トルコ・カラマン県にあるトプラクテペの古代都市エイレノポリスの発掘調査で、7世紀から8世紀頃のパン5個が見つかったとTurkey Todayが報じた。
発掘調査は、トルコ文化観光省文化遺産・博物館総局の許可のもと、カラマン博物館が主導し、同館館長のエルジャン・エルが発掘責任者を務めている。
今回見つかったパンは大麦粉で作られており、直火または高熱によって引き起こされた低酸素状態により炭化していたため元の形状が保たれていた。そのうちの1つのパンには、「農夫」または「種を蒔く者」としてのキリストの姿と、「祝福されたイエスへの感謝とともに」と訳されるギリシャ語の銘文が刻印されていた。このように、全能者としてではなく、労働や農業的豊穣との結びつきを象徴してキリストの姿が描かれるケースは非常に珍しいという。残りの4つには十字形の刻印があり、これらのことから、パンはいずれも初期キリスト教における聖餐または聖体拝領の用途として使用された可能性を示唆している。
エイレノポリス遺跡の発掘調査で見つかった1300年前のパン。Photo: Karaman Governorship
エイレノポリス遺跡の発掘調査で見つかった1300年前のパン。Photo: Karaman Governorship
エイレノポリス遺跡の発掘調査の様子。Photo: Karaman Governorship
エイレノポリスは、コンスタンティノープル総主教庁の下にあった都市であり、ヘレニズム時代(紀元前323年~31年)以降に成立したと考えられている。都市名は、主要言語であったギリシャ語のエイレネ(平和)とポリス(都市)を組み合わせて付けられた。この時期、トルコを含むアナトリア半島には古代ギリシャの文化が広く普及しており、パンに刻まれたギリシャ語の銘文は、ギリシャの典礼の伝統を持つキリスト教が都市に広まっていたことを浮き彫りにしている。
その中でも「農夫」のキリスト像が描かれた理由については、エイレノポリスはコンスタンティノープルのような大都市とは異なって農業が盛んであり、信仰が人々の主要産業である農業と密接に結びついていたことを示している。
近年アナトリア半島各地では、古代の食糧の遺物の発見が相次いでおり、トルコの食文化の歴史にまつわる穴が埋められつつある。これまで2023年6月にキュタフヤのタヴシャンル・ヒュユク遺跡から約4000年前のひよこ豆が発見され、2024年3月にはコンヤのチャタルヒュユク遺跡から約8600年前に遡るパンが見つかっている。今回見つかったパンは現在学際的分析が進行中であり、当時の共同体における製パン技術、材料、宗教的象徴性が明らかになることが期待されている。
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