両腕を失ったガザの少年の肖像に世界報道写真大賞。受賞者もガザ出身の女性フォトジャーナリスト

アムステルダムに本部を置く世界報道写真財団が、2025年世界報道写真コンテストの結果を発表。大賞には、イスラエル軍によるガザ空爆で両腕を失った少年の肖像写真が選ばれた。撮影したのは、同じくガザ地区出身のフォトジャーナリストだ。

受賞作の前に立つパレスチナ出身のフォトジャーナリスト、サマル・アブ・エルーフ。Photo: Anadolu via Getty Images

4月17日、世界報道写真財団が2025年世界報道写真コンテストの受賞者を発表した。このコンテストは、前年に世界各地で撮影・制作された報道写真から受賞作品を選ぶもので、世界で最も権威のある写真賞の1つ。

2025年の大賞(ワールド・プレス・フォト・オブ・ザ・イヤー)に輝いたのは、イスラエル軍の空爆によって両腕切断となったガザの少年の写真《Mahmoud Ajjour, Aged Nine(マフムード・アジョール、9歳)》で、昨秋ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された。撮影したのは、自らもガザ地区出身のフォトジャーナリスト、サマル・アブ・エルーフだ。

4月17日にアムステルダムで行われた授賞式でアブ・エルーフは、この写真を見ると自分の4人の子どものことを思わずにいられないとしてこう語った。

「マフムードはまるで自分の息子のように思えます。ほかの子どもたちが遊んでいるのを眺める彼を目にするたびに、その辛い思いを感じていました」

アブ・エルーフ自身もガザを逃れ、現在はマフムードが家族と避難してきたカタールのドーハにある同じ集合住宅に住んでいる。マフムードが写真撮影を承諾すると、アブ・エルーフは彼の母親に、アパートに日が差し込んできたら連絡をくれるよう頼んだという。その日の光は少年の頭と肩を照らし、彼を古代ギリシャローマ時代の胸像のように見せている。

世界報道写真財団のエグゼクティブディレクター、ジュマナ・エル・ゼイン・クーリーは受賞式で、次のようにこの作品を称えた。

「これは静かな写真ですが、そこから発せられるメッセージは大きく鳴り響いています。1人の少年の物語であると同時に、何世代にもわたって影響が続く戦争を広く捉え、語るものでもあります」

なお、この写真のほかにもアブ・エルーフは、治療のためにガザを出た複数の負傷者を撮影している。

今年で70回目を迎える世界報道写真コンテストには、141カ国から約4000人の写真家が6万点近い写真を応募。グローバル審査委員会議長のルーシー・コンティチェロは声明で、多数の応募作の審査プロセスをこう説明している。

「(受賞)候補者を選ぶにあたっては、まず6つの地域に分かれた応募作からセレクションを始めます。そこから浮かび上がってきたのは、今年の作品を象徴する3つのテーマ、すなわち紛争、移民気候変動でした。別の見方をすれば、それはレジリエンス(再起する力)、家族、地域社会の物語だと言えるでしょう」

アブ・エルーフが大賞を獲得した背景には、地域に根ざしたフォトジャーナリストたちに光を当てようとするエル・ゼイン・クーリーの方針がある。彼らの活動は、たとえば欧米人の写真家が紛争地帯に一時的に入り、数時間後や数日後に立ち去ってしまうのとは全く異なるからだ。

「5年前に現在の職務に就いたときは、受賞者のほとんどが欧米出身で、しかも白人男性なのに、どうして世界報道写真財団と名乗れるのだろうと思いました」

そう話すエル・ゼイン・クーリーが実施した変更の1つが、世界を6地域に分け、応募作を写真が撮影された地域別にエントリーするというルール。この変更の翌年には、最終選考に進んだ応募者の8割が、作品のストーリーに関係する地域の出身者だった。授賞式で彼女は「そのことを誇りに思っています」とコメントしている。

なお、次点には2作品が選ばれた。1つは近年増加しているメキシコ国境の中国人不法移民を撮影したジョン・ムーアの《Night Crossing(夜の国境越え)》(ゲッティイメージズ)、もう1点は干上って砂漠のようになった川底に立つ若い男性の姿を捉えたムスク・ノルテの《Droughts in the Amazon(アマゾンの干ばつ)》(パノス・ピクチャーズ/バーサ財団)だ。(翻訳:石井佳子)

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