安藤忠雄、ドバイ初の近現代美術館を設計へ。「海と真珠」を着想源にドバイの精神を反映

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイは10月25日、初となる近現代美術に特化した美術館建設計画を明らかにした。設計は安藤忠雄。ドバイの公共コレクションが展示されるほか、アートフェアを開催するためのスペースも設けられる。

ドバイ美術館の完成予想図。Photo: Al-Futtaim Group.

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイは、初となる近現代美術館「ドバイ美術館(The Dubai Museum of Art:DUMA)」の建設を10月25日に発表した

DUMAは、ドバイ首長であり、UAEの副大統領兼首相を務めるシェイク・モハメッド・ビン・ラシード・アル・マクトゥームの指揮のもと、中東および北アフリカでショッピングモール、小売店などを運営するマジド・アル・フッタイム・グループが投資・開発を担う。場所はペルシャ湾の入江であるドバイ・クリーク沿いで、具体的な開館日はまだ決まっていない。

発表によると、DUMAは地下階を持つ地上5階建てで、1階と2階は「ドバイの精神を反映することを意図してキュレーションされた多様な近現代美術コレクション」を展示するギャラリー、3階にはレストランとVIPラウンジが設けられ、そのほか図書館、学習室、アートフェアを開催することができるイベントスペースも作られる。

DUMAの展示の中核をなすドバイ・コレクションは、地元のパトロンからの長期貸与によって構築された首長国初の近現代美術の公共コレクションで、所蔵点数は1000以上にのぼる。同コレクションの一部は、今年4月に開催されたアート・ドバイでお披露目されたほか、これまで数度、キュレーション展によって公開されている。コレクションはすべて、デジタルプラットフォーム上で閲覧可能だ。

DUMAの設計は、日本の地中美術館やパリのブルス・ドゥ・コメルス、テキサス州のフォートワース現代美術館を手掛けた安藤忠雄に白羽の矢が立った。その理由について、マジド・アル・フッタイム・グループの副会長兼CEOであるオマール・アル・フタイムは、安藤の建築が「光と静寂と魂の言語を語る」からだと述べた。

安藤によると、DUMAのデザインは、ドバイの遺産を象徴する2つのもの、「海と真珠」からインスピレーションを得ているという。完成予想図によると、美術館は島のように海にせり出しており、陸とは橋で繋がっている。曲線を描く建物は、屋根の開口部から光が中央展示ホールに降り注ぎ、真珠の輝きを想起させる。シンプルな幾何学的デザイン、滑らかなコンクリート、そして調和のとれた採光は、世界で高く評価される安藤の瞑想的なデザイン美学の特徴だ。

DUMAのプロジェクトについて、ドバイ首長のアル・マクトゥームは、「文化と芸術は都市の魂であり、その進歩を映し出すレンズです。それらは都市のビジョンと人道的使命の深さを反映します。DUMAは都市にとって新たな灯台となり、芸術シーンを向上させ、世界的な文化的地位をさらに強化するでしょう」と語った。

ドバイは近年、国家を挙げて世界的に芸術的地位を高めるためのインフラプロジェクトに取り組んできた。2008年にはアルクオズ工業地帯にある倉庫群を改装し、美術ギャラリー、コミュニティスペース、その他の芸術にまつわる組織や企業を収容する4万6000平方メートルの「アスケラル・アベニュー」をオープン。2017年にはアスケラルに、プリツカー賞受賞建築家レム・コールハースと彼の事務所OMAが設計した展示スペース「コンクリート」、2022年にはシェイク・ザイード・ロードに体験型の科学博物館「ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー」などを開館させている。DUMAは、これらドバイの文化インフラ整備の流れを継ぐ新たな拠点となる。

ドバイが独自に芸術環境を充実させる一方で、UAEを含めた中東の湾岸地域は来年、芸術分野において変革期を迎えようとしている。カタールでは2026年2月に「アート・バーゼル・カタール」が初開催され、さらに11月には国際美術展を初開催することが発表された。アブダビでは同年11月、フリーズがアブダビのアートフェア「アブダビ・アート」を引き継ぐ形で「フリーズ・アブダビ」を初めて開催する。

一方、こうした文化振興の動きの陰でUAE政府の紛争関与が問題視されている。今週、スーダンのエル・ファシェルで虐殺を行う民兵組織にUAEが武器を提供していると報じられ、人権団体から非難を受けた。UAEはこれらの報道に対する声明をまだ発表していない。(翻訳:編集部)

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