目指すは、循環型のアート! ゴミを用いて作品制作をする8人のアーティストたち

4月は地球環境について考える「アースマンス」だ。世界的にゴミ問題が深刻化する中で、古着やプラスチックの袋、宅配用の段ボールなどのいわゆる「ゴミ」で作品を制作するアーティストたちがいる。彼らはなぜそれらを素材に選ぶのか。

レズリー・マルティネス《The Decorum of this Body》(2023) Photo: Courtesy Commonwealth and Council, Los Angeles

廃材や廃棄物に新しい価値を見出し、そこに工夫を加えて活用するクリエイティブリユースの考え方が広まってる。そんな中、資源循環に目を向ける8人のアーティストに、制作のきっかけや手法、背景にあるコンセプトなどを聞いた。

1. トム・フリードマン「モノにはある種の文化的な意味がある」

トム・フリードマン 左:《Kid》(2023)、右:《Being》(2021) Photo: Courtesy Lehmann Maupin, New York, and Stephen Friedman Gallery, London

私はあちこちからたくさんモノを拾ってきます。妻からは溜め込み癖があると叱られますが、いつも「何かに使えるはずだから」と答えています。毎週日曜日に行くゴミ捨て場には「ご自由にお持ちください」というリサイクルコーナーがあるので、そこを漁っては子どものオモチャや何やらを見つけて持ち帰ります。それを入れておく箱がたくさんあって、「モノ」と「その他のモノ」というラベルを貼って分類しています。

いろんなモノを集め続けてかれこれ30年。昔の電話に付いていたらせん状のコードもありますが、あれは鋳造するのが結構難しいんです。CDウォークマンもまだ持っています。私がモノを捨てないのは、そこに歴史があると考えてしまうから。誇張しすぎと思われるかもしれませんが、その1つ1つがビッグバンまで遡れる歴史の集大成のような気がするんです。モノにはある種の文化的な意味があって、それぞれが非常に具体的であると同時にとても多様です。私の作品の背後にあるのは、そうした考え方なのです。

《Kid(キッド)》という作品の表面にはたくさんのファウンドオブジェ(*1)が使われています。最初に型を作り、そこからステンレス鋼で像を鋳造しました。腕の表面には、排水用のプラスチック管、マフィン型、柔らかい素材のフットボール、蓋付きカップ、ロースト料理用バット、人形などが並んでいます。この作品にはエコロジーの側面もありますが、環境保全に関しては個人でできることは限られています。ゴミとして捨てられたモノを集めて使うのはファンタジーやカタログ化の要素もあって、私はそこが気に入っています。いろいろなモノを組み合わせることで、まるで雪崩のように連想が広がっていくのが面白いんです。


*1 自然にある物や日常生活で使われる人工物(特にアートに転用されたもの)。

2. アルバーノ・エルナンデス「目指すのは、ゴミを出さない循環型の作品づくり」

アルバーノ・エルナンデス《P22.10.》(2022) Photo: Courtesy the artist

ここにある作品は、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士の初年度が終わる頃、約3年前に始めた方法で制作されています。当時はスタジオに残っていた余り素材や画材を使って別の作品に取り組んでいたのですが、絵筆によって引かれた線をテーマにしたペインティングを制作したいと思うようになりました。そして、スーパーマーケットでチョリソーを見たとき、この方法を思いついたのです。

まず、エアドライクレイ(窯での焼成がいらない空気乾燥粘土)を合成樹脂の下地材と混ぜて、アクリル絵の具で着色します。そこへスタジオにある包装材のような不用品を混ぜ、丸めて食品スライサーで切っていくと、混ぜ込んだものの断面が現れます。家庭用のスライサーを買ったのですが、なかなかいい切れ味です。ミキサーやスライサー、プラスチックも砕ける強度のあるシュレッダーが並んだスタジオは、まるでキッチンのように見えます。

私のコンセプトは、スタジオ内でゴミを出さない循環型の仕組み作りを重視することです。今では、日々の暮らしから出た不用品も取り入れていますが、日常生活のゴミや廃材が詰まっている作品は、いわば日記のようなもの。また、環境問題の観点で作品を作っているので、絵の中には純粋さと不純さがあるようにしたいと思っています。真面目なテーマに遊び心のある方法で取り組んでいるというわけです。

3. レズリー・マルティネス「制作過程で出たチリすら作品に取り込みたい」

レズリー・マルティネス《無題》(2021) Photo: Courtesy Jordan Ford collection

私にとってリサイクルとは、ある素材を別の素材に変える可能性のことだと思っています。つまり、手持ちのものを上手に使ってやりくりすること。そうするには遊び心や信念、決断力がいります。自分が置かれた状況を受け入れて、臨機応変に対応する能力です。

作品を創作することは、自分の手を使って世界を形成したいという人間の欲望とつながっています。私は身の回りにあるものを使いたいので、古着やボロ布のような、そこら中にふんだんにある素材に惹かれます。古い作業着やカンバスを枠に張った後に残る端切れ、絵の具や水を拭いたタオルなどを絵画に取り入れ、カンバスや作業用シートから剥がれたアクリル絵の具のクズも素材にします。時にはミキサーにかけて粉砕して使うこともあります。基本的に、制作過程で使ったものは全て作品に取り込みたいんです。

一度スタジオに持ち込んだ画材は捨てません。食事をしたりもするので、ゴミをゼロにするのは難しいですが、掃き掃除で集めた小さなゴミも全部捨てないようにしていて、大きさで分けてから容器に入れて整理しています。中には、何カ月、あるいは何年も使われないままのゴミもあります。でも、アート制作のためにスタジオに入ってきたモノは全て、いずれ役立つ時が来ます。なぜそんなことをするかというと、環境への配慮もありますが、廃棄物に価値を見出し、何も取りこぼさないようにしたいからです。型枠の中にレジ袋や商品用のラップ材を詰めることもあります。そこに色を塗ることでリサイクル素材を異化させるのです。

4. ユー・ジー(于吉)「これまでにない有機的なシステムを構築したい」

ユー・ジー《Foraged》(2021) Photo : Andy Keate/Courtesy Chisenhale Gallery, London

《Foraged(採集)》は、寄せ集めの中古素材で作られたポンプの機能を持つ機械で、ロンドンのチゼンヘール・ギャラリーで開いた個展のために制作したコミッションワークです。このギャラリーに招かれてリサーチ型のレジデンシー・プログラムに参加した私は、ロンドン東部の運河周辺に生えていた雑草などの摘んできた植物を熱湯で煮る機械としてこれを作りました。機械は展覧会の会期中ずっと作動していて、ギャラリーの床から壁、天井に張り巡らされたプラスチックのチューブに水を送り続け、その水は下に置かれたほかの作品にゆっくりと滴り落ちていました。ギャラリーに入ると沸騰するお湯の熱気が感じられ、またポンプの音が聞こえるので、一種のサウンドインスタレーションとも言えます。

そのときは、どこへでも持ち運べる移動可能な彫刻を作ろうと考えていました。使っているのは手工芸材料や中古品、自然物など、どれも制作でよく扱う素材です。私が関心を持っているのは、新しいリサイクルシステムを構築するための可能性を探ること、また、モノとモノの間に新しいつながりを見つけ出すことです。拾ってきたモノ、新しく作られたモノ、その中間のモノなど種類はさまざまですが、これまでにない有機的なシステムを構築するために多様な要素をうまく組み合わせることに興味があって、《Foraged》だけではなく、ほかの作品でもそれを追求しています。私は、人々が日常生活で何気なく使っている普通の素材にとても惹かれます。それは、都市化と現代生活の一部だからです。

5. ヒューゴ・マクラウド「一般の生活者が何度も使うものに興味がある」

ヒューゴ・マクラウド《carbon cycle》(2022) Photo: ©Hugo McCloud/Courtesy Sean Kelly, New York and Los Angeles

私はこれまでずっと、自分をマテリアルベースのアーティストだと考えてきました。もともとは木材や金属を加工する工業デザインの分野にいたのですが、ファインアートの道に進もうと思ったとき、筆を使ってカンバスに描く方法を知らないことに気づき、別の素材を使って自分なりの視覚言語を作れないかと試行錯誤しました。最初は金属加工で余った素材を使って作品を制作していて、そのうち廃棄物置き場から拾ってきた屑鉄などを使うようになりました。初期の作品はそういうものでできています。

いろいろな素材で遊んでいるうちに木版染めに興味を持つようになり、インドに行きました。そこで初めて見たのがプラスチック繊維で編んだ袋です。廃屋の前にプラスチック素材の袋がたくさん置いてあって、中身はよく分かりませんが、建材や土のようなものが詰まっていました。褪せかけてはいるけれど、色とりどりの袋が200個ほどまとめて置いてある様子は、少し離れて目をすぼめると抽象画のようでした。

その後この袋を使って制作をするようになりましたが、これに興味を持ったのは一般の生活者が何度も再利用するものだからです。プラスチック素材の袋は破れたり裂けたりするので一見弱そうですが、思いのほか丈夫で長持ちします。また、プラスチックがいつまでも残存するということは広く知られています。どんなものであれ、いつかはそこに美しさや便利さ、価値を見出せるという考え方がありますが、それに通じるものがあると思うのです。

6. リズ・ラーナー「使い捨てをやめ、モノの新しい使い道を見つける」

リズ・ラーナー《Meerschaum Drift (Blue)》(2020-21) Photo: Evan Bedford/Courtesy Regen Projects, Los Angeles

アメリカなど海外から廃棄物を輸入してリサイクル処理をしていた中国がそれを禁止したと聞いて、私は自分のゴミを捨てずにとっておくことにしました。みるみるうちに溜まっていったゴミの量に圧倒された私は、これは質量とスケールという非常に彫刻的な問題だと気づいたのです。

そこで、家の外の青いゴミ容器から毎日収集車が運び去ってくれる以上の量を扱いたいと思い、太平洋ゴミベルト(海流に乗ったプラスチックゴミが集中して漂うエリア)のことも念頭にあったので、海の泡を思わせる無定形の漂流物のような形を作り始めました。素材になる廃棄物はさまざまで、ボトルやプラ容器などのリサイクルゴミだけでなく、息子に買ってあげた目の部分がハートになっている水泳用ゴーグルのように、使い捨てであっても感情的な思い入れのあるモノもあります。昔、モノを大切にしなければならなかったのは、それが貴重だったからです。でも、大量生産で使い捨てが当たり前になってからは、すっかり価値が下がってしまいました。

ニューカーク・センター(カリフォルニア大学アーバイン校の研究機関)で講習を受けたこともありますが、そこでリサイクルというシステムの限界を知りました。私たちはモノを捨てるのをやめ、新たな使い道を見つけたり、再利用したりする必要があります。それは、使い捨てを想定しているリサイクルとはまったく違う考え方です。以前は遊び心のあるアッサンブラージュ(*2)をよく見かけたものですが、2000年代に入った頃から、私自身も新しさに心を奪われていました。新品の機械を使って制作することに夢中になっていたのです。


*2 雑多な物体(日用品、工業製品、廃品など)を寄せ集めて作られた芸術作品やその手法。

手元にリサイクル品がまだまだたくさんあるので、今はそれを使う新しい方法をいろいろ試しているところです。

7. クラリッサ・トッシン「アマゾンプライムの会員には絶対にならない」

クラリッサ・トッシン《Future Geography: Cosmic Cliffs》(2023) Photo: Brica Wilcox/Courtesy Commonwealth and Council, Los Angeles

2015年頃から、アマゾンの宅配用段ボールを短冊状にして織った作品を制作しています。この素材を使うようになったのは、ブラジルの熱帯雨林の中にある工業地帯をテーマに制作をしていた頃です。アマゾン川沿いの都市マナウスは、実は世界各国の市場に向けた電子機器などを生産する一大産業拠点なのです。生物多様性において世界一を誇る自然豊かな密林で、iPhoneやハーレーダビッドソンが作られているとは普通は思いもしないでしょう。

そこから着想を得て、私はアマゾン地域の工場で製造されている製品のレプリカをテラコッタで作り、その一帯で昔から作られていた籠を模した容器に入れて展示しました。現地の人たちは手近にある植物を織って籠を作るので、地域によって素材はまちまちです。都会に住んでいる私の身の周りにはアマゾンの段ボール箱がたくさんあったので、それを使ったというわけです。

そのうち、友人や同僚から箱を譲ってもらったり、自宅マンションのゴミ置き場から集めたりするようになりました(私はAmazonプライムの会員ではないし、絶対になるものかと思っています)。それを用いて制作したシリーズ「Future Geography(未来の地理)」は、壁に掛けられる平らな織物状の作品で、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した画像が織り込まれています。先端技術を結集したこの望遠鏡が捉えた画像によって形成されるのは、次なるフロンティアとしての宇宙のイメージです。つまり、このシリーズは、民間の宇宙探査の背後にある植民地的なメンタリティを示唆しているのです。

《Future Fossil(未来の化石)》(2018)では、自分の生活から出たプラスチックゴミを溶かして7メートル弱の円筒を作りました。地層をイメージして、私の個人的なゴミでできた未来のコアサンプル(地質調査のため地面に長い筒を刺して採取したサンプル)を作りたかったのです。普通は自分が出したゴミなど見たくないと感じるものですが、私はゴミを見られるものにしようと考えました。生きている限りはずっと、自分の暮らしから出たプラスチックゴミを作品にリサイクルしようかと思っていましたが、円筒を作るときにプラスチックを溶かした空気を吸って気分が悪くなったことを考えると、難しいかもしれません。

8. ダーチー・コール「ゴミで作品制作するのは遊び心を失わないための方法」

ダーチー・コール《Coyote Boy》(2018) Photo: Courtesy Murmurs, Los Angeles

私は拾い集めた素材を使って、手で持てる等身大の人形を作っています。主に使うのは綿や革、服、そして大量の紐ですが、プラスチックやスポンジ素材を使うこともありますし、質感を出すために材料を破いたりすることもあります。素材は寄付してもらったり、古着屋で手に入れたりしています。ニューヨークには、マテリアル・フォー・ジ・アーツというすばらしい場所もあります。市の文化局が衛生局の協力を得て運営していて、そこに行けばラグやソファー、タイプライターなど、何でも手に入れることができるのです。

私はHowDoYouSayYaminAfrican?(略してYAMs)というアートコレクティブの一員で、2014年頃からほかのメンバーと一緒に人形を作り始めました。制作プロセスはかなり直感的です。環境にやさしくありたいというのはもちろんですが、それ以上に身近にある素材を利用すること、目の前のモノがどんなモノにも変化し得ることの面白さを大事にしています。古い木の箱で鎧の胸当てを作ったり、帽子や靴を切ってその形を利用したり、作業は常に素材との対話です。作り始めるときに完成予想図はありません。あるとしたらToDoリストでしょうか。

私はいつも、拾い集めたモノの中から宝物を見つけたいと思っています。そして、大人になっても遊び心を失わない方法、日常生活の中に意味を見出す方法を模索し、退屈せずにいるにはどうしたらいいかを考え続けています。(翻訳:野澤朋代)

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