ポンペイに12メートルの塔があった!? 最新デジタル調査で「失われた街」の真実の姿が明らかに

ポンペイ考古学公園は、新たなデジタル研究によって、有名な邸宅「Casa del Tiaso(ティアソスの家)」が12メートルにおよぶ塔を備えた多層建築物であった可能性が高いことが分かったと10月20日に発表した。

ティアソスの家の3Dデジタルモデル。Photo: Courtesy Pompeii Reset

ポンペイ考古学公園とベルリン・フンボルト大学が共同で行うデジタル考古学研究プロジェクト「POMPEII RESET」の調査結果が10月20日に発表された

このプロジェクトは、79年のヴェスヴィオ山噴火の際に壊された建物をデジタル技術によって蘇らせようというもの。調査は2段階で行われ、第1段階では3次元モデルを作成して、保存されている建物をデジタルで記録し、第2段階では、建物の3次元モデルをベースに、再構築および仮想シミュレーション技術を用いて失われた部位を補った。

調査のケーススタディとして使用されたのは、ポンペイのレジオIXと呼ばれる区画にある「Casa del Tiaso(ティアソスの家)」。かつて著名な政治家が所有していたと考えられており、2025年2月に邸内からディオニュソス信仰にまつわる見事な壁画が描かれた宴会場が見つかっている

研究者たちは、地上および空中レーザースキャナー、構造化光スキャニング、写真撮影を用いてティアソスの家のデジタルベースモデルを構築し、その後、梁穴、階段、窓、天井などの欠損した建築要素を特定。欠損部を仮想で補っていった。その結果、この家には内部に木製階段を備えた12メートルの塔があった可能性が高いことが分かった。頂上部には展望台があり、昼は街並みや海、夜には星空を眺められたと考えられる。また、塔は1階のサービスルームと、2階の食堂を結ぶ役割を果たしていたとも推測される。

ティアソスの家の3Dデジタルモデル。Photo: Facebook/Parco Archeologico
ティアソスの家の3Dデジタルモデル。Photo: Facebook/Parco Archeologico
ティアソスの家のデジタル復元図。Photo: Facebook/Parco Archeologico

これまで、ポンペイの邸宅の上層階は賃貸住戸や奴隷の居住区として使用されていたという説が長く存在していた。だが、今回の調査は、上層階はポンペイのエリートたちが富と権力を持っていたことを示す場であり、さらに後世のヴェローナ、シエナ、ボローニャといったイタリア都市に見られる中世建築の先駆けであった可能性があることも明らかにした。そして、これらの調査結果は、古代ローマの文人である小プリニウスによる「ラウレンティナ荘」の記述など、当時の物語的および視覚的描写とも一致する。

今回の調査では、レジオⅨ区画の他の建物、例えば「第二ケナクルムの家」や「作業中の画家たちの家」も分析された。「POMPEII RESET」プロジェクトの意義について、ポンペイ考古学公園のディレクターであるガブリエル・ツヒトリーゲルは声明の中で、「噴火によってほとんどの建物は上層階が欠損しています。これらの『失われたポンペイ』は、古代都市における生活を理解する上で不可欠な要素であり、三次元デジタルモデルの形でデータをまとめることで、当時の体験や空間、社会を理解する手助けとなる仮説的な復元図を作成できるのです」と述べた。(翻訳:編集部)

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