アート・バーゼルが中東に進出。「厳選されたギャラリー」とともに、2026年2月にカタールで開催
アート・バーゼルが2026年2月にカタールでフェアを開催することを発表した。カタールが掲げる「国家ビジョン2030」のもと開催される本アートフェアには、厳選された50のギャラリーが出展する見通しだという。

スイスやアメリカ、フランスでアートフェアを展開するアート・バーゼルは、カタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)およびQC+と提携し、2026年2月にドーハで新たなアートフェアを開催すると発表した。これは、国際的な認知を持つアートフェアとしては中東地域で初めて開催されるものとなる。アート・バーゼルのCEO、ノア・ホロウィッツは急成長を遂げているカタールのアートシーンについて触れながら、次のような声明を発表した。
「アート市場の世界的な成長促進、アーティストやギャラリーの支援、新たなコレクター層の開拓は、当社のミッションの中核を成しています。カタールには豊富なコレクションが存在し、優れた文化機関が長きにわたって構築されており、才能あふれるアーティストの育成・支援のための土壌が整っています。これは、アート・バーゼル・カタールの成功の確かな基盤となるでしょう」
プレスリリースによれば、アート・バーゼル・カタールの初回開催は「中東、北アフリカ、南アジア、その他の地域から一流のギャラリーや芸術的才能を紹介する、ユニークなプラットフォーム」を提供することを目指している。
広報担当者によれば、最初の数回は「厳選された約50のギャラリー」が出展する予定。これは、アート・バーゼル・パリ(195ギャラリー)やアート・バーゼル(291ギャラリー)と比べ大幅に少ない。担当者は、「今回のアプローチは、現在の市場に対応しつつ、将来成長するための基盤を築くことを目的としています」と続けた。
このフェアは、ドーハ・デザイン・ディストリクトのM7で開催される。M7はクリエイターが集うハブであり、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムも実施している。アート・バーゼル・カタールのディレクターは数カ月以内に発表される予定で、それに合わせて応募期間や出展者選定の詳細も公開される見込みだ。
このフェアは、文化振興を柱とする「カタール国家ビジョン2030(2030 Initiative)」の一環として開催される。「カタール国家ビジョン2030」のなかでも特に注目すべきプロジェクトの1つが、ヴェネチア・ビエンナーレのジャルディーニに同国の永久的な国立パビリオンを建設する計画だ。現在5つの博物館と美術館を運営するカタール・ミュージアムズは、2030年までにアート・ミルとルサイル博物館を含む3館を新設する計画を進めている。カタール・ミュージアムズの会長を務めるシェイカ・アル・マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリファ・アル・タニは次のような声明を発表している。
「殿下が掲げるカタール国家ビジョン2030のもと、私たちは文化・クリエイティブ産業を中心とした知識経済への移行を進めています。カタール・ミュージアムズの設立20周年に際し、アート・バーゼルをパートナーとして迎え入れ、この地域のクリエイティブ産業をさらに後押しできること、そして才能ある人々に新たな芸術体験と機会を提供できることをうれしく思います」
アート・バーゼル・カタールのパートナーであるQSIは、2022年ワールドカップのカタール招致の大きな原動力となった。当時、カタール博物館はドーハ全域に草間彌生、ラシード・ジョンソン、ダミアン・ハースト、カタリーナ・フリッチュ、シモーネ・ファタル、リチャード・セラ、KAWSらに委託した40点のパブリック・アートを設置し、ワールドカップをさらに盛り上げた。
カタールでアート・バーゼルが開催されることについて、QSI会長のナセル・アル・ケライフィは声明で次のように話した。
「FIFAワールドカップカタール2022の開催を実現した当社が、世界的に有名なアート・バーゼルをカタールおよび中東に誘致する役割を担うことを誇りに思い、興奮しています。あの大会が忘れがたく示したように、スポーツと文化は人々を結び付け、世界の連帯を促します。それはQSIの使命の中核をなすものです。私たちはQC+と協力し、アート・バーゼルをカタールに迎えることを喜ばしく思います。この提携は地域に刺激を与え、偉大な文化組織へのさらなる投資を誘発することでしょう」
一方、ホロウィッツは声明の中で次のようにコメントした。
「私たちはシェイカ・アル・マヤッサ・ビント・ハマド・ビン・ハリファ・アル・タニ閣下のカタールの芸術エコシステムに対する特異なビジョンに強く心を動かされ、アーティストが最高の可能性を発揮できるよう支援するというコミットメントを共有しています。また、QSIとQC+との協力によって開かれる可能性、つまり、可能な限り幅広い観客のための新たな接点づくりの機会に恵まれたことに、大いに励まされています」
現在、この地域で最も知られているアートフェアは、毎年4月に開催されるアート・ドバイだ。今年は120のギャラリーが参加し、そのうちボルトラミ、ペロタン、アルミン・レッシュ、ワディントン・カストットなど、ごく一部のみが中東以外に本拠地を持つブルーチップギャラリーだった。このフェアのアーティスティック・ディレクターであるパブロ・デル・バルは、かつてUS版ARTnewsの記事でこう語っている。
「これはトロフィーのための市場ではありませんし、順番待ちをしている人数で勝つための争いではないのです」
来年のアート・バーゼル・カタールの到来は、ほぼ確実に中東のアートフェアのダイナミクスを変えるだろう。カタールでのフェアはアート・バーゼルにとって世界で5つ目となる。1960年にスイスのバーゼルで創設されたアート・バーゼルは、過去65年間にわたり地元で世界で主要となるフェア「アート・バーゼル」を運営してきた。その国際的な拡大は2000年代に始まり、2002年にはアート・バーゼル・マイアミビーチが設立された。
その約10年後、アート・バーゼルは東アジアに目を向け始めた。2011年にアート香港フェアの株式の60%を取得し、2013年までに完全に買収を完了、アート・バーゼル香港として生まれ変わらせた。そして2022年にはパリにも進出。同年初頭、毎年10月に開催してきたパリの老舗フェア、FIACが長年会場にしてきたグラン・パレの同月のスケジュールの取得に成功した。
アート・バーゼルの世界への拡大について、アート・バーゼルの親会社であるMCHグループの会長兼グループCEOのアンドレア・ザッピアは声明で次のように述べた。
「私たちはアート・バーゼルの成長に取り組んでおり、2022年のアート・バーゼル・パリの立ち上げに続いて、5つ目のフェアを私たちの独占的かつ勢いあるポートフォリオに加える準備ができています。MCHグループは、この提携の長期的な成功を確実にするために、独自のリソースと能力を提供していきます」(翻訳:編集部)
from ARTnews