古代エジプト都市アケトアテン、滅亡の謎に新説──最新の遺骨分析で「疫病説」を否定
- TEXT BY FRANCESCA ATON
わずか20年で放棄された古代エジプトの都市アケトアテン。その滅亡の原因は長らく疫病と考えられてきたが、最新の研究がこの定説に異を唱えている。
これまで、古代エジプトの都市アケトアテン(現在のアマルナ)が放棄された背景には、疫病があったと考えられてきた。しかし、学術誌『American Journal of Archaeology』に新たに掲載された論文は、まったく異なる理由を立証しようとしている。
太陽神アテンを崇拝したアクエンアテンの治世中に建設されたアケトアテンだが、その後20年足らずしか使用されず、ファラオの死後まもなく放棄されてしまった。この急速な衰退と放棄は、歴史的な文献で言及されている通り、疫病によるものだと考えられてきた。例えば、ヒッタイト帝国で作成された病気の終息を願う祈祷書によれば、エジプト人捕虜が疫病をヒッタイト帝国にもたらしたと記されている。また、アマルナで発見された書簡にも、イスラエルのメギド、レバノンのヒブロス、現在のシリアに該当するスムルで疫病が発生したことが記述されている。だが、いずれの史料も、アケトアテンで疫病が発生したことを具体的には述べていない。
そんななか、論文の共著者であるグレッチェン・ダブスとアナ・スティーヴンスは、アケトアテン周辺の墓地に着目した。一般市民が埋葬されたこれら4つの墓地からは、計1万1350〜1万2950体の遺骨が発見されている。本研究では、そのうち2005年から2022年にかけて実施された発掘調査で見つかった889体を分析した。
遺骨には、成長阻害による低身長、脊椎外傷、線状エナメル質形成不全、変性関節疾患といった生活苦の痕跡が認められた。これらはすべて、経済的・社会的困窮と関連している。また、そのうち7体の遺骨が結核に罹患していたものの、結核以外の疾病の痕跡はほとんど見つからなかった。
さらに、埋葬状況の分析からも疫病説を否定する証拠が見つかった。ほとんどの遺体は防腐処理が施されておらず、織物をはじめとする副葬品とともに、植物を編んだむしろに包まれた状態で発見された。疫病が発生した場合、遺体は急いで埋葬されるが、そのような痕跡はなく、統計分析でも死亡者数に異常な増加はみられなかった。また、都市は組織的に放棄されており、アクエンアテンの死後もしばらく人々が住み続けていた。
ダブスは、科学メディアPhys.orgの取材に対して、疫病説が定着した経緯について次のように説明している。
「エジプト学の史料には、アマルナと疫病、流行病を結びつける記述が多く残っていますし、王家の一員がアマルナで死亡しています。また、ヒッタイトの祈祷書では、高い死亡率や疾病の発生をエジプト人と結びつけていますし、アメンホテップ3世は、疫病の女神セクメトの像を数多く建造しています。こうした状況証拠が積み重なり、主に他の場所や時代についての記録であるにもかかわらず、アマルナと疫病を結びつけるネットワークが形成されました。いったんこの関連性が示されると、繰り返し語られることで『事実』になったのです」
(翻訳:編集部)
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発見された副葬品。Photo: Instagram/Luxor Times

発見された副葬品。Photo: Instagram/Luxor Times
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