カタールが4年に一度の国際美術展を2026年創設。初回テーマは「Unruly Water(手に負えぬ水)」

2026年のアート・バーゼル進出を含め、世界的なアートハブを目指し様々な大型プロジェクトが進行中のカタール。この国で、2026年11月に4年に一度の国際美術展「ルバイヤ・カタール(Rubaiya Qatar)」がスタートすることが発表された。

発展目覚ましいカタール・ドーハの様子。Photo: Lintao Zhang/Getty Images

世界的なアートハブを目指すカタールが、2026年11月に4年に一度の国際美術展(クアドリエンナーレ)を立ち上げる。「ルバイヤ・カタール(Rubaiya Qatar)」と名付けられた同芸術祭の初回テーマは、「Unruly Water(手に負えぬ水)」。キュレーションを務めるのは、ニューヨーク州バード大学のキュラトリアル・スタディーズセンター、および、ヘッセル美術館エグゼクティブ・ディレクターのトム・エクルズ、MoMA PS1のチーフ・キュレーター兼キュラトリアル・アフェアーズ・ディレクターのルバ・カトリブ、『ArtReview』編集長のマーク・ラポルト、そして、シンガポール国立美術館キュレーターのシャビール・フセイン・ムスタファの4名だ。展覧会タイトルは、南アジアの水文化を題材にしたSunil S. Amrithの著書『Unruly Waters』に由来する。

会場は、クーンズやハースト、村上も展示したアル・リワク

2026年11月に開催が予定されている芸術祭「ルバイヤ・カタール(Rubaiya Qatar)」の会場となるアル・リワク。写真は、同会場で2013年に開催されたダミアン・ハーストの個展の様子。Photo: Niccolo Guasti/Getty Images

会場となるのは、イスラム美術館(MIA)隣の展示館「アル・リワク」。これまでジェフ・クーンズ村上隆といった著名アーティストの大型展も開催してきた空間だ。

その一角で先日、「Evolution Nation」フェスティバルの一環として、リクリット・ティラヴァニのパンを焼くパフォーマンス作品《untitled 2025 (no bread no ashes)》が発表された。2026年のクアドリエンナーレでも展示予定の本作は、カタールに暮らす文化背景も多様なパン職人たちが毎週金曜日の午後4時から午後6時に集まり、パンを焼く行為を通して交流するというもの。ティラヴァーニャのほかにも58名のアーティストが初回展に参加する。

ルバイヤ・カタールのディレクター、シェイカ・リーム・アル・サーニは声明で、「リクリット・ティラヴァーニャの《untitled 2025 (no bread no ashes)》は、ルバイヤ・カタールが掲げる『包摂と協働』の精神を体現しています。人々がパンを焼き、分かち合うこのプロジェクトは、シンプルな行為をコミュニティと対話の象徴へと変換するのです」と述べ、こう続けた。

「2026年の初回開催に向けて、ルバイヤ・カタールは創造的な交流を促進し、多様で躍動的な文化景観を映し出していきます」

キュレーションの着想源は「海のシルクロード」

2023年10月末、前出のエクルズとともにカタールを訪れたティラヴァニは、その際にカタール博物館(Qatar Museums)理事長のシェイカ・アル・マヤッサ・ビント・ハマド・ビン・ハリーファ・アル・サーニと出会い、ドーハでのプロジェクト制作を依頼された。ティラヴァニは、「地域コミュニティをつなぐものを作りたかった」と述べ、エクルズとともに、「カタールに暮らす多様な人々と、彼らが焼くパンの文化をリサーチした」という。

エクルズはまた、アル・リワク周辺を「都市の中でもっとも民主的な場所のひとつ」と形容。週末にはあらゆる背景の人々で公園がにぎわうことから、「その多様性をクアドリエンナーレにも反映させたい」と語った。

カタール博物館が管轄するイスラム美術館は、湾岸諸国の文化アイデンティティを世界に発信する礎として2008年に開館。Photo: Petr Svarc/UCG/Universal Images Group via Getty Images

さらに彼は、イスラム美術館のコレクションに含まれる10世紀の沈没船の遺物からインスピレーションを得たという。この船は、バグダードからインドネシア、さらには中国まで航行したとされ、「海のシルクロードの確かな証拠」であるという。出展作家の選定にもその地理的広がりを反映させることを目指すとして、エクルズはこう説明する。

「水の流れ、モンスーン、交通、移住のパターンをたどると、10世紀の様相がいまのカタールの姿と重なります。それが、作家を見出すための地図となりました。芸術祭は、気候、水、移動、そしてそれらが形づくる今日の地政学的現実を映し出すものになるでしょう」

ティラヴァニのパフォーマンスは、来年2月に開催予定の「アート・バーゼル・カタール」でも再演される予定。この新たなフェアでは、アーティストのワエル・シャウキーが中心的役割を担う。一方、エクルズによれば、クアドリエンナーレ本番ではティラヴァニのインスタレーションに「パンの形から着想を得た屋根」が設けられる予定で、芸術祭終了後も恒久的な建築として残される可能性があるという。

中東の文化ハブとして台頭するカタール

ジャン・ヌーヴェルが設計を手がけ、2019年にオープンしたカタール国立博物館も、カタール博物館の管轄。Photo: Nese Ari/Anadolu via Getty Images

この20年でカタールのアートシーンは飛躍的に発展してきた。それを象徴するのが、カタール博物館が運営する「マサフ:アラブ近代美術館」だ。しかし、これまでの同国は芸術祭形式の現代美術展の開催実績が乏しかった。

そんな中で新設される「ルバイヤ・カタール」は、湾岸地域で最も注目を集める定期展のひとつとなる見込みだ。ライバルは、1993年創設のシャルジャ・ビエンナーレ(UAE)。さらに、サウジアラビアが政府主導で行うディルイーヤ現代美術ビエンナーレやイスラミック・アーツ・ビエンナーレとも、国際的な関心を競うことになる。

近年、カタールは文化インフラの拡充を加速させている。インドのモダニスト、M・F・フセインのための専用美術館や、ヘルツォーグ&ド・ムーロンが設計を手掛けるオリエンタリズム美術に特化した世界最大規模の新美術館、ルサイル美術館(Lusail Museum)など、大型プロジェクトが進行中だ。2025年には、アート・バーゼル・カタールとともに、初の「ヴェネツィア・ビエンナーレ・パビリオン」も立ち上げる予定だ。(翻訳:編集部)

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