史上2番目の高額作品はクリムト《エリザベート・レーデラーの肖像》。367億円での落札に業界も熱狂

11月18日、サザビーズニューヨークで開催されたイブニングセールでグスタフ・クリムトの《エリザベート・レデラーの肖像》(1914-16)が2億3640万ドル(約367億円)で落札された。これは史上2番目の高額であり、近代美術作品では最高額となる。

2025年11月7日、サザビーズ・ニューヨークで開催されたプレスプレビューで展示されたグスタフ・クリムトの《エリザベート・レーデラーの肖像》(1914-16)。Photo: Alexi Rosenfeld/Getty Images

11月18日、サザビーズニューヨークの新本社で開催されたイブニングセール「レナード・A・ローダー、コレクター」で、グスタフ・クリムトの《エリザベート・レーデラーの肖像》(1914-16)が2億3640万ドル(約367億円)で落札され、史上2番目に高額な作品となった。

《エリザベート・レーデラーの肖像》の入札は1億3000万ドル(約204億円)から始まった。最初は有名な美術アドバイザーのパティ・ウォンも参加していたが脱落し、最終的にはサザビーズのスペシャリスト、デイヴィッド・ガルペリンとジュリアン・ドーズが担当する2人の電話入札者による争いとなった。トータルで20分におよぶ入札合戦の末に2億3640万ドル(約367億円)、手数料込みで2億500万ドル(約392億円)でハンマーが下りた後、セールスルームは拍手で沸き立った。電話席近くでオークションを見守っていたサザビーズのオーナー、パトリック・ドラヒも笑みを浮かべ、喜びを隠せない様子だった。

オークションで売却された芸術作品の1位は、2017年にクリスティーズで4億5000万ドル(現在の為替で約707億円)で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》だ。近代美術作品の最高額は、2015年にクリスティーズ・ニューヨークで1億7940万ドル(現在の為替で約282億円)で落札されたパブロ・ピカソの《アルジェの女たち(バージョンO)》だったが、今回の結果はそれを上回り、同時にクリムトの記録も更新した。

この歴史的快挙にサザビーズの印象派・近代美術部門世界会長兼ヨーロッパ事業会長のヘレナ・ニューマンは声明を発表し、こう述べた。

「今夜、我々はニューヨークの新本社であるブロイヤー・ビルディングで歴史を作りました。グスタフ・クリムトの精巧な《エリザベート・レーデラーの肖像》がオークション記録を樹立したことを見るのは興奮すべきことです。そして、それがサザビーズで売却された作品として最も価値あるものになったことは、まさにセンセーショナルと言うほかありません。クリムトは、その魔力が強力であると同時に普遍的でもある稀有な芸術家の1人です」

今回のオークションは、6月14日に92歳で死去した、アメリカの化粧品大手「エスティ・ローダー」名誉会長のレナード・ローダーのコレクションから55点が出品された。中でも、ローダーが1980年代半ばにディーラーのセルジュ・サバルスキーから取得した《エリザベート・レーデラーの肖像》は、クリムトが依頼されて制作した作品で、個人が所有するわずか2点のうちの1点として注目を集めていた。

《エリザベート・レーデラーの肖像》は、ウィーンでロスチャイルド家に次ぐ第2の富豪だったレーデラー家が、クリムトに当時20歳だったエリザベートを1914年から3年かけて描かせたもので、全盛期だったクリムトによる、最も精巧に構想された後期肖像画の一つとして広く認められている。同作はその後、1930年代にナチス・ドイツに没収され、1948年にレーデラー家に返還された。そのような重い歴史を持つ稀有な作品でもある。

クリムト作品としても、これまで最高額だった、2023年にサザビーズ・ロンドンで1億840万ドル(約170億円)で落札された《扇子を持つ婦人》(1917-18)を超えることが期待されていた。今夜の結果は、不安定な市場環境でも数百億円規模で落札されうる数少ない画家として、クリムトの地位をあらためて示す結果となった。

サザビーズにとって、今シーズンは高額帯の需要の深さへの疑問や、地政学的不確実性、目玉となる作品の減少が影を落としており、今回の成果は注目度の高い勝利を意味する。さらにこのセールはサザビーズのニューヨーク新本社として改装されたブロイヤー・ビルディングのオープニングを飾るものだった。出品作品は、ホイットニー美術館(1966年から2014年まで同ビルに入居していた)で長年同館の評議員を務めていたレナード・A・ローダーのコレクションであり、同ビルにちなんだ幸先の良いスタートとなったと言える。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい