バンクシー《移民の子》、反対の声を押し切りイタリア当局が壁画を撤去、修復へ

バンクシーヴェネチアの古い建物に描いた移民の子どもの絵が、修復のために撤去・移動された。劣化が進んでいるのが理由だが、この措置についてはアーティストや美術評論家などから異論が出されていた。

バンクシーがヴェネチアの運河沿いに描いた《Migrant Child》(2019)。Photo: Vincenzo Pinto/AFP via Getty Images

ヴェネチアの運河沿いにある17世紀の古い建物に描かれたバンクシーの絵が、修復のため壁面から取り外されたとAP通信が伝えた。この異例の措置は2年前に発表されたが、当時から、アート界から反対意見も上がっていた。

《Migrant Child(移民の子)》と題された作品は、2019年のヴェネチア・ビエンナーレ開幕から間もない同年5月下旬、パッラッツォ・サン・パンタロンの壁に突如現れた。ライフジャケットを着け、ピンクの煙を吹き出す発煙筒を掲げる子どもの絵がバンクシーのものであることが明らかになると、この壁はサン・パンタロン運河沿いの隠れた観光名所となった。

しかし、水と塩分の影響で壁画の劣化が進行したため、2023年にイタリア文化省が修復計画を発表。これに対し、アーティストや活動家のほか、美術史家などからも批判の声が上がった。当時、ストリートアーティストのエヴィレイン(Evyrein)はユーロニュースの取材にこう答えている。

「バンクシーは決してバカではありません。水面近くに描いた作品が永続的なものではないことを、彼は十分に理解しているはず。修復はその意図に逆らうものです」

このほかにも、劣化は作品が持つ意味の一部であるとして、修復を決める前にアーティスト自身や地域コミュニティと協議すべきとの主張もあった。しかし、そうした意見は聞き入れられず、7月23日の夜、フェデリコ・ボルゴーニの率いる保存作業チームによって、絵が描かれた壁面の一部が撤去されている。

この修復プロジェクトに資金提供をしているのは、ヴェネチアを拠点とする銀行、バンカ・イフィス(Banca Ifis)だ。アートや文化への支援を掲げる同銀行は、バンクシーに「近い」人物と協議したと述べているが、直接の許可があったかどうかは明言していない。同銀行はまた、修復完了後に無料の文化イベントで作品を展示するとしているが、修復にかかる期間や費用は公表されていない。

イタリアでは通常、制作後70年以上経過したパブリックアートが国による保護対象となる。今回はその条件に当たらないが、ヴェネチア市長とヴェネト州知事の働きかけで特別な措置が取られることになった。そのための資金確保に携わったイタリア文化省次官のヴィットリオ・スガルビは、2023年当時こう表明している。

「作家が存命であるかどうかは関係ありません。また、この作品が違法に制作されたものであることを考えれば、作家からの修復許可を得る必要はないと考えています…私たちの役割は、(現代美術を)保護することです」

《Migrant Child(移民の子)》が保護を必要としていたのか、それとも徐々に薄れていくことで既にその役割を果たしていたのか、答えは出ていない。(翻訳:石井佳子)

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