BAG-Brillia Art Gallery-は最終章へ──「暮らしとアート」をテーマに4年の集大成となる展覧会を開催
東京建物が東京・京橋の地でアートを発信し続けたBAG-Brillia Art Gallery-(以下BAG)が、再開発に伴い今年幕を閉じる。その最後となる展覧会「暮らしとアート」(9月13日から10月26日まで)は、これまで開催された展覧会の集大成とも言える内容だ。同展を紹介すると共に、BAGが歩んだ4年の歴史を振り返る。

東京建物が運営する東京・京橋のギャラリーBAGは、2021年のオープン以来4年間、25の企画展を開催してきた。そして、BAGが所在する東京建物京橋ビルを含む京橋三丁目東地区における再開発に伴い、年内の閉館が決まった。同ギャラリーでの最後の展覧会として、BAGにゆかりのある作家ら15人の作品が集まった「暮らしとアート」が9月13日から10月26日まで開催されている。
キーワードと共に「暮らしの中のアート」を探る
会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは、「くつろぐ」「よそおう」「よりそう」などの印象的な言葉だ。これらは、同展の企画を担当した彫刻の森芸術文化財団の齋藤由里子が、自身や出品作家たちと考えた日々の暮らしを豊かにするためのキーワード。そうした言葉が、呼応し合う各アーティストの作品とともに象徴的に並んでいる。
例えば、写真家の浅田政志の展示には「あゆむ」という言葉が充てられている。「家族」など身近な題材を撮り続ける浅田は、BAGがオープンして間もない2022年に個展「浅田政志 ぎぼしうちに生まれまして。」(2022年4月9日〜6月5日)を開催した。同展で浅田は、BAGがある京橋地域の歴史に着目。江戸時代に幕府直轄地として日本橋・ 新橋と並んで中心地として繁栄し「擬宝珠内(ぎぼうしうち)」と呼ばれた街を自ら歩き、そこに代々住み続ける4人の生活を撮影した。今回の「暮らしとアート」では、当時撮影した作品をスライド上映するほか、浅田が「あゆむ」という言葉を受けて、自身のキャリアの出発点となった日本写真映像専門学校の卒業制作を出品した。
「わらう」という言葉とともに展示されていたのは、写真家の齋藤陽道の作品だ。ろう者である齋藤は、写真とエッセイなどの文章を表現の手段としてきた。BAGで2023年に開催した個展「絶対」(2023年10月7日~10月29)で、太陽が地平線に沈む間際の一瞬を捉えた奇跡のように美しい写真の数々を披露した齋藤は今回、同じシリーズから、なんとも言えない幸せそうな表情で笑う地蔵と、オレンジの温かな光に包まれた赤ちゃんの写真を出品。そして傍らには、齋藤が「わらう」という言葉に寄せたメッセージが貼られている。
昨年「悲の器 ~水と光~」(2024年6月22日~6月30日)を開催した画家でイラストレーターの黒田征太郎には、「えがく」が添えられた。これまで制作した絵画は20万点を超えるという黒田にとって、「生活そのものは描くこと」。
さらに歌人である伊藤紺の展示では、「かく」というキーワードとともに、やかん、カニのぬいぐるみ、靴下など一見するとなんの関連性もないような、しかし誰かの生活を象徴するかもしれないと思わせるオブジェが並べられている。そして、それぞれのモチーフにまつわる心に刺さる短歌が傍らに添えられている。
BAGではこれまで、音楽もアートであるという解釈から、「ART in MUSIC」と題してジャズ、ロックなどのレコードジャケットに描かれたグラフィックデザインに着目した展覧会も行われてきた。その一つ、1970年代から80年代にかけて日本の音楽シーンを彩ったシティポップをテーマにした展示「永井博 展 with 金安亮、遠藤舞、つのがい『Penguin & Co.』」(2022年7月16日~7月31日)では、シーンの代表的なイラストレーターである永井博と、そのムーブメントに影響を受けた現在の若手作家の作品を並置した。こうした取り組みを受けて、今回の「暮らしとアート」では地下スペースを特設会場「BAG +3 ガレージ」として、360度音楽に「つつまれる」体験ができる7.1.4chのオーディオ空間を創出。会期中は、様々なジャンルから編成された100分間のプレイリストとともにイマーシブな体験が提供されている。同会場ではレコードジャケットの展示だけではなく、中古レコードや、マニア垂涎の1950年代~90年代のヴィンテージTシャツをはじめとする古着の販売も。往年の音楽やカルチャー好きには必見の空間となっている。
人々が「自分らしい豊かさ」を得られる社会へ
さて、1896年に安田財閥の創始者である安田善次郎により設立された日本で最も古い歴史を持つ総合不動産会社(デベロッパー)、東京建物の中でも、代表的ブランドとして知られているのが2003年にスタートさせたマンションブランド「Brillia(ブリリア)」だ。「NEW LUXURY RESIDENCE(ニューラグジュアリーレジデンス)」を副題に、住人一人ひとりに「自分らしい豊かさ」を感じてもらうことを目指すBrilliaにとって「アート」はまさに最適解。Brillia 高輪 REFIRや、Brillia 一番町などで、著名作家がその土地や場にあわせて制作したコミッションワークをはじめ、共用部分へのアート作品の設置を推進してきた。また、Brilliaでは、2018年から時代を切り開くアーティストとの出会いや応援を目的とした立体作品の公募展「Brillia Art Award Cube」を、2024年からは平面作品に特化した「Brillia Art Award Wall」を開催しており、東京建物八重洲ビルにある「THE GALLERY」や「Brillia Gallery 新宿」で受賞作品を展示してきた。
こうしたアート活動の中で2021年に誕生したのが、東京・京橋に所有する空きビルを活用したギャラリー「BAG-Brillia Art Gallery-(BAG)」というわけだ。BAGの立ち上げから企画に携わる彫刻の森芸術文化財団の齋藤は、「アートの入り口となるようなスペースでありたい」との思いから、BAGのテーマを「暮らしとアート」に据えたのだと振り返る。
記念すべき第1回目の展覧会は、「ヘラルボニー/ゼロからはじまる」(2021年10月15日~2022年1月23日)。障害のある作家のアート作品をIP(知的財産)ライセンスとして管理し、アパレルやライフスタイル雑貨としても展開する自社ブランド「HERALBONY」のプロダクトや原画作品を展示・販売した。
また、同ギャラリーは前述の浅田政志の個展や、落合陽一個展「昼夜の相代も神仏:鮨ヌル∴鰻ドラゴン 」(2024年9月7日~ 10月27日)などの展覧会を通して、京橋地域の歴史を紐解いた。そのほか、写真や器、音楽など柔軟なアプローチでアートの楽しさと豊かな暮らしのヒントを伝えてきた。
新たな世界に繋がる終わり
京橋三丁目東地区における再開発に伴い、BAGはその歴史に幕を下ろすことになるが、同社は今後も自社アセットを活用したアートへの取り組みを考えているという。
齋藤は、「この4年間で、京橋やその近辺で働く方や、銀座から日本橋にかけての美術館やギャラリー巡りの一環として足を運んでくださる方の認知度が高まり、次の展覧会を楽しみにしてくださる方が多くなりました。私自身、今回で終わりという感覚が無いんです。新たな何かに繋がっていくための終わりなのではないかと思います」と話す。
暮らしとアート
会期:9月13(土)~10月26日(日)
場所:BAG-Brillia Art Gallery-(東京都中央区京橋三丁目6-18 東京建物京橋ビル1F・B1F)
時間:11:00~19:00
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)