ポンペイの犠牲者のDNA分析で従来説を覆す新たな発見。「現代人の思い込みは間違っていた」
紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火で灰に埋もれたポンペイ。そこで生き埋めになった犠牲者のDNA分析から、性別や遺伝的関係がこれまでの説とは異なることが分かった。
ヴェスヴィオ火山噴火の火砕流に見舞われたポンペイは住民ごと灰に埋もれ、遺体があった場所が空洞として残された。19世紀に発見されたとき、そこに石膏を流し込んで犠牲者の型が取られたが、その際、石膏像の中に遺骨の断片が閉じ込められた。今回の研究では、この骨片からDNA分析を行った結果、これまでに考えられていた犠牲者同士の関係や性別が誤りだったことが明らかになっている。
たとえば、ブレスレットを付け、子どもを膝に乗せた大人は、これまで母親とその子どもだと考えられていた。しかしDNA分析では、大人は男性で、子どもとは遺伝的関係がないことが判明した。また、抱き合ったまま亡くなっていた2人の人物は、従来は姉妹と見られていた。しかし研究結果では、少なくともそのうちの1人は男性であったことが示されている。
11月7日付で学術誌のカレント・バイオロジーに発表されたこの研究は、ポンペイ遺跡について長年語られてきた仮説を科学的に検証するものだ。研究者たちは、従来の説は現代人の感覚で古代遺跡からの発見物を解釈した結果、生まれたものとしている。そのため、ほかにも誤った仮説があるかもしれない。
ハーバード大学医学大学院とドイツのマックス・プランク進化人類学研究所に在籍する考古遺伝学者で、研究論文の著者の1人であるアリッサ・ミトニクは、ライブサイエンス誌でこう指摘している。
「DNA分析の結果は、現代的な仮定に基づく誤った解釈を避けるためには、遺伝学的データと考古学的・歴史学的情報を統合することが重要であることを浮き彫りにしています」
論文の要約によると、ポンペイの人々は主に「地中海東部からの移民の子孫である」こともDNA分析で判明した。ミトニクはニューヨーク・タイムズ紙に、これは古代ローマの支配地域の広がりや、移民および外国人の奴隷化などの要因によるものだと語っている。
やはりこの研究に関わっているハーバード大学の遺伝学者、デイヴィッド・ライクもニューヨーク・タイムズ紙の取材に応じ、視覚的な情報だけでは十分ではないことを強調。DNA分析で得られた新しいデータは、考古学的な情報をいかに慎重に見なければならないかを示唆しているとしてこう述べた。
「この結果は、自分たちの解釈を疑ってみること、謙虚であることの大切さを教えてくれるものだと思います」
(翻訳:石井佳子)
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