AIによる古代文書の「バーチャル開封」に進展! 炭化した巻物に「愚か」や「生命」などの文字
X線画像とAI技術を用い、炭化した古代ローマ文書を解読する試みが新たな進展を見せた。ヘルクラネウムの巻物と呼ばれる文書の「バーチャル開封」と判読に取り組んでいるのは、ヴェスヴィオ・チャレンジの参加者だ。
![](https://media.artnewsjapan.com/wp-content/uploads/2025/02/10134338/tnHerculaneum.jpg)
炭化した古代文書の巻物をAI技術を活用して解読するコンテスト、ヴェスヴィオ・チャレンジの参加チームは現在、イギリス・オックスフォード大学のボドリアン図書館が所蔵する「PHerc. 172」の解読に取り組んでいる。そこではこれまで、ἀδιάληπτος(愚か)、διατροπή(嫌悪)、φοβ(恐怖)、βίου(生命)といった古代ギリシャ語の単語が判読された。
古代ローマで栄えたヘルクラネウムは、西暦79年のヴェスヴィオ山の噴火で火山灰に飲み込まれた。この遺跡で発掘された中で特に注目されたのは、ユリウス・カエサルの義父、ルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスが所有していた図書館だ。パピルス荘と呼ばれるこの巨大図書館から見つかった大量のパピルス文書には、古代ギリシャ・ローマの高名な学者が記した哲学書や文学書が含まれていると見られる。
しかし、真っ黒に炭化した巻物は広げることができない。そこで、文書をスキャンして仮想的に平らにする「バーチャル開封」を行い、炭化した紙とインクの文字を区別することで解読を試みる作業が行われている。その際、インク部分を強調して判読性を向上させるのにAIが用いられる。
![](https://media.artnewsjapan.com/wp-content/uploads/2025/02/10134431/Getty_Images_1152278698_9a8ce4e938.jpg)
ヴェスヴィオ・チャレンジによる2月6日の発表には次のように記載されている。
「解読中のヘルクラネウムの巻物からは、筆者がエピクロス派の詩人・哲学者のフィロデモスであることを示す手がかりが見つかりました。紀元前1世紀頃に書かれたこの文書の筆跡は、他の書物に見られるフィロデモスの筆跡と似た形をしています」
炭化した巻物は、オックスフォード大学の研究所にあるシンクロトロン装置を利用して初めてX線CT撮影が行われた。スキャンされたデータは3次元画像に再構成され、AIを用いた解析が進められる。しかし、今回の巻物はこれまでよりもインクの密度が高く、コンピュータによる検出が容易ではなかったという。
プロジェクトリーダーのスティーブン・パーソンズはBBCの取材にこう答えた。
「巻物全体が文字で埋め尽くされていることが分かっています。これから文字をよりはっきり見えるようにする作業を進めますが、いくつかの単語が判読されれば、それが実質的な文章へとつながっていきます。我われは、巻物全体をほぼ完全に読むことができると確信しています」
ヴェスヴィオ・チャレンジでは昨年2月にも、別の巻物からこれまで知られていなかった五感に関する哲学書の一節が発見されている。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews