今週末に見たいアートイベントTOP5:宮島達男が数字で灯す東日本大震災の記憶、14人の作品から戦後日本の女性作家を再考
関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

1. System of Culture 個展「Exhibit 8:Pieces of Narratives」(MAHO KUBOTA GALLERY)
断片から立ち上がる新しいナラティブのかたち
2017年、3人のアーティストによるコレクティブとして始動し、現在は小松利光のアーティストネームとして活動を続けるSystem of Culture(システム・オブ・カルチャー)。SNSやAIが日常のあらゆる判断を揺さぶる現代社会を、メタ的な眼差しで捉え、美術史の構造を参照しながら作品化してきた。
本展では、新シリーズ「Pieces of Narratives」を初公開する。31枚の写真から構成されるインスタレーションで、ランダムに提示されるイメージの集積が「物語のデータベース」として機能する仕組みだ。写真に登場するモチーフやロケーションの選定にはAIが用いられ、作家の恣意を部分的に手放すことで、個人の経験を越えた「集合的なナラティブ」が立ち上がる。さらに今回は、文筆家・伊藤亜和、脳科学者・中野信子、アーティスト・布施琳太郎の3人が、31枚の中から任意の作品を選び、そこから着想して執筆した短編テキストも展示されている。イメージとことばが交差しながら、鑑賞者それぞれの内側で物語が芽生えるような、複層的な展示構成となっている。
System of Culture「Exhibit 8:Pieces of Narratives」
会期:11月12日(水)〜12月27日(土)
場所:MAHO KUBOTA GALLERY(東京都渋谷区神宮前2-4-7)
時間:12:00〜19:00
休館日:日月祝
2. 横田大輔 写真展「植物、多摩川中流域」(スタジオ35分)
観察と写真のあいだの「ずれ」を見つめて
写真という媒体の物質性と変容のプロセスを扱い続けてきた作家・横田大輔。複製や劣化、写真感材そのものを暗室で変質させる試みは、写真表現の根幹を問い直す実験として国内外で高く評価されてきた。そんな横田が近年向き合っているのは、多摩川中流域の風景とそこに自生する植物だ。本展で紹介されるシリーズは、4×5インチの大判カメラを携え、現地での観察と撮影を積み重ねたもの。特にカラシナ(アブラナ科)を繰り返し撮影する姿勢には、何気ない雑草の向こう側に作家自身の視線が引き寄せられていく過程が刻まれている。
横田はこの制作で、「観察すること」と「写真を撮ること」が容易には重ならないという違和感に直面したという。対象を見るためにカメラを構えるほど、見る行為そのものが分断されていく——その実感の積み重ねが、本作の根底を流れている。植物の前に立ち、カメラと対象が交わす「会話」を静かに見守るような態度は、横田の制作における新たな局面を示していると言えるだろう。写真とは何を見せ、どこまで世界を奪うのか。横田の最新作は、写真という媒体に向けられた根源的な問いを、川辺の静かな風景の中にそっと置き直す。
横田大輔 写真展「植物、多摩川中流域」
会期:11月19日(水)〜12月27日(土)
場所:スタジオ35分(東京都中野区上高田5-47-8)
時間:16:00〜22:00
休館日:日月火
3. 宮島達男 個展「To Sea of Time - TOHOKU」(Akio Nagasawa Gallery Ginza)
数字が灯す、東日本大震災の記憶
LEDカウンター作品で「変わりつづける時間」を探求してきた宮島達男。本展では、東日本大震災の記憶を未来へ手渡す「時の海 - 東北」プロジェクトから派生したシルクスクリーン作品「Life Face for Sea of Time - TOHOKU」が並ぶ。同じ「版」から毎回異なる数字の配置が現れるという独自の構造をもち、紙の上に無数の「瞬間」が立ち上がる。
宮島は震災直後に被災地へ入り、深い無力感とともに「アートが何を継承できるのか」という問いと向き合った。そこから生まれたのが、3000人がそれぞれLEDの点滅速度を設定する参加型の「Sea of Time - TOHOKU」だ。数字が9から1へとゆっくり消えては戻るリズムには、生命の連続性や喪失の記憶が静かに重ねられている。本展の版画作品は、その光の海の原理を平面へ凝縮したものと言える。静かな数字の列は、見るたびに異なる表情を見せ、個々の「生」の揺らぎを思わせる。現在、その作品を恒久設置する《時の海 - 東北》美術館(仮称)を、東京電力福島第一原子力発電所事故によって全町避難を経験した福島県富岡町の沿岸部に建設することを目指しファンドレイジングを進めており、本展での売り上げの一部は美術館建設のための費用として使用される。
宮島達男 個展「To Sea of Time - TOHOKU」
会期:12月4日(木)〜2026年1月31日(土)
場所:Akio Nagasawa Gallery Ginza(東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F)
時間:火〜土曜 11:00~19:00(土曜13:00〜14:00はCLOSED)
休廊日:日月祝、12月28日(日)〜1月5日(月)
4. 冨安由真「This Is Not A Dream」(Gallery Restaurant 舞台裏)
夢と現実のはざまの、奇妙な食卓
レストランとギャラリーが同居する場で発表される冨安由真の新作は、誰かの家のダイニングを思わせる空間を舞台にしたインスタレーションだ。2人分の食卓が整えられ、メニューが置かれた、いわば「安らぎ」の象徴のような風景が広がる。一方で、皿からこぼれる粘土のような物体や、止まったままのデジタル時計、棚上に置かれた不思議なオブジェなど、いくつもの異物がさりげなく混在する。展示中には照明が落ち、窓の外だけが明るくなり、風が吹き込む演出もあり、鑑賞者は室内の「時間」の流れが揺らぐような体験に包まれる。冨安がこれまで扱ってきた、目には見えない存在や説明のつかない現象を扱う姿勢が、この家庭的な空間の中に丁寧に織り込まれている。
作家によれば、本作は「夢」を軸とする長編的な構想の序章にあたるという。現実の風景の中にわずかなほころびを差し込み、鑑賞者の感覚を静かに撹拌することで、夢と現実の境界をゆっくりと曖昧にしていく。会期中には、実際にこの食卓で食事をしながら体験する参加型パフォーマンスも予定されており、鑑賞者は「日常の行為」を通して空間の内側に深く入り込むことになる。ごく私的な空間に潜む微細な異変が、冨安の手によって新たな物語の入口として立ち上がる展示だ。
冨安由真「This Is Not A Dream」
会期:12月5日(金)〜2026年1月25日(日)
場所:Gallery Restaurant 舞台裏(東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F)
時間:11:00〜20:00
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)
5. アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦(東京国立近代美術館)
女性美術家が切り拓いたもう一つの戦後
戦後に注目を浴びながらも、見落とされてきた女性美術家による美術の歴史をめぐって、14人の美術家・約120点の作品を紹介する展覧会。特に1950年代から60年代の日本の女性美術家による創作を「アンチ・アクション」というキーワードから見直す。
当時、日本では短期間ながら女性美術家が前衛美術の領域で大きな注目を集めた。これを後押ししたのは、海外から流入した抽象芸術運動「アンフォルメル」と、それに応じる批評言説であった。しかし、次いで「アクション・ペインティング」という様式概念が導入されると、女性美術家たちは如実に批評対象から外されてゆく。豪快さや力強さといった男性性と親密な「アクション」の概念に男性批評家たちが反応し、伝統的なジェンダー秩序の揺り戻しが生じたためだ。本展では『アンチ・アクション』(中嶋泉[本展学術協力者]著、2019年)のジェンダー研究の観点を足がかりに、草間彌生、田中敦子、福島秀子ら14人の作品およそ120点を紹介する。「アクション」の時代に別のかたちで応答した「彼女たち」の独自の挑戦の軌跡に注目したい。
アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦
会期:12月16日(火)〜2026年2月8日(日)
場所:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
時間:10:00〜17:00(金土曜は10:00〜20:00)
休館日:月曜(1月12日は除く)、12月28日〜1月1日、1月13日




























