大英博物館が希少な氷河期芸術70点の貸し出しを決定。「世界の図書館のような存在になりたい」
大英博物館は、2025年の英国文化都市に選ばれたイングランド・ブラッドフォードに「氷河期芸術の最も希少な現存例」を貸し出すことを発表した。その多くは年代の古さと壊れやすさから、これまでほとんど貸し出されたことがなかっただけに、大きな話題になっている。

大英博物館は、2025年の英国文化都市に選出されたイングランド・ヨークシャー州のブラッドフォードに「氷河期芸術の最も希少な現存例」を貸し出すと発表した。
英国文化都市は、イギリスのデジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が地方都市を対象に4年ごとに選出しているもので、2025年は20以上の候補都市からブラッドフォードが指定された。これによりブラッドフォードはインフラや芸術施設の改善のための資金を得、2025年の1年間にわたって地元文化を祝う一連のイベントを開催する。
その一環として、大英博物館が所蔵する70点の氷河期時代の芸術がブラッドフォードに貸し出されることが決まった。これは同館とブラッドフォード地区博物館・ギャラリーとの提携によるもので、これらの品々はクリフ・キャッスル博物館で6月21日から開催される展覧会「Ice Age Art Now(氷河期芸術の今)」で展示される。同展のキュレーターを務めるのは、大英博物館の英国・ヨーロッパ・先史芸術部門の責任者ジル・クックだ。
大英博物館によると、今回貸し出される所蔵品は今から2万4000年から1万2000年前に作られており年代が非常に古く脆いため、めったに外に出されないものばかりだという。同館は声明で、「氷河期が終わりに差し掛かる時期、気候変動による絶滅の危機からの緩やかな回復は驚くべき芸術のルネサンスを刺激し、素描、彫刻、装飾された道具や武器、宝飾品など複雑な模様の作品制作が大幅に増加しました。これらの芸術作品は人間の物理的生存に不可欠ではありませんでしたが、当時も現在と同様に、芸術は人々の心理的・感情的な幸福に貢献するとともに、彼らの生活様式を維持するのに不可欠な強い社会的絆の確立を助けていました」と解説する。
また、同館は貸し出し品の中からフランスで発見された2万4000年前の古い火打石を挙げ、「これは職人の器用さ、そして高品質で非機能的なオブジェクトの制作を通じてアイデアを具現化し伝達する能力の高さを示しています」と説明。フランスで発見された、骨に2頭のトナカイやオオカミの彫刻が施された約1万3000年前のペンダントについては、「氷河期の終わりには、洞窟壁画のより親しみやすいイメージと並んで、骨、鹿角、象牙、石に施された信じられないほど繊細な小規模の彫刻が登場しました。これらの彫刻は、バイソン、馬、ヤギ科の動物アイベックス、トナカイなど、人類が食料や生活の道具の原材料として頼りにしていた動物がモチーフとなっています」と説明した。
そのほか大英博物館は、「Ice Age Art Now」展のためにレンブラント、マティス、マギ・ハンブリングの作品もクリフ・キャッスル博物館に貸し出す予定だ。その理由について同館は、「これらは、何千年もの時間を隔てているにもかかわらず、芸術の長い歴史の中に共通して存在する線、形、陰影、構図、抽象化といった本質的な要素を強調するために含めました」としている。
今回の貸し出しについて、大英博物館のニコラス・カリナン館長は声明で、「大英博物館が世界へ作品を貸し出す図書館のような存在になることを熱望しています。ウェスト・ヨークシャーで育った私にとって、ブラッドフォード地区博物館・ギャラリーとの提携は特に意義深いものです。ブラッドフォード2025英国文化都市プログラムの一環として、この新しい展覧会を発表できることは素晴らしいことです」と述べた。
2025年英国文化都市ブラッドフォードのクリエイティブディレクター、シャナズ・グルザーは、クリフ・キャッスル博物館での展示について、「これらの信じられないほど貴重な展示品が、ここイギリス北部の素晴らしいクリフ・キャッスルで披露されることは、ブラッドフォード地区にとって誇りの瞬間です」と喜びの声を発表した。(翻訳:編集部)
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