幻の名作「ファベルジェの卵」が史上最高額を更新──ロシア皇帝が愛した「装飾芸術のモナ・リザ」
12月2日、クリスティーズ・ロンドンで開かれたオークションに、「装飾芸術のモナ・リザ」とも称される幻の名品「ウィンター・エッグ」が登場。2290万ポンド(約47億4000万円)で落札された。
12月2日、クリスティーズ・ロンドンで開催されたオークション「ウィンター・エッグと公爵家コレクションによるファベルジェの重要作品」で彫刻、家具など48点が出品され、総額2780万ポンド(約57億6000万円)を売り上げた。
中でも圧倒的な注目を集めたのが、ファベルジェ工房の傑作「ウィンター・エッグ」だ。19世紀前半にサンクトペテルブルクで創業した名門宝飾工房ファベルジェは、2代目ピーター・カール・ファベルジェのもとで全盛期を迎え、ロシア皇帝一家のために「ファベルジェの卵(イースター・エッグ)」と呼ばれる豪華な装飾作品を制作した。皇帝一家に納められたものは計50個、そのほか富裕層の注文を含めると60個以上が知られている。1917年の十月革命後、工房はボリシェヴィキ政府により国有化され、ファベルジェ一家は国外へ亡命。工房は解散し、ファベルジェの卵の多くは世界各地に散逸した。現在は43個が確認されており、7個は行方がわかっていない。
その貴重な「ファベルジェの卵」の1点である「ウィンター・エッグ」は、1913年、皇帝ニコライ2世が母マリア皇太后のために注文したものだ。アートニュースペーパーによれば、デザインを手がけたのは、ファベルジェ工房で働いていた数少ない女性デザイナー、アルマ・テレジア・ピール。制作は、彼女の叔父で主任宝石職人のアルベルト・ホルムストロムが担当した。ピールは、冬の日に工房の窓から景色を眺めていた際、このデザインを着想したと伝えられる。
同作は、扱いが難しい水晶に霜の結晶を思わせる繊細な彫刻を施し、約4500個のダイヤモンドをちりばめた豪華な造り。内部には石英とデマントイド・ガーネットで表現された春の花アネモネが配され、冬の終わりの兆しを感じさせる。芸術性の高さから「装飾芸術のモナ・リザ」とも称される名品だ。
クリスティーズは同作について、「ファベルジェがロシア皇室に納めた作品のなかでも最も豪華かつ独創的で、創意に満ちた作品の一つ」と説明。クリスティーズのロシア美術部門責任者のマーゴ・オガネシアンは、「ファベルジェがどのようにしてウィンター・エッグを作り上げたのか、完全に解明するのは極めて困難です」と語る。
この傑作を巡るオークションは3分間におよび、匿名の落札者が予想落札価格の2000万ポンド(約41億円)をわずかに上回る2290万ポンド(約47億4000万円)で落札。「ファベルジェの卵」として史上最高額を記録した。
これまでの最高額は、2007年にクリスティーズ・ロンドンでロスチャイルド家所有のエッグが落札された際の890万ポンド(現在の為替で約18億4000万円)だった。今回の落札はその記録を大きく塗り替えるものとなった。(翻訳:編集部)
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