海洋保護を描いた壁画、W杯プロモーションを目的に塗りつぶされる──作者「使い捨て同然」と批判
FIFAワールドカップ2026の開催都市のひとつである米ダラスで、アーティストのロバート・ワイランドによる海洋保護をテーマにした巨大壁画が同大会プロモーション壁画制作のため塗りつぶされた。
テキサス州ダラスにある海洋保護をテーマにした壁画が、FIFAワールドカップ2026のプロモーション壁画制作のために塗りつぶされた。
塗りつぶされたのは、カリフォルニア州などを拠点に活動するロバート・ワイランド(Robert Wyland)による壁画シリーズ「ホエーリング・ウォール(Whaling Wall)」の一作、《オーシャン・ライフ(Ocean Life)》(1999)だ。同シリーズは、1981年にカリフォルニア州で制作された第1作から、2008年に北京オリンピックのために描かれた第100作まで、世界各地で展開された巨大壁画プロジェクトで、同作はその第82作にあたる。日本では1989年に第17作《ボトルノーズ・ドルフィンズ(Bottlenose Dolphins)》が制作され、現在は大阪で保管されているとされる。
《オーシャン・ライフ》は、テキサス・ユーティリティーズ・ビルの大小2面の壁に描かれていた。約50メートル×24メートルの大壁面には、クジラやイルカが躍動する姿が鮮やかに描かれていたが、CBSニュースによると、先週から作業員が青いペンキで壁画を塗り始め、5月15日昼頃にはほぼ完全に塗りつぶされた。隣接する15メートル×23メートルの小壁面の作品は、現時点ではまだ残されている。
地元FOX系列局のFOX4は、「ダラス市はワイランドに壁画を塗りつぶす許可を求めた」と報じた。しかしワイランドはFOX4に対し、「それは大嘘です」と否定している。さらにCBSへの声明で、次のように語った。
「この壁画は、希望と保護活動、そして海への敬意を伝えるメッセージとして制作しました。ダラス市民へのギフトであり、海を守ることは私たち全員が共有する責任だという気づきをもたらすものでした。これほど意味を持つ重要なパブリックアートが、使い捨て同然に扱われているのを見るのは、深く胸が痛みます」
また、ワイランド財団の会長、スティーブ・クリーチは次のようにコメントした。
「ダラスで起きたことは、単なる壁画の喪失をはるかに超えた問題です。これは重要なパブリックアートであり、私たちの財団が体現してきた理念そのものです。アート界の人々には、これが何十年にもわたり、芸術を通じて人々と海や水資源保護の重要性を結びつけてきたグローバルな保護活動の一環であることを知ってほしい。『ホエーリング・ウォール』は単なる装飾として作られたのではありません。環境への意識、市民としての誇り、そして自然界に対する共有された責任感を呼び起こすために生まれたものなのです」
地元在住のアートアドバイザー、アダム・グリーンも、壁画の消滅を惜しむ一人だ。彼はUS版ARTnewsの取材に対し、「ダラスで育った私たちの多くにとって、この壁画は街の風景の一部になっていました」と語り、次のように続けた。
「市の水族館のすぐそばにあり、壁画の場所もとてもふさわしく感じられました。学校行事で水族館やダウンタウンの文化施設を訪れるたびに、この壁画を見た記憶があります。それが塗りつぶされてしまったのを見るのは、本当に残念です。なぜなら、あれは単なる壁画ではなく、多くの人に認識され、意味を持って愛されていたパブリックアート作品だったからです」
ワイランドはUS版ARTnewsの電話取材に対し、この壁画は1990年制定の米国連邦法「視覚芸術家権利法(VARA/Visual Artists Rights Act)」によって保護されていると確信しており、争う姿勢だと語った。同法は、美術家が自身の作品の改変や破壊に対して権利を主張できる法律だ。ワイランドはさらに、次のように続けた。
「もしVARAで保護される作品があるとすれば、まさにこれです。私は彼らと徹底的に争うつもりですし、この件を前例にしたいと思っています。壁画そのものは救えないかもしれない。ですが、他のアーティストたちの作品や権利を守るために行動することはできます。私は、芸術家の権利とVARAを専門とする地元の法律事務所を雇いました」
ビルの所有者は、トロントに拠点を置くスレート・アセット・マネジメントだ。CBSによると、スレート社はノース・テキサスFIFAワールドカップ組織委員会に対し、壁画の上に新たな作品を制作する許可を与えたという。同社は公式コメントを拒否した。一方FIFAは、「新しい作品は地元アーティストによるもので、広告にはならない」とCBSに説明。US版ARTnewsによるメール取材には即座に回答しなかった。
ダラスでは、FIFAワールドカップ2026の9試合が開催される予定で、ダラス・マガジンによると、これは全開催都市の中で最多となる。FIFAはFOX4への声明で、「今夏、2026年ワールドカップを取り巻くエネルギー、団結、そして世界的精神を体現した、この歴史的瞬間を捉える新たな作品の公開を楽しみにしています」と述べた。(翻訳:編集部)
from ARTnews