イスラエルとイランの軍事衝突が激化。ギャラリーや美術館の多くは閉鎖、文化遺産の被害状況は不明
イスラエル軍は6月13日の夜、イラン各地の核関連施設を含む数十カ所を空爆し、イラン軍は13日から14日にかけてイスラエルに報復攻撃を行った。両国の衝突激化が懸念される中、イスラエルやイランのギャラリー・美術館は展覧会の中止や臨時休館を余儀なくされている。

6月13日の夜、イスラエル軍はイラン各地の核関連施設を含む数十カ所を空爆し、軍の高官2人と政府高官2人を殺害したと発表した。それに対してイラン軍は、13日夜と14日朝にイスラエルの複数の都市に弾道ミサイルを発射し報復攻撃を行った。15日、イスラエルはイランの首都テヘランなどで激しい空爆を行い、複数の政府施設が被害を受けた。双方の攻撃で、イラク側は民間人を含む200人以上、イスラエル側は20数人が死亡したと言われているが、被害の全容はまだ明らかになっていない。
イラン政府はテヘランへの空爆を「宣戦布告」と呼ぶなど、事態は鎮静化する気配を見せない。そんな中で、テヘランのアートシーンには混乱が生じている。国際的なアートフェアの常連で、一時はニューヨークにも拠点を置いていたシーリン・ギャラリーは、13日に始まる予定だった、テヘランを拠点にテキスタイルとミクストメディア作品を制作するアーティスト、Leila Yaghoubiの初個展「Uncollective Memories」と、抽象画家のMazyar Tahouriの個展「Endless Joy」の延期をインスタグラムで発表した。
同様に、テヘラン中心部のホテル、ラーレ・インターナショナルに隣接するラーレ・ギャラリーも、12日から始まっていた地元作家による絵画と彫刻のグループ展の中止と延期を発表。同じくテヘラン市内のモシェン・ギャラリー、フーア・ギャラリー、バヴァン・ギャラリーは、「当面の間」営業を休止すると告知した。その中で、バヴァン・ギャラリーは「より良い日を期待している」と述べている。
イラクで起こりつつある深刻な事態に、遠く離れた地で心を寄せるギャラリーもある。2014年にテヘランにオープンし、その後ロンドンに移転したギャラリー、Ab-Anbarは、6月14日にコミュニティ・ランチを開催。ギャラリーはインスタグラムで、「最近の出来事を踏まえて、私たちは分かち合う食事のために扉を開きます。 料理や飲み物を持ち寄ってください。友人を誘ってもいいし、1人でもいい。 集まって、食べて、飲んで、連帯しましょう」と呼びかけた。
また、現在被害は明らかになっていないが、テヘランには古代ペルシャと中世の美術品を所蔵する世界最大級の博物館、イラン国立博物館をはじめ、30万年前にさかのぼる遺物や、旧王朝時代の織物、書道、陶器、美術品が展示されている古代イラン博物館とイスラム時代博物館、モネやピカソなどの重要な作品を所蔵するテヘラン現代美術館など、世界的に知られる美術館・博物館がある。
無事であるか心配されるのは美術館や博物館だけではない。テヘラン中心部にあるゴレスターン宮殿は、サファヴィー朝時代(1501-1736)の建造物をベースに増改築が繰り返され、19世紀にガージャール朝のシャー(王)の邸宅兼政庁へと改築された歴史的建造物で、内部に施されたペルシャの伝統的な装飾とヨーロッパの建築様式を見るため大勢の観光客が訪れる場所だ。同宮殿は、戦時中に美術品を保護する目的で1930年に制定した「国家遺産保護法」によって国家記念物に指定されており、2013年にユネスコ世界遺産に認定されている。国立博物館やゴレスターン宮殿は13日以降情報を発信していない。
イスラエル側では、13日以降、首都エルサレムのイスラエル博物館とテルアビブ美術館が、国家安全保障のガイドラインをもとに無期限で休館している。(翻訳:編集部)
from ARTnews