2025年アウトサイダー・アートフェアをレビュー。市場第一主義の業界に問う「アートの独自性」
このところコレクターの間で関心が高まっているアウトサイダーアート。ニューヨークでは毎年3月初旬に、専門的な美術教育を受けていないアーティストの作品を集めたフェアが開かれる。今年のアウトサイダー・アートフェアから、US版ARTnewsの記者が注目したブースや作家を紹介する。

今年もニューヨークでアウトサイダー・アートフェアが開催された。その特徴を一言で表すなら、良くも悪くも雑然としていることだろう。ブースからはみ出さんばかりの物質的過剰さが目に付くこのフェアは、生き生きとした心の動きが可視化されたところに魅力を感じることもあるが、アンティークショップが演出する古びた佇まいのように、自意識過剰に感じられることもある。少なくとも昨年のフェアに比べれば今回はだいぶん地味ではあるものの、この点に関してはいつもと同じだった。
1993年の初回から、アウトサイダー・アートフェアはこうした賑やかさで知られている。そして、このフェアの文脈においては、カオスは傑出したイマジネーションと同一視される傾向にある。それは、市場第一主義のこの業界において、何を真に独自性のあるアートと見るかについての混乱の結果ではないかと思う。
もっとシンプルに説明してみよう。それは、社会で認められた慣習や制度の外に置かれた、あるいはそうした制度から外れた人物が生み出す、その境遇と切り離せない芸術表現。あるいは、見る者に新しい発見の感覚を与えられる作品とでも言うべきだろうか。実際、66の団体が出展し、マンハッタンのメトロポリタン・パビリオンで開催されたフェアに並んだ作品の多くは、この定義に当てはまる。
たとえば、サンフランシスコのスタジオ、クリエイティビティ・エクスプロアド、そしてプログレッシブ・アーティスト・スタジオ・コレクティブ(PASC)と共同でブースを出したニューヨークのシェルター・ギャラリーは、どちらも発達障害のあるアーティストの作品を出展。PASCが展示したニコール・アペルのポップアートのパロディ、そしてクリエイティビティ・エクスプロアドのアントニオ・ベンジャミンによるファンキーなヌード作品(100人以上の人々の助けを借りて完成したという)は圧巻だ。
また、1940年代から70年代にアメリカの受刑者たちが作ったオブジェやデザインを集めたセル・ソラスのブースも目を引いた。タバコの箱を折り畳んだり、紙を編んだりして作られた財布や壁掛け作品の職人技には目を見張らされる。セル・ソラス創設者のアントニオ・イニスの説明によると、これらの作品はもともと贈り物として作られたもので、自身の父親もニューヨークのライカーズ島にある刑務所に収監されていた友人からバッグを贈られたことがあったという。
そのほか、2025年のアウトサイダー・アートフェアに出展された作品で特筆すべきものを以下にまとめた。
I Made Griyawan/Diamond Gallery(イ・マデ・グリヤワン/ダイヤモンド・ギャラリー)

伝統的なバリ絵画には水平の線がほとんどなく、そこに描かれるのは人間と神話が交わる聖なる秩序だった。1930年代になると、バリ島にあるバトゥアン村のアーティストたちが伝統的なモチーフを西洋美術の道具を用いて描き始め、バトゥアン・スタイルと呼ばれる絵画が生まれた。このジャンルをさらに推し進め、渦巻くような伝統絵画とは異なる情景を絵にしているのがバリ人アーティストのイ・マデ・グリヤワンだ。
このブースには《The Many Colors of Your Balloon and My Balloon(あなたの風船と私の風船のたくさんの色)》(2008)など、彼が手がけた絵画が並ぶ。子どもたちが楽しげに揺らしている風船に用いられた原色は、周囲の伝統的な渋い色調に比べ驚くほど鮮やかだ。空と海がはっきりと分かれているのも伝統的な画風とは一線を画している。そして、波紋のような模様で埋め尽くされているため、空も海も窮屈なところはなく、スケール感と動きが感じられる。
Feheley Fine Arts(フィヒリー・ファイン・アーツ)

フィヒリー・ファイン・アーツは、上記のグリヤワンのように、伝統芸術を独自の方向へ導いてきたイヌイットの作家たちを専門に扱うギャラリーだ。このブースで紹介されている偉大なアーティストたちは、残念ながら既にこの世にはいない。しかし、だからこそ作品が紹介されることの重要性が増したとも言える。
2016年に死去したアニー・プートゥグックと2013年に死去したケノジュアク・アシェヴァクの物憂げな造形と大胆なシンメトリーは、いつ見ても印象的だ。氷が広がる暗い風景の厳粛な美しさと、漠然とした不穏さを表現したウールーシー・サイラの図案的なドローイングもまた心に残る。
Selections from Collectors/Fleisher/Ollman and Ricco/Maresca(著名コレクションからの出品/フライシャー/オルマンとリッコ/マレスカ)

フライシャー/オルマンとリッコ/マレスカは、どちらもこのフェアの常連となっている権威あるギャラリーだ。今回は両ギャラリーとも、著名コレクションから作品をピックアップして展示している。フライシャー/オルマンは、生涯にわたってニューヨークでアウトサイダーアート作品を収集し、昨年死去したオードリー・ヘックラーのコレクションからマルティン・ラミレスの作品を出品。羽毛に囲まれた線路がクレヨンと鉛筆で生き生きと描かれている。
一方、リッコ/マレスカは、巨匠ヘンリー・ダーガーの絵や中国の仏教彫刻、ヴィンテージの人形など、幅広い作品を収集していたロバート・グリーンバーグの膨大なコレクションの一部を展示した。スイス人アーティストのアロイーズ・コルバスが、赤い唇の女性たちを色鉛筆で描いた不気味で魅力的なドローイングは本当に素晴らしい。
OAF Curated Space by Mateus Nunes(マテウス・ヌネスがキュレーションしたアウトサイダー・アートフェアの特別展示)

チコ・ダ・シウヴァ《Bichos》(1965) Courtesy Simões de Assis
サンパウロを拠点とするキュレーターで美術評論家のマテウス・ヌネスは、20世紀中頃にブラジルで制作された作品を集め、一貫性のあるパワフルな展示を実施した。私が今回のフェアで最も気に入ったミリアン・イネス・ダ・シウヴァのどこかアンバランスだが心が和む絵や、チコ・ダ・シウヴァのカラフルな作品が展示されていたのもここだ。
鮮やかな色彩と控えめだが多様な素材が賑やかな印象を与えるヌネスの企画展示の中でも、際立っていたのは口を開けたワニのマスク。この作品は、赤みがかったプラスチック素材を潰して作られている。このブースには、チコ・ダ・シウヴァが描いた互いの尻尾に噛みつこうとする2匹の爬虫類のように、見終わるとまた最初からつい見始めてしまう魅力があった。(翻訳:野澤朋代)
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