人類は40万年前に「火」を自在に操っていた──最新調査で進化史を書き換える大発見

大英博物館が主導する最新研究により、古代人類が火を起こし、炉を用いて制御していた時期が、従来の通説から約35万年もさかのぼる約40万年前であった可能性が示された。

火打ち石と黄鉄鉱から出る火花の想像図。 Photo: Craig Williams © The Trustees of the British Museum

大英博物館が主導し、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ロンドン自然史博物館、オランダのライデン大学などからなる国際研究チームが実施した新たな調査によって、古代人類の歴史を大きく書き換える発見が明らかになったとアートネットが伝えた。研究成果は12月10日付で科学誌ネイチャーに発表されている。

研究者たちが調査を行ったのは、イングランド東部サフォーク州バーナムにある旧石器時代の遺跡だ。この遺跡は、約40万年前のホクスニアン間氷期にさかのぼる人工物や、植物・動物の遺骸が良好な状態で保存されていることで知られている。調査は、かつて粘土の採掘場として利用されていた地点を中心に行われた。

チームは、遺跡から出土した加熱された粘土の塊や、火打石として知られる岩石の一種「フリント」の手斧、さらに2つの小さな黄鉄鉱の破片などを詳しく分析した。その結果、これらの痕跡が約40万年前に人為的に火が使われていた証拠である可能性が高いことが判明した。

遺跡から見つかった手斧のフリント。
Photo: Jordan Mansfield Courtesy Pathways to Ancient Britain Project.

バーナムの遺跡での採掘風景。
Photo: Jordan Mansfield Courtesy Pathways to Ancient Britain Project.
バーナムで発見された黄鉄鉱。
Photo: Jordan Mansfield Courtesy Pathways to Ancient Britain Project.
バーナムでの採掘風景。
Photo: Jordan Mansfield Courtesy Pathways to Ancient Britain Project.

研究の著者の一人で、ロンドン自然史博物館の人類学者クリス・ストリンガーは、バーナムで火を扱っていた人類は、おそらく初期的な炉のような構造を用いて火を制御していたと考えられると指摘する。また、当時この地域に生息していた人類は、初期のネアンデルタール人であった可能性が高いという。

これまで、ヨーロッパにおける人類による最古の火の制御は、北フランスの遺跡で見つかった5万年のものと考えられていたが、今回の発見により、35万年もさかのぼることになる。

火起こしの痕跡が考古学的に確認されることは極めてまれだ。木炭や灰は風雨によって容易に失われ、焼けた残骸も時間の経過とともに崩れてしまうため、仮に発見されたとしても、それが人為的なものかどうかを証明するのは難しい。研究チームによれば、バーナムの遺跡は物質の保存状態が「例外的に良好」だったという。

それでもなお、自然発生的な山火事によるものではないことを証明するため、研究チームは4年にわたる検証を重ねた。地球化学的分析の結果、この場所では約700度に近い高温が繰り返し発生していたことが分かり、人々が同じ場所で何度も火を焚いていた可能性が高いと結論づけられた。また、フリントと組み合わせて火起こしに使われる鉱物である黄鉄鉱が、この場所まで意図的に運び込まれていたことも確認された。

大英博物館の学芸員であり、本研究の著者の一人でもあるニック・アシュトンは声明で、「ネアンデルタール人の最も古い集団の一部が、これほど早い時期にフリントや黄鉄鉱、さらには炉の性質についての知識を持っていたという事実は、驚くべきことです」と述べている。

さらに大英博物館は、この発見が人類の行動様式や脳の進化とも整合的である点を強調する。落雷などの自然現象に頼らず、火を自ら準備し制御する能力を獲得したことで、古代人類はより寒冷で厳しい気候条件下でも生き延びることが可能になった。また、肉を加熱して柔らかくし、消化しやすくしたことが、神経機能や認知能力の進化を促し、脳の大きさを現代人レベルまで引き上げた可能性も指摘している。

火はまた、社会的な役割も果たした。定住が可能になることで集落が形成され、人々はより安定した社会関係を築くようになった。夜に焚き火を囲む場は、道具作りや資源の共有だけでなく、言語や物語、信仰体系といった文化的要素が育まれるコミュニティの中心として機能していたと考えられている。

研究の著者の一人であるロブ・デイヴィスは、「火を作り出し、制御する能力は、人類史における最も重要な転換点の一つです。この発見は、人類の進化がどのように形作られてきたのかを理解するうえで、計り知れない意味を持っています」と語っている。

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