ゴッホ美術館がフリマで見つかった絵画の真作判定を否定。鑑定会社は「真作でない理由の説明を」
1月31日、アムステルダムのゴッホ美術館は、フィンセント・ファン・ゴッホ作とされた肖像画の鑑定結果を否定した。鑑定を行ったのは、ニューヨークを拠点とし、データサイエンスと独自の技術を用いて美術品鑑定を行うLMIグループ・インターナショナルで、その調査報告書は458ページにも及ぶ。
2025年1月末に世界的に報じられた、ガレージセールで発見された絵画はゴッホ作であるとする鑑定結果に対し、アムステルダムのゴッホ美術館が1日も経たないうちにこれを否定した。
問題となっている絵には、ツバのない丸い帽子をかぶってパイプをくわえ、岸辺で一心に網を繕う漁師が描かれている。右下に漁師の名と思われる「エリマール」という文字があることから、作品には《エリマール》(1889)というタイトルが付けられた。鑑定会社のLMIグループによると、ゴッホがフランスのサン=レミにあるサン=ポール・ド・モーゾール修道院の精神療養所にいたときに制作されたという。自ら療養所に入院したゴッホは、1889年5月から1890年5月までをそこで過ごしている。
この肖像画は匿名のアンティークコレクターがミネソタ州のガレージセールで購入したもので、2019年にLMIグループが同コレクターから買い取った(金額は非公開)。作品の鑑定・評価のために、化学者や学芸員、特許弁護士などさまざまな分野から約20人を集め、専門家チームを結成した同グループは、調査分析に3万ドル(約470万円)以上を投じたとして声明で次のように述べている。
「長い間、偽作や贋作が市場に多数出回ってきたことで、ゴッホの作品の鑑定は複雑で困難なものになっています。問題の中心となるのは、ゴッホが創作したものの手紙で言及されていない作品です。また、手紙に書かれてはいるが発見されていない作品もあり、その数は300にも上ると見られます」
LMIグループは今回のゴッホ美術館の対応に次のような疑問を呈している。
「なぜゴッホ美術館は、1日足らずで提示された事実を否定したのでしょうか。(中略)何の説明もなしに、JPEGの画像を見ただけで絵画を直接吟味することもなく」
ゴッホ美術館は鑑定プロセスが厳格で、調査依頼が却下されることが多い。問題となっている作品のかつての所有者も、2018年に美術館にコンタクトしたものの、画像を見ただけで詳しい調査は断られたとされる。
1月31日にはウォール・ストリート・ジャーナル紙がこの件を取り上げ、ゴッホ美術館の広報担当者のコメントを載せている。それによると、同館は年間約200件の鑑定依頼を調査してきたが、「その99%はゴッホ作ではないと思われるもの」だったという。
さらに最近では、年間の依頼件数が500件近くに増加したため、同館は対応プロセスを変更。ギャラリー、オークションハウス、美術関係者からも承認された作品だけを受け付けることにしたところ、年間約40件まで案件が絞られるようになった。
LMIグループは今後の対応について次のように述べている。
「私たちの広範な報告書の中で、ゴッホ美術館の専門家が同意できない具体的な事実とその理由を明らかにすること、そして、真作とするに値すると考える要素と理由は何か、具体的な説明を期待しています。また、報告書作成に寄与した研究者や科学者たちと同館の橋渡しをして彼らの調査結果について話し合うこと、この絵をアムステルダムに持ち込み、実際に見てもらうことを申し出ています」
US版ARTnewsはゴッホ美術館にコメントを求めたが、回答は得られていない。(翻訳:石井佳子)
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