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約5900年前、なぜ北欧の狩猟採集民は消えたのか。DNA解析を用いた研究から新たな結論

国際研究チームが学術誌「Nature」で発表した4つの論文から、約5900年前に北欧で起きた急激な人口変動に新説が浮上した。これまでの「平和的」理由ではなく、暴力や病原体による死が原因の可能性が高いという。

16歳ほどの女性のものと考えられる、紀元前3500〜3400年ごろの頭蓋骨。コペンハーゲンのデンマーク国立博物館所蔵。Photo: Prisma/Universal Images Group via Getty Images

イギリス・ケンブリッジ大学、デンマーク・コペンハーゲン大学、そしてスウェーデン・ルンド大学などが参加する国際研究チームが学術誌「Nature」で発表した4つの論文から、約5900年前にスカンジナビアに最初にやってきた農耕民が、ほんの数世代のうちに狩猟採集民を一掃していた可能性が浮上した。研究チームは、先史時代の人類の骨と歯のサンプルのDNA解析によって、この新たな結論を導き出した。地質学の研究者でルンド大学・放射性炭素年代測定研究所所長のアン・ビルギッテ・ニールセンは、声明の中でこう語る。

「これまで、この人口変動は平和的に起こったと考えられてきました。しかし今回のわれわれの研究によって、その逆であったことがわかったのです。つまり、狩猟採集民たちは、暴力による死、あるいは家畜からの新たな病原体によって途絶えた可能性が高いのです」

この研究によれば、デンマークでは過去7300年の間に2度、総人口がほぼ入れ替わっている。最初の人口変動は5900年前で、起源も外見も異なる農耕民族が、それまでスカンジナビアに住んでいた採集民や狩猟民、漁ろう民(魚介類・貝類や海藻を捕獲、採集して暮らす人々)を数世代のうちにほぼ絶やしてしまったという。

それからおよそ1000年後、いまから4850年ほど前になると、ロシア南部からヤムナヤ族の祖先を持つ半遊牧の家畜牧畜民がスカンジナビアに入り、初期の農耕民に取って代わった。ニールセンは、これも暴力や病気によって起こったのかもしれない、と説明する。今日のデンマークに住むスカンジナビア人は、ヤムナヤ人と東ヨーロッパの新石器時代の人々との混血であることがわかっている。

こうした急激な人口の入れ替えは、当然ながら文化の入れ替えももたらした。例えば、論文では二度目の入れ替えによって、現代のデンマークにも通ずる単葬墳文化(Single Grave culture)が広まったことが言及されている。

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