テート・モダンに若者離れ? 来館者数1位を誇った現代美術館の財政難はなぜ起きたのか

世界最多の来館者数を誇る現代美術館としての地位を築いてきたテート・モダンがいま、来館者数の減少と財政難に直面している。展覧会の内容をその要因と指摘する声もあるなか、アートニュースペーパーが、その背景をより詳細に分析。その結果、ブレグジットなどの外的要因の影響が深刻であることが浮かび上がってきた。

ルイーズ・ブルジョワ《ママン》(1999)が展示されたテート・モダンのタービンホールの様子。Photo: In Pictures via Getty Images

テート・モダンは、公式には「世界で最も来館者の多い現代美術館」かもしれないが、6カ月前に赤字を報告して以降、批判の声が強まっている。

アートニュースペーパーの最新の記事によれば、一部の批評家たちは、同館の財政難の根本的な原因として、テート(イギリス内に5館──モダン、ブリテン、リバプール、セント・アイヴス、リバプール──を運営。うちリバプールは改装のため2027年まで休館中)の展覧会プログラムやキュレーション戦略の問題を指摘している。つまり、展覧会が人を呼べていないという批判だ。実際に、イギリス国内からの来館者数はコロナ前の95%まで回復しているが、海外からは61%にとどまっている。

ただし、実態はより複雑だろう。来館者数の減少には、ブレグジットや社会経済的な変化も影響しているという調査結果もある。

同紙が今年4月に発表した年次の訪問者数調査において、2024年のテート各館の来館者数は、過去最高を記録した2019年と比べて大幅に減少。テート・モダンはパンデミック前よりも25%減少し、テート・ブリテンは32%減。テート・セント・アイヴスではほぼ40%の減少となった。テート・モダンはグループ全体の年間来館者の約4分の3を占める。

アートニュースペーパーはまた、イギリス政府の統計、大学の入学者データ、観光動向、アーツ・カウンシルやアート・ファンドの調査、そしてテート自身の内部調査などを横断的に分析。その結果、「来館者数は、むしろ国内外の社会経済的要因に左右されている」ことが示された。

同紙の記事の中で、テートはこうコメントしている。

「国内の来館者数はコロナ前の95%近くまで戻っている一方で、特に16〜24歳のヨーロッパからの来館者が大きく減少している。この年齢層は、いわゆる美術館然とした施設ではなく、現代美術館にとって重要なターゲット層です」

訪問者数調査によると、来館者数が減少しているとはいえ、テート・モダンは2014年以降、2022年まで、2021年を除いて「世界で最も来館者の多い現代美術館」の座を維持してきた(2021年はポンピドゥー・センターニューヨーク近代美術館が上回った)。現代美術館以外の施設を含めると、2024年の最新調査においても上位5位にランクインしている(上位4館はルーブル美術館バチカン美術館大英博物館、ニューヨーク近代美術館)。

テートの観客動員とイノベーション部門ディレクターであるリアム・ダーボンとそのチームは、過去10年間の来館者のデモグラフィックの変化を精査。それによれば、こうした変化はイギリス全体の訪問者層の変化とも一致しているという。

アートニュースペーパーは記事の中で、「(テートの)マリア・バルショウ館長にとって最大の発見は、EU出身の若年層、特に16〜24歳の来館者が減少していることだった。この世代は、「テート・モダンとテート・ブリテンの来館者の6人に1人を占める重要な層」であり、バルショウ館長はこう語っている。

「数字がすべてを物語っています。2019〜2020年には、テート・モダンにはヨーロッパからの16〜24歳の来館者が約60万9000人いましたが、2023〜2024年には35万7000人に減少しています。この世代の若者たちは、ブレグジットによって教育や就労の機会が変わり、さらにコロナ禍によって学業の終わりや生活様式そのものに大きな影響を受けています。そして一般的に、彼らの旅行回数は減少しています」

イギリス国家統計局の調査によると、EUからの年間訪問者数は、2015年から2019年にかけては2400万人で推移していたが、2023年には約2200万人に減少。ウエストミンスター大学で旅行と観光を専門とするロス・ベネット=クックは、アートニュースペーパーの記事の中で「若者たちは、団塊世代やそれ以上の世代に比べて生活費高騰の影響を大きく受けています。Z世代やミレニアル世代は、旅行の面でもっとも大きな負担を抱える層なのです」と述べている。

ダーボンはまた、テート各館での来館者層には違いがあるものの、こうしたデモグラフィックの変化はグループ全体で顕著だと指摘し、「16〜25歳、あるいは16〜35歳の層では、いわゆる伝統的な博物館・美術館よりも、アートギャラリーに足を運ぶ傾向が見られる」と続けている。

つまり彼の見解では、若年層は伝統的な博物館・美術館よりも、テートのような現代美術館にとってこそ重要な層であり、EUからの若年層来館者の減少は、その意味でより深刻だといえる。

from ARTnews

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