中東最大級、アート・ドバイをレポート。「競争」ではなく「周縁地域の芸術への特化」で独自性確立

中東随一のアートフェア、アート・ドバイが4月18日~20日の日程で始まった。同フェアはアート・バーゼルなどの世界的フェアとは一線を画し、独自の立ち位置を確立しつつあるようだ。16日と17日に行われたVIPプレビューの様子をUS版ARTnewsがレポートする。

アート・ドバイで展示された、モハメド・カゼム《Directions (Merging)》。Photo: Getty Images for Art Dubai

華やかさの裏にある独自性

中東最大級のアートフェアアート・ドバイが、マディナット・ジュメイラで始まった。VIPプレビューの初日、4月16日には世界的なフェアの定番である、サングラスをかけたVIPの人々がシャンパンを片手に洗練された挨拶を交わす姿が見られた。開場は通常のフェアよりも3~4時間ほど遅い午後2時だったが、展示ホールが実際に賑わい始めたのは午後5時前。それでも開始早々にいくつかの販売報告があり、来場者も多かった。

その中には著名人の姿もあった。インドの実業家で芸術支援も行うウシャ・ミッタルや、クリスティーズのCEOボニー・ブレナン、クリスティーズの重役アレックス・ロッター、ロンドンのディーラー兼コレクターのアイヴァー・ブラカなどが訪れており、US版ARTnewsのトップ200コレクターズに名を連ねるバルジール・アート財団の創設者、スルタン・スード・アル・カセミやエリー・コウリも目撃された。コウリは開場直後に複数の作品を購入したという噂もある。

アート・ドバイの華やかさの裏には、自信に満ちた成熟がある。アート・バーゼルとも違っているし、そうなろうとしているわけでもない。今年のアート・ドバイには60以上の都市から約120の出展者が参加したが、ヨーロッパやアメリカの同種のフェアではあまり注目されない地域に明確な重点が置かれていた。中東や湾岸地域から多くのアーティストやギャラリーが参加し、インド、イラン、モロッコ、中国、シンガポールなどからの出展も目立った。

ドバイで評価の高いジャミール・アーツ・センターのディレクター、アントニア・カーバーは、US版ARTnewsの取材に対して、「過去20年間で、周縁と思われていた場所が世界の中心になりました。それはドバイという都市自体であり、それに伴うアート・ドバイも同様です」と語った。

世界的に広がる「周縁」の国々への注目

同フェアに参加した数少ない海外のブルーチップ・ギャラリーも、展示は周縁を中心に据えたものだった。フランスのアルミン・レッシュは、フランス系シリア人アーティストのファラ・アタシ、レバノン人アーティストのアリ・チェリ、イラン人アーティストのメフディ・ガディヤンルー、ベトナム人アーティストのティア=トゥイ・グエン、ネパール人アーティストのツェリン・シェルパ、そしてロサンゼルスを拠点とし、ブラムのLA拠点でロバート・コールスコット展をキュレーションしたばかりのアーティスト、ウマル・ラシドを含む、世代や国籍を超えたアーティストたちの作品を展示した。

一方、ベルリンの有名ギャラリー、ペレス・プロジェクツは、中国人アーティストのアン・ムーンによるアラブ首長国連邦の地下ケーブルネットワークを題材にした実験的な絵画を中心に展示を構成した。同ギャラリーの創設者、ハビエル・ペレスはアート・ドバイに出展した理由について、「この地域での関係を構築しているため、戻ってきました。秩序や進歩、程よいペースを求めるコレクターにとって、ドバイの魅力が高まっています。ドバイの人々は予想していなかったと思いますが、それがポイントなのです」と説明した。

エフィー・ギャラリーのブース。Photo: Courtesy of Art Dubai

また、地元のギャラリーにとってもアート・ドバイは重要な舞台だった。2008年にドバイの有名なアルセルカル・アベニューに最初に開店したギャラリーの1つであるカーボン12の創設者、クロシュ・ヌーリは初日が好調な売れ行きで、2日目に完全に展示替えが必要なほどだったと明かした。

そのほか早い段階で売り上げを報告したのは、インド・コルカタのエクスペリメンター・ギャラリーのプリヤンカ・ラジャ展で、ブースの80%を売却したという。そしてフェアの主要パートナーであるエミラティの持株会社A.R.M.は、ロンドンを拠点とするバングラデシュ人アーティスト、ラナ・ベグム(ドバイのサード・ラインギャラリー)とフランス人アーティスト、クリスティン・サファ(ボルトラミ)の作品を含む27万5000ドル(約3914万円)分の作品を購入したとUS版ARTnewsに語った。

この盛り上がりはアートフェアだけではない。ドバイとニューヨークを拠点とするレイラ・ヘラー・ギャラリーは、中東とその全域のアーティストを集めて、コンテンポラリー部門とモダン部門の2つのブースで参加した。同ギャラリーの代表、レイラ・ヘラーは、アート・ドバイとドバイ市内にあるギャラリーの両方で、アメリカよりもはるかに多くの認知と注目を集めていると語り、こう続けた。

「私のギャラリーに所属する女性アーティストたちにとって、この地域はアメリカよりもエンパワーメントを感じます。私のアーティストたちはスーパースターです。ここで得られる評価は本物です」

現代アフリカ美術の推進に力を入れるドバイのエフィー・ギャラリーは、US版ARTnewsの生涯功労賞を受賞したばかりのマリア・マグダレナ・カンポス=ポンスや、ヒュー・フィンドルター、アブドゥライェ・コナテ、J・K・ブルース・ヴァンダープイエを集めた出色の展示を行った。ブースに派手さは無かったものの、カンポス=ポンスの水彩画の三連作は輝くように美しく、コナテの層状のテキスタイル作品は西アフリカと中東の視覚的伝統の間に優雅な類似点を提示していた。また、フィンドルターの「フラワーヘッズ」シリーズはアフリカの仮面制作の儀式とヴェネチアのムラーノガラスの素材の繊細さを融合させたものになっていた。

古代の伝承をデジタルで再構築

フェアで最も野心的なセクションはおそらく、4回目を迎えるアート・ドバイ・デジタルだろう。ゴンサロ・エレーロ・デリカドがキュレーションしたこのセクションでは、エコロジカルな題材からアルゴリズムによる占いまで、あらゆるものを追求するためにAI、VR、複合現実を使った約30のプレゼンテーションが行われた。

このセクションの中で最も注目されていたのは、ドバイのインロコ・ギャラリーで展示された、イラン人アーティスト、モーセン・ハズラティによる身体とデジタルを融合させた「フィジタル」インスタレーション《ファル・プロジェクト》だ。この作品は、手作りの彫刻、ペルシャの詩学、人工知能を融合させ、デジタルコンテキストにおける占い—テキストを通じた古代の占いの実践—を探求しており、NFC技術(近距離無線通信)を組み込んだ陶製の15体の鳥の彫刻で構成されている。観客が訪れると、各彫刻はカスタムアルゴリズムを起動し、オープンソースのデジタル素材からリアルタイムで生成された占いを届ける。ハズラティは、この作品は14世紀の神秘主義者ハーフェズの詩から精神的指導を求めるイランの伝統「ファーレ・ハーフェズ」からインスピレーションを得たという。その結果、機械の予測というよりも、囁かれた記憶のような体験が生み出された。

もう1つ印象に残ったデジタル展示は、ロンドンを拠点とするエース・アート・アドバイザリーによるBREAKFAST展だ。BREAKFASTは、リアルタイムのデータを動的な物理形態に変換する彫刻作品を制作することで、物理とデジタルの境界を橋渡ししている。展示作品《カーボン・ウェイク》(2025)は、都市のエネルギー使用量をリアルタイムで視覚化し、化石燃料と再生可能エネルギーの間の移行を波打つ動きで劇的に表現している。もう1つの《ポートレート・イン・ピンク、ブルー、アンド・シルバー》(2022)は、各鑑賞者の短いビデオクリップをキャプチャし、それをアーティストがカスタムした記憶媒体を使用して循環させ、参加者の関与と反映の集合的アーカイブを作成する。

同フェアのコミッションプログラムもまた、新しい段階に挑んでいた。注目すべきは、メキシコのアーティスト、ヘクター・サモラによる幾何学的な形と有機的な動きを融合させた彫刻作品のインスタレーションと、アラブ首長国連邦のアーティスト、モハメド・カゼムが過去海で漂流した経験から生み出された、座標を使ったデジタル作品だ。

VIPプレビュー初日の午後9時になっても、通路はまだ賑わっていた。ニューヨークやロンドンでは、その時間になるとアート関係者はたいてい夕食中だが、ドバイではビジネスがちょうど始まったところだった。フェアの芸術監督であるパブロ・デル・バルはUS版ARTnewsに、「これはトロフィーのための市場ではありませんし、順番待ちをしている人数で勝つための争いではないのです」と語った。(翻訳:編集部)

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