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NYのアート中心地はチェルシーからトライベッカへ──地殻変動はなぜ起きたのか?

ニューヨーク・アートシーンに異変が起きている。これまで不動の中心地として世界的知名度を誇ってきたチェルシーが勢いを失い、代わりにトライベッカが台頭しつつあるのだ。

マンハッタンの風景。2023年12月撮影。Photo: Getty Images

東京と同じく、ニューヨークは変化が激しい。この街で「年を重ねる」ことは容易ではなく、それはコマーシャルアートの世界にも当てはまる。

マンハッタン・トライベッカ地区で新しいギャラリーが相次いでオープンする一方、ダウンタウンのギャラリーのエコシステムは2023年に入って大きく縮小し、たった3カ月の間に4つのギャラリーが閉店した。

ダイアモンド・スティンジリーやパピーズ パピーズ、ミンディ・ローズ・シュワルツ、ディーン・サメシマといった才能を発掘してきたクィア・ソーツ(Queer Thoughts)は、今年9月、その11年の歴史に幕を下ろした。また2013年にオープンし、香港にも拠点のあったデニー ギャラリー(Denny Gallery)も、10月に営業を終えることを発表。さらに設立から20年の間、スターリング・ルビーやサラ・クワイナーといった才能の発掘と彼らのキャリアアップに貢献してきたベテランギャラリー、フォクシー・プロダクション(Foxy Production)、そして、マーケットの流行に迎合することのない独自の審美眼にアーティストたちも厚い信頼を寄せていたジャスミン・T・ツオウ率いるJTTも、クローズを余儀なくされた。

こうした状況の背後にある要因を明らかにしようとする者は多くないが、容赦ない家賃の高騰や、大規模ギャラリーによる若手の引き抜きが与えた影響は無視できない。フォクシー・プロダクションの創設者らは声明で、「(ギャラリーが)新たな形態をとるときが来た」と述べ、クィア・ソーツは「より個人的な芸術活動を追求するため、ギャラリー閉鎖を決めた」と説明している。

現時点では定義しがたい斬新な作品を多く取り扱い、実験的なキュレーションに取り組んできたこうしたプラットフォームがこの街から減っていくのは寂しい限りだ。

もちろん、そうした空間が「消滅」したわけではない。2023年を通じて、中規模および優良ギャラリーが続々とトライベッカに拠点をオープンしたことから、ニューヨークのアートの中心地が「移動」しただけ、と見ることもできる。ロサンゼルスが本拠地のギャラリー、ブラム&ポーは今年、共同経営者のジェフ・ポーが去ったことで「ブラム」に改名し、ニューヨークのアッパー・イースト・サイドにあった支店をホワイト・ストリートに移転すると発表した。また、同じくロサンゼルスの重鎮、アナト・エブギ・ギャラリー(Anat Ebgi Gallery)はブロードウェイに進出。ここにはすでに、アーネ・グリムシャーが統括するペース・ギャラリー関連のプロジェクトスペース「125 Newbury」やP.P.O.W.が拠点を構えているほか、来年、マリアン・ グッドマンとアレクサンダー・グレイ・アソシエイツも支店を出すことが決まっている。

不動産業者でアートコレクターのジョナサン・トラヴィスは、ニューヨークのアート中心地がトライベッカへ移っている現状について、「多くの人は、家賃高騰が理由で複数のギャラリーがチェルシーから追い出されてしまったと考えているが、これは完全に誤った認識だ」と語る。確かに、トライベッカとチェルシーでは、1平方フィートあたりの価格はほぼ同じ(100~120ドル前後)。トラヴィス曰く、こうした変化は「賃借対照表(BS)の話ではなく、あくまでフィーリング」。この変化は、おそらくこれからも続くだろう。

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