ゴッホ作品がフリマで7800円!? 20人の専門家が調査、《星月夜》と同時期に制作と推定
アメリカ・ミネソタ州のガレージセールで50ドル(約7800円)未満で購入された油彩画が、未知のゴッホ作品かもしれないという。
ミネソタ州のガレージセールで、骨董品収集家が50ドル(約7800円)未満で油彩画を購入した。絵の具を厚く塗り、筆やナイフの跡を残すインパスト技法で描かれたこの絵画が、ゴッホの作品ではないかと専門家たちは指摘している。
絵画は46×41センチ。白い顎髭を生やして丸い帽子をかぶった漁師が、パイプをくわえながら寂しげな浜辺で網を修理する様子が描かれており、右下には、おそらく漁師の名前である「エリマール」と走り書きされている。そのことから《エリマール》と名付けられたこの作品は、他のゴッホ作品と比較した結果、フランスのサン=レミにあるサン=ポール療養院に入院していた1889年5月から1890年5月の間に制作されたと考えられている。この時期ゴッホは、《アーモンドの花》(1890)、《アイリス》(1889)、《星月夜》(1889)などの傑作を含む約150点を描いた。
ニューヨークを拠点とする美術研究会社LMIグループ・インターナショナルは、2019年に骨董品収集家からこの作品を未公表の金額で購入。その後、化学者、学芸員、特許弁護士など、約20人の専門家チームを結成して絵画の調査を行った。調査費用は3万ドル(約470万円)を要したという。
調査報告書は458ページにも及び、その中でいくつかの興味深い事実が明らかになった。ファイン・アート科学分析会社の代表、ジェニファー・マスが顔料と繊維を分析したところ、キャンバスの織り目の密度がゴッホの時代のものと一致し、使用された顔料も1つを除いて全てが当時のものと合致していた。
疑惑の1つの顔料、肖像画の空の部分の紫色の色調に使われていた有機化合物PR-50は、一般的なゼラニウムレーキレッド顔料に関連するもので、1905-06年にフランスで特許が取られている。だが、特許事務所ウィルソン・ガンの弁護士ベン・アプルトンは、パリ郊外のサン=ドニにある着色材料製造会社が1883年にPR-50を特許申請していたことをつきとめた。ゴッホの弟テオはパリに住んでおり、いち早く新作の絵の具を届けられたことだろう。この発見により、保存修復家たちは、作品の制作年代を19世紀後期と特定できるようになった。
また、LMIは、この絵画はデンマーク人画家ミケル・アンカーによる《ニールス・ガイヘデの肖像》をゴッホが再解釈したものだとも考えている。
LMIグループの最高執行責任者で、元メトロポリタン美術館館長のマクスウェル・L・アンダーソンは声明でこう述べている。
「今回の絵画分析により、特に『他の芸術家の作品を再解釈する』というゴッホの制作手法に関して、新たな知見が得られました。この感動的な肖像画は、ゴッホが手紙や作品の中でしばしば語っていた『贖罪』というテーマを体現しています。《エリマール》を通じて一種の精神的な自画像を描き、観る者に自分が記憶されたいと願った姿を表しています」
ただし、この絵画が本当にゴッホ作かどうかは、アムステルダムのゴッホ美術館による認証が必要だ。本物であることが確認されれば、推定1500万ドル(約23億円)の価値があるとされている。(翻訳:編集部)
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