今週末に見たいアートイベントTOP5:日本の現代美術を俯瞰する「六本木クロッシング」、古代アンデスの至宝約130点が大集結!

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠(森美術館)より、A.A.Murakami 《ニュー・スプリング》 2017年 アルミニウム、ロボティクス、泡、霧、香り 700×700×700 cm  展示風景:「New Spring」ミラノサローネ2017

1. 特別展「プラカードのために」(国立国際美術館)

笹岡由梨子個展「Animale」展示風景、
2025年、PHD Group、香港
Courtesy of the artist
and PHD Group.
Photo by Felix SC Wong.
田部光子《プラカード》1961年、
東京都現代美術館蔵
志賀理江子《風の吹くとき》
2022-2025年 ©liekoshiga

社会と個の声を問う7人の作家

美術家・田部光子(1933-2024)は1961年に記した「プラカードの為に」と題した文章において、「大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作り」、その「たった一枚のプラカードの誕生によって」社会を変える可能性を語った。過酷な現実や社会に対する抵抗の意思や行為、そしてそのなかに田部が見出した希望は、同年に発表された作品《プラカード》に結実する。

田部の言葉と作品を出発点とする本展は、それぞれの生活に根ざしながら、生きることと尊厳について考察してきた田部を含む7人の作家の作品で構成される。出展作家は牛島智子、志賀理江子、金川晋吾、谷澤紗和子、飯山由貴、笹岡由梨子。作家たちは、これまで社会の中で覆い隠されてきた経験や心情に目を凝らし、思考し、自ら実践することで、既存の制度や構造に問いを投げかける。そして作品を通じて、私たちを取り巻く社会やその歴史を見つめ直し、抵抗の方法を探りながら、表現することの意味に立ち返る。

特別展「プラカードのために」
会期:11月1日(土)~2026年2月15日(日)
場所:国立国際美術館(大阪市北区中之島4-2-55)
時間:10:00~17:00(金曜は20:00まで)
休館日:月曜日(1月12日を除く)、12月28日~1月5日、1月13日


2. 植松永次「芽の出るところ」(Gallery 38)

展示風景。Photography: Osamu Sakamoto
Photography: Osamu Sakamoto
Photography: Osamu Sakamoto
Photography: Osamu Sakamoto

土との対話を通じて生まれるかたち

1949年に兵庫県に生まれた植松永次は、1970年初頭よりレリーフ制作から始め、その後、様々な土地で約53年に渡って土との対話を通じて作品を生み出してきた。現在は三重県伊賀市で制作を続ける植松は、「表現する前に、まず土と向き合う時間がある」と語る。土そのものが持つ力に耳を傾けながら、伊賀の四季の移ろいとともに手を動かす日々を重ねている。

本展のタイトル「芽の出るところ」は、展示される植松の作品名から取られている。植松の作品には、流動する泥の軌跡や、焼成によって刻まれた亀裂や歪みが色濃く残されており、技法や概念に縛られることなく、土が語りかけてくるものに応答する制作姿勢が宿っている。効率と速度に支配される日常の中で、土が持っている美しさ、自然の中にある本質的なものに目を向けることを示唆している。

植松永次「芽の出るところ」
会期:11月5日(水)〜12月14日(日)
場所:Gallery 38(東京都渋谷区神宮前2-30-28)
時間:12:00~19:00
休廊日:月火祝


3. オランダ×千葉 撮る、物語る(千葉県立美術館)

ダヴィット・ファン・デル・レーウ&サラ・ファン・ライ《2羽の鳩、ニューヨーク》2022年 (c) David van der Leeuw & Sarah van Rij
清水 裕貴《浮上〈沖ノ島の隆起地層〉》2024年 (c)Yuki Shimizu
サラ・ファン・ライ 2020年 〈Still Life〉より
清水裕貴 《戸定邸(1)》

2つの視線が映す、記録と記憶

アムステルダムとパリを拠点に活動するオランダ出身の写真家、サラ・ファン・ライとダヴィット・ファン・デル・レーウと千葉在住の写真家・小説家である清水裕貴の作品を展示する。ファン・ライとファン・デル・レーウは、光や影、反射を巧みにとらえた抽象的なストリートフォトで世界的に注目を集めてきた。本展は、彼らの代表的シリーズ「Metropolitan Melancholia」「Still Life」を中心に、約80点を日本で初めて紹介する。サラ・ファン・ライは、自身のアプローチを「カンヴァスを埋めていくようにイメージをフレーミングする」と語る。彼らの作品は、その手法を通して、まるでシュルレアリスムの絵画のように超現実的な世界観を展開している。

展覧会をもうひとつの軸として支えるのが、清水の作品だ。清水は、ある土地の歴史や伝承を紐解きながら、写真と言葉で架空の物語世界を紡ぎあげるという独自の創作スタイルで制作してきた。本展では、写真1300枚以上を含む資料を残した水戸藩第11代藩主徳川昭武が後半生を過ごした、松戸の戸定邸に焦点を当てる。清水は、在りし日の姿をとどめようとする人間の行為に目を向け、撮ることで過去の記録が未来にどう継承されるか、4つのセクションで構成される壮大なインスタレーションで問いかける。

オランダ×千葉 撮る、物語る ーサラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ×清水裕貴
会期:11月15日(土)~2026年1月18日(日)
場所:千葉県立美術館(千葉県千葉市中央区中央港1-10-1)
時間:9:00~16:30
休館日:月曜、12月28日~ 1月4日、1月13日


4. CREVIA マチュピチュ展(森アーツセンターギャラリー)

<羽飾りが付いた頭飾り> 1100-1470年 ラルコ博物館所蔵 © MUSEO LARCO, LIMA – PERU
<モザイク状の鳥の戦士の耳飾り> 紀元後100–800年 ラルコ博物館所蔵 ©MUSEO LARCO LIMA – PERU
<アイ・アパエックの顔を表した埋葬用仮面> 西暦100~800年『ラルコ博物館』所蔵 (C)MUSEO LARCO LIMA – PERU

約130点の文化財と迫力の映像で古代アンデスを体感

2021年にアメリカでの開催を皮切りに世界を巡回し、これまでに54万人以上を動員した国際展。会場には、ペルーの首都リマのラルコ博物館が所蔵する約130点が集結。その中には、王族の墓から出土した黄金の装飾品や神殿儀式で用いられた祭具など、日本初公開となるものも含まれている。

展示では文化財の紹介にとどまらず、インカ帝国の都市遺跡「マチュピチュ」の独自技術を用いた没入型再現空間が、来場者を引き込む。また、アンデス神話の英雄アイ・アパエックの冒険譚を軸に構成された壁面のビジュアル・ストーリーテリングが、当時の世界観や信仰を追体験する手がかりとして機能。古代アンデスの精神文化を多層的に読み解く場となっている。

CREVIA マチュピチュ展
会期:11月22日(土)~2026年3月1日(日)
場所:森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52F)
時間:10:00~19:00(金土祝前日は20:00まで)
休館日:なし


5. 六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠(森美術館)

桑田卓郎
《無題》
2016年
磁土、釉薬、顔料、鋼鉄、金、ラッカー
288×135×130 cm
沖 潤子
《甘い生活》
2022年
綿、亜麻、絹
55.0×35.5×9.8 cm
Courtesy: KOSAKU KANECHIKA, Tokyo
撮影:木奥惠三
A.A.Murakami
《ニュー・スプリング》
2017年
アルミニウム、ロボティクス、泡、霧、香り
700×700×700 cm
展示風景:「New Spring」ミラノサローネ2017

「時間」をテーマに日本の現代アートを見つめ直す

森美術館が3年に一度開催する日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会シリーズの第8回目。今回は「時間」がテーマ。森美術館のキュレーターに加えて国際的に活動するアジアのゲストキュレーター2人を迎え、国籍を問わず日本で活動する、もしくは日本にルーツがあり海外で活動するアーティスト全21組を紹介する。

出展作品には、絵画、彫刻、映像はもとより、工芸、手芸やZINE、さらにはコミュニティプロジェクトも含まれる。建築、デザインの領域を越え、ロンドン・東京を拠点に活動するアーティストデュオA.A.Murakamiの没入型インスタレーションや陶芸家・桑田卓郎の大型作品群、舞台作品なども手掛ける細井美裕の新作サウンドピース、沖潤子による抽象画のような刺繍作品など、多様な表現が一堂に会する。各作品に現れる様々な時間の交差を通して、日本のアートを多角的に見つめ直すことができるだろう。

六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠
わたしたちは永遠 会期:12月3日(水)〜2026年3月29日(日)
場所:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53F)
時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで)
休館日:なし

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