラ出身のアーティスト、レジーナ・ホセ・ガリンドは自身の身体を通して暴力や不正義を可視化するラディカルなパフォーマンスで国際的な評価を得てきた。中国・河南省で生まれたチャン・ファンは北京を拠点に活動を開始し、その後ニューヨークや上海へと制作の場を広げてきた。オレグ・クリークは1961年にウクライナで生まれ、現在はロシアを拠点に活動する。メスは新井健と谷川果菜絵によって2015年に結成されたアーティストデュオ。

ドゥ・ゼイ・オウ・アス・ア・リヴィング?
会期:8月17日(日)〜10月12日(日)
場所:KAG(岡山県倉敷市阿知3丁目1-2)
時間:11:00〜17:00
休館日:月曜


4. 熊谷亜莉沙 | 天国泥棒(ギャラリー小柳)

熊谷亜莉沙 Say yes to me 2025年 油彩、パネル、2点組 各97 x 195 cm © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi
Photo by Hikari Okawara
Arisa Kumagai, It’s OK. It’s OK. It’s OK., 2025, triptych. © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi
Photo by Hikari Okawara

どのような人間にも赦しはあるのか

同ギャラリーでは2年振りとなる熊谷亜莉沙の個展。熊谷の作品制作は、遊郭街の裏で生まれた自身の生い立ちや家族史を出発点としている。家業のブティックで扱っていたイタリアンハイブランドのシャツを纏った祖父の姿や、孤独死した父親へ手向けられた花など、パーソナルな経験に基づくモチーフを描きながらも、そこに貧富、生と死などといった誰もが日常の中で直面しうるテーマを映し出し、普遍的なものへと昇華してきた。

本展のタイトルはキリスト教にまつわるもので、死の間際に洗礼を受ける者のことをこう呼ぶ人がいるという。天国は、信仰者たちの魂が神と共に永遠の安らぎを得る場所である。イエス・キリストを信じる全ての人にその道が開かれているはずだが、長年神に仕える者からすれば、「天国泥棒」は都合よく救いを求めているようにみえるのかもしれない。だが熊谷は、そのどうしようもなく人間らしい感情に、自身の心のありようを重ねるという。《It’s OK. It’s OK. It’s OK.》と名付けられた三連画は、小さなスニーカーと花瓶に添えられた花を組み合わせた作品。その履き古された子ども靴は、かつて自分の子どもに暴力を振るい、家族と疎遠になったまま孤独死を遂げた男が、その子に買い与えたものだという。

熊谷亜莉沙 | 天国泥棒
会期:8月23日(土)〜10月11日(土)
場所:ギャラリー小柳(東京都中央区銀座1-7-5 小柳ビル9F)
時間:12:00〜19:00
休館日:日月祝


5. ジュリアン・オピー「Marathon. Women.」(GINZA SIX 中央吹き抜け)

©Julian Opie

巨大な吹き抜けに新作インスタレーションを発表

GINZA SIXの中央部、2階から5階を貫く吹き抜けは、2017年のオープン以来草間彌生名和晃平塩田千春などの著名アーティストが空間を活かした巨大インスタレーションを発表してきた。2024年4月からヤノベケンジが手掛けてきたが、この度イギリスを代表する現代美術家、ジュリアン・オピーにバトンタッチする。ロンドンを拠点に活動するオピーは、ピクトグラムを想起させるシンプルな表現で伝統的モチーフを描くスタイルが、アート界だけでなくカルチャーシーンでも高く評価されている。

オピーは今回、新作の映像インスタレーション《Marathon. Women.》を発表する。イギリスの女性スプリンターをモチーフにしたLED映像で構成される作品で、7人のランナーがそれぞれ異なる色とスピードで、宙に浮かぶ四角形のスクリーン上を果てしなく走り続ける。自身初となる「宙に浮かぶ」映像のインスタレーションとなるが、オピーは人々が集う賑やかな空間において意味を持ち、かつ空間に溶け込むような作品を目指したという。

ジュリアン・オピー「Marathon. Women.」
会期:9月11日(木)〜2026年秋(予定)
場所:GINZA SIX 中央吹き抜け(東京都中央区銀座6丁目10-1)
時間: 10:30〜20:30
休館日:GINZA SIXに準じる

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