盗まれたルーブル宝飾品が思わぬ「再生」──スキャパレリがウジェニー皇后のティアラを再解釈
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
昨年10月のルーブル美術館窃盗事件で奪われた宝飾品が、思わぬ再生を遂げた。1月26日、パリのプティ・パレで行われたスキャパレリのショーで、それらを再解釈したジュエリーが披露され、注目を集めている。

パリ・オートクチュール・ウィーク(2026年春夏)が始まった1月26日、スキャパレリはパリのプティ・パレで行われたクチュール・ショーにおいて、昨年10月19日に起きたルーブル美術館の窃盗事件で盗まれた宝飾品をモチーフにしたジュエリーを発表した。アートネットが伝えた。
フロントロウには、映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』で初のゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞し、アカデミー賞ノミネートも果たしたアメリカ人女優兼シンガーのテヤナ・テイラーが登場。レースドレスの上に黒のロングコートを重ねた彼女は、スキャパレリのデザイナーであるダニエル・ローズベリーが手掛けた真珠とダイヤモンドで作られた豪奢なクラウンと、ダイヤモンドをふんだんにあしらった大ぶりのコサージュを身に着けていた。
実は、この2点はルーブル窃盗事件で盗まれた宝飾品、すなわち皇后ウジェニーが所有していた真珠とダイヤモンドのティアラと、大ぶりのダイヤモンド製コサージュ・ボウを再解釈して制作されたものだ。
このジュエリー制作の背景について、ローズベリーはヴァニティ・フェア誌に次のように語っている。
「ルーブルから宝飾品が盗まれた直後、偶然仕事帰りに美術館付近を散歩しながら家に向かっていました。そのとき、盗まれた宝飾品を再解釈できたら素敵ではないか、と思ったのです」
テイラーがこのジュエリーを身に着けて会場入りする様子を投稿したインスタグラムの動画には、現在約35万件の「いいね!」が集まっており、その注目度の高さを物語っている。
スキャパレリを率いて7年目となるローズベリーは、デザインにおいて、本人が繰り返し言及するように「8歳児の想像力」のような無邪気さ、過剰さ、直感を重視してきた。2023年春夏オートクチュール・コレクションでは、模造品の大きなライオンの頭部をドレスに取り付けた黒いベルベットドレスを発表し、大きな話題を呼んだ。一方で、彼のコレクションは極めて洗練されており、この無邪気さと高度な完成度の二面性こそが、ローズベリーの個性となっている。
今シーズンのスキャパレリのコレクションテーマは、「苦悩と歓喜(The Agony and the Ecstasy)」。ローズベリーはコレクション・ステートメントの中で、クリエイティブ休暇中に訪れたローマのシスティーナ礼拝堂で、ミケランジェロの芸術から強い影響を受けたと語っている。
礼拝堂の壁面は、すでにボッティチェリら前世代の画家たちによる壁画で覆われていた。しかし、首を天に向け、1508年にミケランジェロが天井に描いたフレスコ画を目にした瞬間、「思考が止まる」ほどの衝撃を受けたという。ローズベリーはミケランジェロの創造について、「神、宗教、信仰、そして人間の在り方を、荒々しく、視覚的に奔放で、脆く、かつロマンティックに想像したもの」だと評し、こう続けている。
「そこには苦悩と歓喜が入り混じり、恐ろしくもあり、同時にこの上なく美しい。彼は出来事を説明するのではなく、芸術を前にしたときにどう感じてよいのか、その自由を観る者に与えたのです。今季のスキャパレリのコレクションの核心は、見た目がどうかではなく、それを創るとき、見るときに私たちが何を感じるか、という点にあります」

1. ハンムラビ法典(紀元前1792-1750年頃)|Photo: Wikipedia Commons/Mbzt
2. コルサバードの有翼人面牡牛像(紀元前713-705年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Thierry Ollivier
3. 射手の壁面装飾(紀元前522-486年頃)|Photo: Copyright ©2015 Musée du Louvre / Thierry Ollivier
4. エビフ・イルの像(紀元前2500–2340年頃)|Photo: Copyright ©2011 Musée du Louvre / Raphael Chipault
5. カロママの像、アメンの神聖なアドラトリス(紀元前865-809年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre / Christian Décamps
6. タニスの大スフィンクス(紀元前2620-2500年頃)|Photo : Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Christian Décamps
7. 書記座像(紀元前2620-2500年頃)|Photo: Copyright ©2015 Musée du Louvre / Christian Décamps
8. サモトラケのニケ(紀元前200-190年頃)|Photo: Copyright ©2014 Musée du Louvre / Philippe Fuzeau
9. ミロのヴィーナス(紀元前150-125年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Anne Chauvet
10. 夫婦の棺(紀元前520–510年頃)|Photo: Wikimedia Commons / Jérémy-Günther-Heinz Jähnick
11. ガビイのディアナ(紀元前4世紀)|Photo: Wikipedia Commons/Marie-Lan Nguyen
12. アル・ムギーラの小箱(968年)|Photo: Wikimedia Commons/Marie-Lan Nguyen
13. モンソンのライオン(975-1100年頃)|Photo: Wikimedia Commons/G. Garitan
14. レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナリザ》(1503-1519)|Photo: Wikimedia Commons/C2RMF
15. ヨハネス・フェルメール《レースを編む女》(1669-1670)|Photo: Wikimedia Commons
16. ジャック=ルイ・ダヴィッド《皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式》(1806-1807)|Photo: Wikimedia Commons
17. ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》(1830)| Photo: Wikimedia Commons
18. ミケランジェロ《抵抗する奴隷》《瀕死の奴隷》(1513-1515) |Photo: Wikimedia Commons/Shonagon
19. グレゴール・エアハルト《マグダラのマリア》(1515-1520年頃)| Photo: Wikimedia Commons/Leyo
20. ギヨーム・クストー(1739-1745)|Photo: Wikimedia Commons/Jastrow
21. アントニオ・カノーヴァ《プシュケとクピド》(1787-1793) |Photo: Wikimedia Commons/Jean-Pol Grandemont
22. フランス王冠の宝石P(1710-1774)|Photo: Wikimedia Commons/Cristian Bortes
23. マリー・アントワネットのシリンダーデスク(1784) |Photo: Wikimedia Commons/Tangopaso
24. ナポレオン3世の居室|Photo: Wikimedia Commons/Daniel Perez Sutil
25. アケテテプの墓(紀元前2445–2385年頃) |Photo: ©2003 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/ Christian Décamps
26. エジプトのミイラ(紀元前305-30年頃)|Photo: Wikimedia Commons/ Shonagon
27. 聖ルイ王の洗礼盤(1325–1340)|Photo: ©2009 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/ Hughes Dubois
28. 詩作競争のタイル画(1600–1700年頃)|Photo: ©2012 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/Raphaël Chipault
29. ロッソ・フィオレンティーノ《ピエタ》(1530–1540)|Photo: ©1998 GrandPalaisRmn (Musée du Louvre)/René-Gabriel Ojéda
30. ジャンヌ・デヴルーの聖母子像(1324–1339)|Photo: Wikimedia Commons/Shonagon