植物の鼓動に耳を澄ます──ペリエ ジュエがマルシン・ルサックとのコラボ作品をTokyo Gendaiで初公開

プレステージ・シャンパーニュメゾン「ペリエ ジュエ」とアーティストのマルシン・ルサックによるインスタレーション《Plant Pulses(植物の鼓動)》が、9月12日から開催される「Tokyo Gendai」にて世界初公開される。シャンパーニュ地方のエコシステムを樹脂で固めた立体作品を中心に配置し、ブドウの木が水不足時に発する超音波シグナルを音と映像で表現する。

Tokyo Gendaiに設置されるペリエ ジュエのブース。Photo: Courtesy of Perrier-Jouët

シャンパーニュメゾン「ペリエ ジュエ」とポーランド出身のアーティスト、マルシン・ルサックによるインスタレーション作品《Plant Pulses(植物の鼓動)》が、9月12〜14日にパシフィコ横浜で開催される「Tokyo Gendai」にて世界初公開される。

ペリエ ジュエは1811年の創業以来、自然とアートを重んじる精神を受け継いできた。創業者のピエール・ニコラ・ペリエと息子のシャルルは植物学者であると同時に園芸家でもあり、その知識と情熱はメゾンの基盤となった。こうした伝統は世代を超えて息づき、1902年にはアール・ヌーヴォーの先駆者エミール・ガレと協働。それによって生み出された白いジャパニーズ・アネモネ(秋明菊)を描いたボトルは、以来、メゾンを象徴する存在となっている。

2012年からはアーティストとの共同制作を開始し、近年は創造的な視点でブドウ畑の環境問題にも精力的に取り組んでいる。今回のルサックとのコラボレーションもそうした活動の延長にあり、両者は、植物が発する微細なシグナルを視覚と聴覚で体験できる新たな表現として、《Plant Pulses(植物の鼓動)》を生み出した。

現在、ロンドンとワルシャワを拠点に活動するルサックがインスタレーションを構想するにあたって着目したのは、ペリエ ジュエの本拠地であるシャンパーニュ地方エペルネのブドウ畑に根付く「指標植物(アクシオファイト)」だ。とくにルサックの興味を捉えたのは、この地域の生態系に欠かせない3種──環境の記憶をとどめるブドウ、土壌の多様性を示すウマノスズクサ、そして、土壌を守りながら花粉媒介昆虫に蜜を提供するシロツメクサ。彼はさらに、シャンパーニュを象徴する白亜質の土壌や、畑で見つかった古木のブドウも取り入れながら、この土地の豊かな循環を支える小さな植物たちの営みを独自開発した樹脂に封じ込め、植物標本のような彫刻作品へと昇華した。

これらの彫刻作品とともにインスタレーションを構成するのは、植物が発する動的なシグナルをもとに生み出された「サウンドスケープ」だ。ルサックは、3種の植物の生命機能を掘り下げる作業の中で、母国ポーランドのクラクフにあるAGH科学技術大学の博士2人による研究成果を発見する。研究室で繰り返された実験によると、ブドウの木は水分が不足すると超音波のシグナルを発し、水を得て健康な状態に戻るとシグナルを鎮めるという。彼はサウンドデザイナーやデジタルアーティストと協働し、この植物が発するシグナルを人間が聞き取れる音に変換、三部構成のサウンドスケープを完成させた。

ルサックはさらに、デジタルアーティストらとともに、脱水した植物が発する鋭い音、植物同士の交流を思わせる波紋のような音、そして水分を取り戻した際の活力ある響きからなるサウンドスケープを視覚化することに挑戦。インスタレーションに設置された半円型の大型スクリーンには、この新しい視覚言語がダイナミックに映し出される。映像はサウンドスケープの変化に呼応し、直線的で簡潔な造形から有機的なフォルムへと移り変わり、やがて泡のような形に結実する。

没入感のあるマルチメディア体験として表現されたこのインスタレーションは全体として、ペリエ ジュエのテロワールの世界を立体的に再現すると同時に、土地で共有される記憶を慈しみ、それを次世代へと伝えるハーバリウムとして提示される。それは、訪れた鑑賞者を自然との対話へと誘う壮大な装置でもある。

《Plant Pulses》を手がけたマルシン・ルサック。Photo: Courtesy of Perrier-Jouët

「制作活動のごく初期段階から私は自然から得るインスピレーションや新しい素材の実験、そしてスタジオ内で培う専門的な手法の応用を作品の土台としてきました。それはメゾン ペリエ ジュエにインスピレーションを与えているアール・ヌーヴォーの精神と共鳴しています。また、長い時間をかけて忍耐強く取り組むシャンパーニュづくりのプロセスをエペルネ訪問で初めて知り得ましたが、その創造にかける労を惜しまない細心の配慮と精密な技術は、私の制作ともよく似ています」

今回のインスタレーションについてこう語るルサックの創作活動の原点には常に、人々が太古から抱いてきた植物装飾への情熱がある。それは、花卉栽培を営む家系に育ったという自らの背景も大いに影響しているだろう。現代社会の消費パターンや産業システムについても研究を行う彼は、価値やはかなさ、美学の交差点に自身の作品を位置づけており、《Plant Pulses》も例外ではない。本作は、そんな美学を掲げるルサックと、ペリエ ジュエの持続可能性への揺るぎないコミットメントが共鳴しあって創出された、芸術・科学・エコロジーが交差する場でもあるのだ。

メゾン ペリエ ジュエは、2021年から28ヘクタールで実験的な環境再生型ブドウ栽培を実施しており、2030年までに所有畑の100%での導入を目標としている。《Plant Pulses》は、この試みを推進する上でも重要な、AGH科学技術大学との長期的な研究パートナーシップの始まりを象徴する作品でもある。植物の信号解析を持続可能なブドウ栽培に向けた革新的なツールとして活用することを目指し、将来的には、植物の鼓動から得られたデータ分析が、ブドウ畑内の資源管理に活用される可能性も示唆している。

Tokyo Gendaiの会場では、100平方メートルの特設ブースに、これまでのアートコラボレーションの歴史をまとめたアーカイブスペースとシャンパーニュバーも設置される。ルサックがデザインした特別限定パッケージとシャンパーニュグラスも展示され、10月20〜26日にかけて東京で開催されるポップアップイベントにて限定先行販売される予定だ。

なお、ペリエ ジュエが運営する会員限定のメンバーシップ・プログラム「マイ ペリエ ジュエ」にTokyo Gendaiの会期中に登録すると、会場への15%オフチケットが提供される。また、ペリエ ジュエの展示スペースでは、数量限定でウェルカムシャンパーニュも用意され、ブースを訪れた人々は、ゆっくりと作品世界に浸ることができる。

ペリエ ジュエ ベル エポック 2016 グラス2脚セット エコロジカル ボックス by マルシン・ルサック Photo: Courtesy of Perrier-Jouët
ペリエ ジュエ ブラン・ド・ブラン グラス2脚セット エコロジカル ボックス by マルシン・ルサック Photo: Courtesy of Perrier-Jouët