JIMMY CHOO、銀座旗艦店にカフェをオープン! KAZZROCKのグラフィティが彩る新空間
英国のスピリットと東京のストリートカルチャーが交差する新たな場が、銀座に誕生した。グローバルラグジュアリーアクセサリーブランドのJIMMY CHOOが旗艦店に併設して開いた「JIMMY CHOO Street Café Ginza」では、伝説のグラフィティ・アーティスト、KAZZROCKの作品が空間を彩り、ブランドの原点に通じる90年代イーストロンドンの精神を体現している。

グローバルラグジュアリーアクセサリーブランド「JIMMY CHOO」が9月12日、銀座の旗艦店「JIMMY CHOO GINZA CONCEPT STORE」に併設する形で、新たにカフェ「JIMMY CHOO Street Café Ginza」をオープンした。
2023年12月に誕生したこの旗艦店は、同ブランドの国内最大規模を誇る。パリとニューヨークを拠点に活動し、クロスビー・スタジオの創設者でもある建築家ハリー・ヌリエフが設計を担当した2階建ての空間は、その壁面をJIMMY CHOOのアイコニックなオイスターカラーのシューズボックスが覆い、シューズやバッグなどの商品を引き立てる舞台となっている。
その一角にブランド初のストリートカフェがオープン。ブランド生誕の地であるイーストロンドンのムードを東京の中心で再現している。
店内を印象的に彩るのは、設立当時に使われていたウィンターブルームという名のパープルカラー。ウィンターブルームと白のストライプ柄テントが天井を覆い、階段状に積まれた鮮やかなパープルのコンテナには花々が咲き誇る──ここは、さながら銀座の真ん中に現れた親密なイングリッシュガーデンのようだ。そんなエレガントで粋な遊び心をたたえた開放的な空間で提供されるのは、フィッシュ&チップスやスコーン、ジントニックといったイギリスのクラシックメニュー。さらに空間に遊び心の効いた「違和感」を与えているのが、日本のグラフィティ・シーンを長きにわたって牽引してきたレジェンド、KAZZROCKが特別に制作したグラフィティ作品だ。ここは、ブランドの英国的スピリットと東京のストリートカルチャーが交差する場所でもあるのだ。
YBAを生んだ90年代イーストロンドンの精神
1996年にハンドメイドの靴工房から出発したJIMMY CHOOが拠点を構えたロンドンのイーストエンドは当時、ショーディッチやホクストンを中心に、急速に変貌を遂げていた。かつては倉庫街や移民労働者の街だったこのエリアに、90年代に入ると若手アーティストやデザイナーが集まり始め、ロンドンのカルチャーシーンの震源地となったのだ。
ショーディッチの壁にはグラフィティが次々と描かれ、倉庫での違法レイヴからクラブカルチャーが大きく発展。ホクストンではヤング・ブリティッシュ・アーティスツ(YBA)の世代──ダミアン・ハーストやトレイシー・エミンら──が台頭し、挑発的な作品で世界のアートシーンを驚かせた。こうしてイーストロンドンは、音楽・アート・ファッションの一大実験場として国際的にも高い注目を集めた。
そんなイーストロンドンの文化的土壌と深く共鳴しながら、精緻なクラフツマンシップとグラマラスな美意識を融合させ、ストリートのエネルギーをラグジュアリーへと昇華していったJIMMY CHOOの原点を体現するコラボレーターとして、KAZZROCKに白羽の矢が立ったのは不思議ではない。
JIMMY CHOOとKAZZROCKの共鳴
1980年代後半、高校生だったKAZZROCKは友人から見せられた写真集『サブウェイ・アート』に大いなる刺激を受け、グラフィティにのめり込んでいく。1990年代には、当時の日本におけるストリートカルチャーを牽引する存在だった渋谷や桜木町といった都市空間を舞台に活動を広げ、さらには「本場を見なければ」という思いから渡米。ロサンゼルスを拠点とする世界的グラフィティアート団体「CBS」に日本人で唯一のメンバーとして所属するなど、エスタブリッシュされたアート業界がグラフィティに見向きもしなかった時代から、彼はスプレー缶を手に、現在まで表現を続けてきた。その30年以上にわたる活動を讃えると、当の本人は、「日本のストリートアートのパイオニアって言われるけど、純粋に絵が好きだっただけ。たまたま早い時期にグラフィティに出会ったのが幸運だった」とあくまで冷静、穏やかだ。
描くことは「ライフスタイルそのもの」と話すKAZZROCKは、今回のコラボレーションにあたりブランドの姿勢に共感したという。
「JIMMY CHOOはブランド設立から今に至るまで、常に新しいものを受け入れ、挑戦してきた。その姿勢こそ俺自身がいつも意識していることであり、大いに尊敬する。そんなブランドと一緒に仕事ができて純粋に嬉しいし、すごく自由にやらせてもらった」
制作では、カフェの空間全体をグラマラスに引き締める紫、そして植物に着想を得たというグリーンをベースに、インスタレーション的な空間づくりを意識したという。「アートだけが目立つのではなく、天井を伝うライトの色や全体の雰囲気と調和することを目指した。フリースタイルで描くからこそ、その場のバイブスを大切にしてる」とKAZZROCKは話す。
作品の中には、彼のアイコン的存在である三つ目のアヒル「DUCKLE」や、JIMMY CHOOを象徴する星のスタッズのモチーフも盛り込まれた。
「ブランドから指定はなかったけど、ラインナップを見て自分なりに可愛いと思った要素をアクセントとして取り入れた。お客さんが座って写真を撮っても映えると思う」と笑うKAZZROCKにとって、グラフィティは「社会に対する反骨精神を示すもの」でも「強いプロパガンダの手段」でもないのだという。
「俺にとって作品は実験。常に自分の作品が更新されていくことを意識しながら、街や自然の風景、人々の装いなどから得た新たな視点を、それぞれの作品の中で表現しているだけ。まだもっといけるだろう、まだやれるだろうって思ってる。だからゴールはないんです」
そんな自由な態度は、創立30周年を目前に控えるJIMMY CHOOの歩みにも重なるだろう。ブランドが進化し続けるように、もしかしたらKAZZROCKは今後もこのカフェに時折現れては、アートワークを密かに更新していくかもしれない。そんな期待を伝えると、「それも面白いかもね」と楽しそうに笑った。
英国的スピリットと東京のストリートカルチャーが交差する「JIMMY CHOO Street Café Ginza」。その空間は、ブランドの新たな顔であると同時に、日本の現代アートシーンにとっても注目すべき場となりそうだ。

東京都出身。1980年代後半にグラフィティを始め、1990年代にはロサンゼルスのグラフィティアート団体「CBS」の唯一の日本人メンバーとなる。帰国後は個展やデザイン提供、アパレルブランド「KAZZROC ORIGINAL」の立ち上げなど、多岐にわたる活動を展開。代表的なキャラクター「DUCKLE(ダックル)」や、鮮やかな色彩とユーモアを融合させた作品で国内外で高く評価され、現在も日本を拠点に、キャンバス作品なども含めて精力的に活動中。Photo: Yoko Nakata