国連の調査委員会が「イスラエルによるパレスチナの文化・宗教施設攻撃は戦争犯罪」との報告書を発表

パレスチナの被占領地(東エルサレムを含む)およびイスラエルに関する国連の独立国際調査委員会は、宗教的・文化的施設に対するイスラエルの攻撃が、国際人道法違反として戦争犯罪に当たる可能性があるとする報告書を発表した。

長い歴史を持つギリシャ正教の聖ポルフィリウス教会は、2023年10月にイスラエルのガザ空爆で破壊された。瓦礫の上に立つパレスチナ人でキリスト教徒のラメズ・アル=スーリは、この空爆で3人の子どもや親族の多くを失っている(2024年6月3日撮影)。Photo: by Hamza Z. H. Qraiqea/Anadolu via Getty Images
長い歴史を持つギリシャ正教の聖ポルフィリウス教会は、2023年10月にイスラエルのガザ空爆で破壊された。瓦礫の上に立つパレスチナ人でキリスト教徒のラメズ・アル=スーリは、この空爆で3人の子どもや親族の多くを失っている(2024年6月3日撮影)。Photo: by Hamza Z. H. Qraiqea/Anadolu via Getty Images

パレスチナ被占領地(東エルサレムを含む)およびイスラエルにおける文化、宗教、教育に関連する施設への攻撃に関する調査が、国連の独立国際調査委員会によって実施された。同委員会の報告書には、イスラエルが「パレスチナ人と民間施設の殲滅を狙った大規模な軍事作戦」により、「ガザの教育システムを崩壊させ、ガザ地区の宗教・文化施設の半分以上を破壊した」と記述されている。

また、ガザにおける10カ所の宗教・文化施設が、攻撃の時点で「民間施設でありながら壊滅的な破壊」を受けたことについて、調査官は軍事的正当性があったとは判断できないとしている。そうした攻撃では、遺物が破壊されたり、略奪されたりしたケースもあったという。

文化・宗教施設の破壊は「パレスチナ人のアイデンティティを損なう」

この10カ所に含まれているのが、ギリシャ正教の聖ポルフィリウス教会だ。同教会は世界で3番目に古い教会とも言われ、キリスト教徒イスラム教徒双方の避難民を受け入れていた。そのほか、ガザ地区最大のモスクで、7世紀に建設されたオマリ・モスクは空爆で損壊し、ガザ地区初の考古学博物館は占拠され、略奪されたのちにブルドーザーで打ち壊された。さらには、13世紀のマムルーク朝時代に建てられ、伝統芸術の宝庫であるパシャ宮殿博物館も砲撃と略奪に遭い、「ほぼ完全に破壊」された。これらの施設への攻撃は、2023年10月〜12月の2カ月間に行われている。

委員会は法的分析の上で、イスラエルの治安部隊は「ガザにある著名な文化遺産の場所と重要性を知っていたはず」であり、調査対象になったケース(「特に爆発物やブルドーザーを使った解体」)のほとんどでイスラエル軍の戦争犯罪が認められると結論付けている。

ここで指摘された戦争犯罪には、「宗教上の建造物や歴史的建造物を意図的に攻撃の標的としたこと」、「想定される具体的かつ直接的な全体の軍事的優位により過大な損害を民間施設に与えることを知りながら、意図的に攻撃を仕掛けたこと」、「軍事的必要性によって正当化されない広範な財産の破壊行為」、そして「破壊を必要とする正当な理由なしに敵の財産を破壊したこと」などが含まれる。

5世紀に創建された聖ポルフィリウス教会をイスラエルが空爆し、女性や子どもを含む約20人が死亡した2023年10月の事件についても、「照準ミスによる巻き添え被害」の可能性を指摘しながらも、やはり戦争犯罪に当たると判断されている。同教会は2024年7月にもイスラエル軍のミサイル攻撃を受け、この2度目の攻撃では民間人1人が重傷を負い、他に2人が軽傷を負ったことをUS版ARTnewsでも報じている。

委員会の分析は、「有形遺産」への被害は「連鎖的な影響を及ぼし、宗教的・文化的慣習、記憶、歴史などの無形文化要素に深く影響する」と続き、度重なる攻撃(ユネスコによれば2023年10月7日以降110件)は、「パレスチナ人の宗教的信条、文化、遺産を明らかに無視するもので、パレスチナ人の文化とアイデンティティを損なう」と論じている。

パレスチナの世界遺産区域内の違法入植でも国連とイスラエルが対立

これに加え、ヨルダン川西岸地区にあるパレスチナの世界遺産区域内での違法入植地の設置や、パレスチナの考古学的・文化的遺跡の管理をイスラエル古代遺物管理局に移管するための立法措置なども調査の対象になった。

その一例が、世界遺産(危機遺産)の「オリーブとワインの地パレスチナ-エルサレム地方南部バティールの文化的景観」内に新しい入植地を建設するという2023年の計画で、ユネスコの保護下にあるこの場所の水源を利用しているパレスチナ人コミュニティから激しい反発を受けた。委員会は、イスラエルによるパレスチナの遺跡開発は違法だとし、報告書の末尾でもイスラエル政府に対して次のような勧告を出している。

「パレスチナ領土の不法な占領をただちに終わらせ、全ての新たな入植計画と活動を中止し、2024年7月に出された(国連の)国際司法裁判所の意見に従い、全ての入植地と入植者を可及的速やかに撤去・退去させ、パレスチナ人の自決権の完全な行使を阻む全ての障害を取り除くこと」

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの入植の「合法性には議論の余地がない」と主張する声明の中で、国際司法裁判所の勧告を拒絶している。これに対し、今回の報告書では、イスラエルのパレスチナ占領を国際法違反とみなした2024年の国際司法裁判所の意見に従い、「イスラエルと占領下のパレスチナ地域における国際犯罪、重大な人権侵害、虐待の加害者に関する説明責任を確保するための措置」を取ることが求められた。

調査委員会のナビ・ピレー委員長は声明でこう指摘している。

「ガザにおけるパレスチナ人の生活を壊滅的な状況に追い込む目的で、イスラエルが集中的な軍事作戦を実施していることを示す兆候がますます多くなっている。イスラエルがパレスチナの人々の教育的、文化的、宗教的な生活を標的にすることは、現在の世代と次の世代双方に害を及ぼし、彼らの自己決定権を妨げることになる」

ジェノサイド(*1)のような重大な国際法違反に対する国際司法裁判所の管轄権は、国際刑事裁判所に関するローマ規程で定められている。同規程の第7条1項は、「人道に対する犯罪」を、「文民に対する攻撃であって、広範または組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行ういずれかの行為」とし、その(b)として「絶滅させる行為」が挙げられている。そこには食糧や医薬品へのアクセスの剥奪など、人口の一部の破壊をもたらすような生活条件を意図的に与えることが含まれ、民間人が避難している宗教施設や学校への攻撃は、この基準に当てはまる行為であると委員会は認定している。

*1 国民的、人種的、民族的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる殺戮や肉体的・精神的危害などの行為。

ロイター通信が伝えた声明によると、イスラエル政府の代表は、この報告書を「ガザ戦争に関する架空の物語を広めようとする試み」であり、委員会のメンバーが「ガザの人々を守ることよりもイスラエルをバッシングすることに関心がある」ことの証明だと反発した。なお、イスラエルは今年2月、政治的な偏りがあるとして国連人権理事会への参加を取りやめている。(翻訳:清水玲奈)

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