16世紀「怪物の庭園」は没入型アート施設だった!? 奇怪な彫像だけでなく、水を用いた聴覚的演出も
鬱蒼とした森の中に奇怪な彫刻が立ち並ぶイタリア・ラツィオ州の庭園、サクロ・ボスコは、今も多くの謎に包まれている。しかし、最新技術を用いた調査によって、その新たな側面が明らかになった。

イタリア中部ラツィオ州の町ボマルツォに佇む「サクロ・ボスコ(聖なる森)」は、16世紀の貴族、ピエール・フランチェスコ・オルシーニによって築かれた奇怪な庭園だ。鬱蒼とした森の中には、巨大な怪物の頭部、傾いた家、神話の登場人物などを象った彫刻が多数点在し、その異様な景観から「怪物の庭園」とも呼ばれてきた。この庭園がつくられた目的は明らかになっていないが、死別した妻への追悼と個人的な苦悩を表現した「記憶の場」であったのではないかと考える科学者もいる。
だが近年、最新のデジタル技術を用いた研究がこの庭園の新たな側面を解明しつつある。考古学メディア『ARCHAEOLOGY MAGAZINE』が報じたところによれば、ガリレオ・ガリレイも教鞭を執った名門パドヴァ大学と、文化遺産保全に注力するブレシア大学を中心とする研究チームは、「Digital Bomarzo Project」と名づけた共同調査を実施。フォトグラメトリ(写真測量)、ライダー(LiDAR)、地中レーダーといった技術を駆使して、庭園全体の精密な三次元データの収集と構造解析を行ったところ、サクロ・ボスコは、訪れた人々を没入体験へと誘うアート施設であった可能性が浮上したのだ。
フォトグラメトリは、多数の写真を解析して立体的な3Dモデルを生成する技術で、彫刻や地形の詳細な復元に役立つ。ライダーはレーザー光を使って地形の微細な高低差を測定し、樹木や地表下に隠れた構造物の把握を可能にする。地中レーダーは電波を地面に照射し、地下に埋もれた水路や貯水構造の存在を検出するもので、考古学調査で近年多用されている。
こうした分析により、サクロ・ボスコにはかつて水が流れ、噴水が機能し、水音が響いていた痕跡が確認された。現在はその多くが失われているが、訪問者の動線に呼応するかたちで水の流れが仕掛けられていたと考えられる。つまり、この庭には怪物の彫像や奇岩がただ現れるのではなく、水による視覚的・聴覚的演出も加えられていたのだ。
これまで奇抜さや個人の悲哀の象徴とされてきたこの空間は、デジタル技術を通じてその本来の構造と意味を再評価されつつある。16世紀のイタリアにおいて、ここまで複雑で感覚的な演出を伴った庭園が構想されていたことに、当時の文化的想像力と技術の高さを改めて感じさせる。